「マス耐に参加してみませんか?」とビースポーツ(レースの主催者)のM氏から筆者にメールをもらったのは5月中旬のこと。「えっ!? マス耐ってナニ?」と思い、速攻でインターネットを調べてみると、「ビースポーツ マスターズ・エンデュランス」という耐久レースであることが判明。2022年9月に1回開催されていたが、そんなレースがあることは正直知らなかった。
さらにレースレギュレーションを読んでみると、以下の5点のポイントが書かれていた(要約)。
1.参加車両はナンバー付きであればメーカーを問わず、スポーツクーペはもちろん、SUVや軽自動車などでも参加することができる。
2.レースは袖ヶ浦フォレストレースウェイ(以下袖ヶ浦FRW)で開催。
3.レースは2時間×2ヒートの合計4時間として、燃料満タンでスタートして4時間終了後まで給油は不可。
4.ドライバーは1~4名まで。最低1回はピットに1分以上の停車が必要。
5.JAF国内A級ライセンスは推奨ではあるが、このレースには不要。装備もレーシングスーツなどは推奨で、長袖・長ズボンで参加可。ヘルメットは2輪用でも可。
同じようなレギュレーションの耐久レースに、マツダ車のみによる「マツ耐」という競技もある。ただ、こちらは2時間30分の満タンスタート無給油レースなので、2時間×2ヒート=4時間のマス耐はそれよりも燃費制限が厳しいレースということになる。
さて、このレースに参加するかしないかは自分では判断できないので、当媒体『カー・アンド・ドライバー(以下CD)』の統括編集長Y氏に相談してみると、「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース(以下ロードスター4耐)の練習になりそうなので、ぜひ参加しましょう!」という返事。さっそくエントリーに向けて、準備を進めることになった。
まずはドライバー選び。筆者とY氏の二人だけでも参加することは可能だが、むし暑い中梅雨の中で二人だけで走りきるのはツラそうなので、もう一人、CDでおなじみのモータージャーナリストの岡本幸一郎氏を誘ってみることに。岡本氏は今年からロードスター4耐にCDチームで参加することになっていたので、「ぜひ!」の二つ返事で共に参加することが決定した。
次に参加車両についてだが、これはCD編集部所有のNDロードスター(以下CDロードスター)ですんなりキマリ。このクルマで走れば、9月に開催されるロードスター4耐の練習になることは間違いないので一石二鳥だ。ただ、CDロードスターは、グレードこそNR-Aなのだが、ロールバーが装着されていない、バケットシート&4点式シートベルトが装着されていない…、などの課題はあった。しかし、マス耐ではこれらは装着推奨ではあるが必須ではないので、ルーフを締めていればノーマルシート&3点シートベルトでも参加することが可能だ。安全はもちろん大事なのである方がいいに決まっているが、あまりにも装備面で厳しくしてしまうと、こういったモータースポーツに参加することへの大きな障壁になってしまうのも事実。まずは参加しやすく装備面で敷居を低くしていることもこのレースのメリットと言えるだろう。
では、完全フルノーマルのCDロードスターになにも装着しないで参加できるか、レギュレーションを細かく調べてみると、1点、「前後牽引フック」については購入しておかなければならないことが判明。これは今後、このクルマでサーキット走行をするためにも必要不可欠なので、クスコ製の牽引フックをネットで購入した。
そしてあと1点、「ブレーキパッド」については、ノーマルのままでは正直心配だった。耐久レースに出るんだから、スポーツタイプのものに変えておいた方が安心だろうということで、レース前にディクセル製のスポーツパッドに交換した。
というわけでマス耐参戦への準備は整ったものの、袖ヶ浦FRWをNDロードスターで走った者はおらず、いったい1周何秒で何周走ればいいのかなどの情報はまったくわかっていなかった。そこでレース当日の朝イチにある練習走行に参加して、このクルマが1周何秒で走れるのかと目標周回数をコンピュータで計算しておいた。ただ、この計算はまったく意味がないことになるのは、この時は知るよしもなかった……。
ちなみに昨年の優勝者は、4時間で150周走ったということはネットで調べてわかっていた。袖ヶ浦FRWの1周は2436mなので、単純に計算すると
2436(m)×150(周)=365400m=365.4km
我がNDロードスターの満タンは40Lなので、もし昨年の優勝者の燃費で走ろうとすると、
365.4(km)÷40(L)=約9.1km/L
で走らなければ完走できないことになる。
もちろんこの燃費を出しながらノンビリ走ることは可能だろうが、ある程度速いラップタイムを出さないと上位にいけるはずはない。これは探り探り走りながら、確かめていくしかなさそうだ。
ところでこのマス耐、予選というものがなく、第1ヒートのグリッド順は、なんとドライバーの平均年齢が高いチームから順に並んでいく。すると我がチームのドライバー平均年齢は50歳で一番上ということで、なんとポールポジションからのスタートとなった。ドライバーの順番は、筆者→Y氏→岡本氏でいくことにする。
今回のマス耐参加台数は3台。いずれもメディアからの参加で、「カーセンサー最安NC」が一番若いメンバーで平均年齢が30代のM30というクラスで、「ENGINE HC86」が平均年齢40代のM40というクラスで、そして我がチーム「カー&ドライバーロードスター」が平均年齢50代のM50というクラスでエントリーした。クラスとしてはバラバラなので、本来レースでは競合しないことになるが、せっかくレースするわけなので、CDロードスターの目標はずばり「総合優勝」だ!
しかしこのレース、結果は重視しないで楽しく走ることが重要だと、レギュレーションに書いてある。
【第6項-1】
本競技は、ライバルであり同志でもある仲間達と、スターティンググリッドから同時にスタートし、競い合いながらゴールを目指し、全車が無事にチェッカーを受けたことを喜ぶ、そんなレースの魅力を純粋に楽しみたい大人達が集う場であることを十分に理解し、他の参加者や競技役員を含むすべての関係者への思いやりを持ち、スポーツマンシップに則り、楽しく安全に完走することを第一に心がけること。
我がチームも結果より、安全に楽しく走ることを第一目標として、あわよくば優勝できればいいなぁ、というスタンスで走ることを、レース前にドライバー3人で確認する。
2023年6月28日(水)10:35、いよいよ第1ヒートがスタート。スタートはローリングスタートで、筆者はまず1周目でスタートダッシュすることに成功する。しかし、このレースでは序盤でガソリンを使いすぎて、最後にガス欠をしてはまったく意味がない。「ウサギとカメ」の童話ではないが、「速く走る」ことはこのレースでは重要ではなく、「燃費良く速く走る」ことが重要なのだ。
ちなみにロードスター4耐の昨年の結果を見てみると、優勝チームは182周(筑波サーキット1周2045m)で、ガソリン量は60Lなので、平均燃費は約6.2km/Lで走っていたことになる。対してマス耐は昨年の優勝チームで約9.1km/Lなので、ロードスター4耐に比べて約47%もエコランをしなくてはならないことになる。これだとアクセルが踏めずにストレスが溜まるだろうなぁと思って走り始めたのだが、目標燃費とラップタイムをクリアするためにどういう回転数で走ればいいのかを考えて走っていると、まったく退屈なわけがなく、むしろずっと集中して走らなければならないため、走っていてとても楽しい。
と、頭を使いながら一生懸命走っていると、6周目に事件が起こった! このレースでは、市販のケータイ電話を使って、ドライバーとピットで通信することができるのだが、つながっていた電話が切れてしまったのだ!(泣) ドライバーはピットにメーターに表示される燃費を1周ごとに連絡して、ピットはその情報を元にコンピュータで計算。ペースと走り方の指示をしている。切れたら掛け直せばいい話なのだが、筆者のケータイには、自動着信(オート応答)機能が付いていなかった!(焦) せっかくトップを快走していたので、そのまま予定の周回数を走るということも考えていたのだが、ピットのY氏から「P(ピットイン)」のサインボードが提示された。仕方なくピットに戻ることにした。
ピットに戻ってケータイをつなぎ直してコースに戻ると、せっかくのリードは帳消しになったどころか、最下位まで転落してしまった(涙)
しかし、この後は燃費と速さをバランスさせる走り方が徐々にわかってきて、ペースアップ。23周を走り終わったところで、Y氏にバトンタッチする。
Y氏は筆者が伝授した走り方を忠実に守り、淡々と燃費と速さをバランスさせながら周回していき、再度トップに返り咲くことに成功!
しかし、好事魔多しとはよく言ったもので、コントロールタワーからCDロードスターに「オレンジボール」の旗が提示されている。なにが起こっているのか、ドライバーに聞いてみたが、「クルマはとても順調ですよ」との応答が。とりあえずピットに戻ってくると、すぐにその原因がわかった。ゼッケンが剥がれかかっていたのだ。すぐにガムテームで応急処置をし、すぐにコースに戻ったが、今度は2位に落ちてしまった。トホホ…。
その後、岡本氏にドライバー交代。岡本氏も筆者から伝えられた運転の仕方をきっちりと守りながら、燃費をキープしながらいいペースで周回を重ねる。そして、20周を走って第1ヒートトータル72周を走行、終わってみれば2位となんと2周回差のトップでチェッカーを受けることができた。
第2ヒートは、第1ヒートとは逆、岡本氏→Y氏→筆者の順で走ることにする。14:00にレースがスタートすると、いきなり問題が発生!
第1ドライバーの岡本氏は、「スタート時は自分がいたスターティンググリッドボックスの列上を走らなければならない」というレギュレーションをすっかり忘れ、コースのど真ん中を走ってスタートしてしまったのだ! さっそく次のコントロールライン通過時には、ピットスルーペナルティの黒旗が掲示されてしまった! ピットから岡本氏には「反則スタートなので、次の周にピットスルーしてください」と告げると、岡本氏からは「ごめんなさーい」という、なんとも力のない返事が返ってきた…。
しかし、このピットスルーペナルティでは、第1・2ヒートトータルでのトップはまだ変わらなかったので、岡本氏には落ち着いて淡々と走るように指示する。本人もその指示にしっかりこたえて、燃費をセーブしながら着実にタイムを稼いでいく。
そしてY氏にドライバー交代してからの走りが圧巻だった。平均燃費を変えることなく、じわじわとタイムを上げていったのだ。このタイムなら引っ張った方がいいという判断で、ピットからは一人で35周(約1時間)走るようにロングランを指示する。Y氏は結局、燃費を下げることなくタイムも正確に刻み続け、最終ドライバーを務める筆者にバトンタッチ。
すでに2位のENGINE号とはトータルで4周差があったので、筆者がムリをする必要はまったくなかった。ガソリンも想定より余っていたので、終盤にはファステストラップを狙って全開アタックを決行!本当はファイナルラップにファステストラップを出してチェッカーを受けたかったのだが、ちょっとヒヨってしまい、チェッカーの3周前にファステストラップを計時。その後はペースを一気に落として、第2ヒートも72周、トータルで144周でトップチェッカーを受けることができた。
昨年の優勝者150周には遠く及ばないが、思い返せば、ケータイ通話切れ、ゼッケン剥がれ、反則スタートと、3回も余計なピットインをしたのにもかかわらず、最終的に優勝することができたのは、燃費をキープしながら、淡々と決められたペースで3人が走ったからこそ。エコランレースだから面白くなかったということはまったくなく、むしろ4時間にわたってピットとドライバーが緊張感を持ちながらレースできたことは、ロードスター4耐に向けて非常にいいシミュレーションができたのではないかと思っている。
ちなみにこのマス耐、次は2023年12月6日(水)に袖ヶ浦FRWで開催されることが決定している。メーカーの垣根なく、いろんなタイプの車種が参加して、どれが一番燃費良く速く走れるのかをガチンコで勝負するのは、間違いなく面白いことだと思う。CDロードスターも参戦予定なので、興味がある方は参戦してみては。
ビースポーツ マスターズ・エンデュランス
公式HP:https://www.masters-endurance.com/