三菱自動車(以下、三菱)は、モータースポーツブランドのラリーアートを復活させて、今年の11月にはそのモータースポーツ活動の一環で、アジアクロスカントリー・ラリーに同社のピックアップトラック、トライトンで参戦する計画を発表した。 この参戦の意義について、パリダカ(現ダカール・ラリー)で日本人初の総合優勝2連覇の経験を持ち、現在は同社でラリーアートビジネス推進室の担当部長を務める増岡浩氏に、本誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』独占でお話をうかがうことができた。
「トライトンはタイ工場で生産されているピックアップトラックです。アジアクロスカントリー・ラリーに参戦することは、アジアでの販売プロモーションに直結するプロジェクトです。しかし、それだけではなく、ラリーの参戦はまさに“走る実験室”で、そこで培った技術を市販車にフィードバックするというこれまでの流れを今後も途切れさせないためにも、今回の挑戦はとても意義があることだと考えています」
ラリーアートは三菱のモータースポーツ部門として1981年にラリー参戦チームが結成され、84年にはモータースポーツパーツの供給などを行う会社が設立されている。以降、三菱のモータースポーツ活動を支え続け、パリダカやWRCなどの参戦支援を行うことによって、“三菱らしさ”の象徴として、ブランド力を高めていった。では、増岡氏が考える“三菱らしさ”とはいったいどんなものなのだろうか?
「ラリーで勝つためには、ただエンジンが速いというだけではダメで、強靭なボディや精巧なメカニズムの耐久性が必要です。さらにどんな道でも安心して走れる優れた4WDシステムが必要で、こうした先進技術をパリダカやWRCなどのモータースポーツの参戦によって磨き上げてきました。とくに4WDについては、4WDだけれどコーナーで積極的に曲げながら前に進めるという発想を持っていることも、うちの会社ならではだと考えています。こうした高い耐久性や先進の4WD技術などが、“三菱らしさ”をイメージづけるものになっていると思います。最近ではアウトランダーPHEVに代表される“電動化”についても、“三菱らしさ”の要素に加えられるようになってきました。そして、こうしたひとつひとつの積み重ねによって、みんなが感動してくれる走りを提供することこそ、昔から受け継がれてきている“三菱らしさ”だといえるでしょう」
では、今回のアジアクロスカントリー・ラリー参戦の目標はどこに置いているのだろうか?
「ドライバーのラインアップが決まって、テストも順調に進んでいます。ドライバーのリファット選手はテスト車両に試乗した後に、『悪路走破性と耐久性が市販車よりも飛躍的に高められていることを確認できました』とコメントしています。とはいうものの、今年は参戦初年度で、車両は量産型+αレベルで、そんなにチューニングしているというわけではありません。そうした状況ですから、優勝とまではいかないかもしれませんが、それでも上位入賞を目指しています。そしてチームの技術を一段ずつ向上させていきたいと思っていますし、人材と技術を継承していくというのも目的のひとつに挙げられます。先ほど申し上げた“三菱らしさ”を途切れさせないためにも、こうしたモータースポーツのチャレンジを通じて、スタッフとノウハウを蓄積していければいいですね」
アジアクロスカントリーは11月21〜26日にタイ〜カンボジアで開催される。チーム三菱ラリーアートの活躍に期待したい。
※本稿は本誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』の2022年11月号(9月26日発売)に掲載されたアーカイブ記事です
トライトンのアジアクロスカントリーラリー試験車に富士ヶ嶺オフロードの特設コースで同乗試乗の様子を本誌でレポートしています。