2月5日、長野県の女神湖で氷上特設コースを利用したドライビング体験イベント「2025 iceGUARD 7 & PROSPEC Winter Driving Park」が開催された。カー・アンド・ドライバーとして参加する機会を得られたので、レポートをお届けする。
「2025 iceGUARD 7 & PROSPEC Winter Driving Park」は、ラリードライバーやモータージャーナリストとして知られる日下部保雄氏がプロデュースする氷上ドライビングレッスンで、女神湖の凍結面が安定する時期に開催されている人気イベントだ。
路面μの低い氷上路面では、クルマの挙動変化が顕著に出て、スキッドコントロールを磨くのに適している。
インストラクターには、片山右京さん、新井大輝さん、奴田原文雄さんなど多数のプロドライバーが集まった。
今年は、一般参加者と、自動車や二輪車のショックアブソーバーの製造としても評判の高い部品製造機器メーカー「カヤバ(KYB)」のラリーチームの合同ドライビングレッスンのほかに、カヤバの新技術「サステナルブ」を使用したサスペンションによる比較試乗体験会も開催された。
カヤバは、全日本ラリー活動として、2023年より全日本ラリーに参戦を開始。昨年2024年からはオールカヤバ社員チームとして、人材育成、開発品の商品化というテーマを掲げレースに参戦している。
開発車両はトヨタGRヤリスやスバルWRXが用いられ、レース参戦を通じて得られるデータやプロドライバーから得られる知見は、実際の製品の開発に役立てられている。
参戦車両のトヨタGRヤリスにもカヤバ製サスペンション技術が多く投入されているが、中でも注目なのは、ショックアブソーバーの中に収められた作動油に、トラクション性能向上と環境性能に優れた「サステナルブ」を使用している点だ。
サスペンションは、バネ状のコイルスプリングによって、路面からの衝撃を和らげ、ダンパー(ショックアブソーバー)によって、振動エネルギーを吸収して熱へと変換して揺れを減衰させている。
ショックアブソーバーの中に入った作動油は、クルマのサスペンションにとって、必要不可欠な存在だ。
サステナブル(持続可能性)とルブリケーション(機械油)と組み合わされた「サステナルブ」は、2023年9月にカヤバが世界初公開した環境に優しい作動油だ。
現在自動車のほとんどのショックアブソーバーには石油由来のベースオイル(鉱物油)が用いられているが、サステナルブでは天然由来のベースオイル(化学合成油)を使用。製造過程で大気中の二酸化炭素を吸収しカーボンニュートラルに貢献するほか、このオイルは生分解性を有しており、リサイクルや部品の廃棄の際に作動油が外に出ても自然に還る特性を持っている。
サステナルブは、環境に優しい性能以外にも走りに対しても良い効果を発揮する。
カヤバ独自の作動油生成によって、流体がダンパー内で移動する際に発生する、摩擦レスポンスをコントロールする技術を確立し、クルマのトラクション性能向上を実現している。
摩擦力には静止摩擦力と動摩擦力がある。クルマのダンパーで一番重要なのは、ダンパーが動きだす瞬間に減衰力をどう立ち上げるかにあるという。
サステナルブは従来のダンパーと同じ減衰力でありながらも、摩擦力のレスポンス向上により、クルマの応答性の向上、乗り心地の向上、静音性の向上といったダンパーとしての基本性能にも寄与している。
筆者も、サステナルブを使用したトヨタ ヤリス(FF)と、従来の石油由来のベースオイルを使用したノーマル車両のステアリングを握り、体験試乗をした。
コースは氷上のスラロームコースとハンドリングコースの2種類。両車両とも装着されるタイヤはYOKOHAMA ICEGUARD7。電子制御を切り、同条件で実施した。
筆者は雪の少ない関東圏出身ということもあり、雪道はそんなに慣れてなく氷上走行は初体験。
走行を開始すると、とにかく路面μが低く、発進から気を付けてアクセルを踏まないと簡単にホイールスピンして挙動が乱れる路面状況だった。
速度も30㎞/hも出せば、アンダーステア、オーバーステア、ドリフト、カウンターステア、そしてスピンなどの挙動が顕著に出て、スキッドコントロールをしながらクルマを操作することになる。
サステナルブの車両をドライビングして一番最初に感じたのは、20km/h~30km/hでスラロームに進入した際に、ステアリング舵を入れた瞬間だった。ノーマルと比較して反応性がいい。少ない舵角で挙動を乱さないでフロントが入る。応答性に優れていると感じる。
タイヤと路面との間で発生する走行音も比較すると静かになっているように感じた。
クルマと路面を支えているタイヤが地面に接地している面は、1輪でおよそわずかハガキ1枚ほどだ。氷上という低μ路面の上で、限られた接地面と接地圧において、ダンパーがいかに重要な役割を持っているかが実感できた。
サステナルブは、従来の石油由来のベースオイルの作動油と比較して、ダンパー内にオイルがある状態では劣化しない特性を持ち、温暖差にも従来と同様の性能を発揮できるとしている。
ただしコストは、従来品と比較すると高くなってしまうとのこと。そこで、ダンパーとしての性能を上げることで商品としての価値を上げ、コストと性能の両立を目指していくとしている。
今後、サステナルブを使用したダンパーは、多くのクルマや分野で広く使えるものを作ることを目指していくようだ。コンシュマーの手に渡ることが待ち遠しい技術だ。
ただ、走行において、氷上はなによりも路面μが低かった。
比較するとたしかにサステナルブを使用した車両のほうがコントロール性に優れていると感じた。が、そもそも氷上ではとにかく速度を上げるととたんにコントロールが難しくなる。ABSもすぐ介入して制動力が伸びてしまうし、急のつく動作はご法度だし、曲がりたいコーナーのだいぶ前から、姿勢を作っていく必要がある。
筆者としては初めての氷上走行は運転の難しさの印象が強く残ったが、極限の低μ路だからこそあらためて学ぶことも多かった。そして、サステナルブの性能を従来品と同条件で比較体感することもでき、これが市販車に採用される日がそう遠くないことに期待するばかり。今回の「2025 iceGUARD 7 & PROSPEC Winter Driving Park」は、とても実りの多い満足度の高いイベントだった。