「私、いまでもドライビングテクニックがちょっとずつ進化していると信じています」
笑顔でそう語ってくれたのは、KYOJO CUP(以下KYOJO)に参戦する藤島知子選手。彼女は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員という肩書きを持つモータージャーナリストで、取材スタッフとは顔なじみの仲だ。
「KYOJOに参戦する女性ドライバーは、カート出身者やF4に乗っていた選手など経歴はさまざまですが、そのレベルは年々上がってきています。2023年は国内女性初となる国内限定Aライセンスを取得して、開幕戦でいきなりポールポジションを獲得して衝撃のデビューを飾った富下選手が話題になっていますが、KYOJOではベテランの私も負けていられません。というのも富士って雨のレースが多かったりするんですが、トラクションコントロールもABSも付いていないマシンなので、そこは経験値を積んでいるほうが強いと思っているんですよ。あっ、ちなみに私は2017年にKYOJOが始まってからすべてのレースに出ているんですよ。いわゆる皆勤賞ですね、褒めてください(笑)」 と熱く語る藤島選手。
モータースポーツに真摯に取り組む姿勢と情熱は、男性選手に引けを取るものではない。
KYOJOは競争する女子(競女)が名前の由来になっており、さまざまなキャリアを持つ女性たちがモータースポーツにチャレンジする舞台となっている。
2017年に始まって今年で7年目に突入。ル・マン優勝経験を持つ関谷正徳氏がオーガナイザーとなって、“ドライビングアスリート”というコンセプトの下、本誌でも紹介したインタープロトシリーズ(IPS)と併催されている。関谷氏はKYOJO設立の意義を次のように語っている。
「男女間では身体能力面でどうしても埋めることができない差ができてしまうが、女性だけでの“ガチンコ勝負”の舞台があれば、戦う土俵がフェアでいいよね」
KYOJOで使われているマシンはVITA-01(ヴィータゼロワン)。モータースポーツ参戦の敷居を少しでも低くするために、しっかりと安全性を確保しながらローコストで作られたレーシングカーだ。ちなみに価格は375万円(税抜、タイヤ&ホイールなし)。エンジンはヴィッツ(現ヤリス)RSの1.5ℓ(1NZ-FE)、トランスミッションも同車の5速MTを採用。出力は110㎰前後だが、車両重量が600㎏程度と軽量なため、エキサイティングな走りが楽しめるという。
あくまでもマシンを操縦するドライバーのテクニックを競うために、運転をサポートするようなABSやトラクションコントロールなどは装着されていない。まさにイコールコンディションの中、女性同士ガチンコで勝負することが試されるわけだ。 女性ドライバーだけによる熱いバトルがどんなものなのか……。それは2023年シリーズ第2戦(7月23日・日)を見て、衝撃を受けることになる。
まず予選はコンマ1秒の中にトップ3台が入る大混戦だ。 「兄からアドバイスをもらって、それがうまくハマってポールポジションを獲ることができました。ポールからレースするのは初めてですが、いろいろ勉強させてもらいながら落ち着いてレースを進めれば、結果はついてくると思います」と語るのは、第2戦の予選でポールポジションを獲得した平川真子選手だ。兄というのは、WEC(世界耐久選手権)でも活躍するトップレーシングドライバーの平川亮選手のことで、国内では珍しい兄妹レーサーだ。
決勝は予選2位の翁長実希選手、予選3位の三浦愛選手との迫熱のバトルを展開。周回ごとに順位が入れ変わり、見ているものをハラハラさせるテールトゥノーズ、サイドバイサイドでの接近戦が繰り広げられた。
最終コーナーをトップで上がってきたのは翁長選手。2番手は三浦選手、3番手は平川選手という順で、このままチェッカーフラッグが振られるものと思っていたのだが、最後の最後に波乱が起きた。三浦選手がゴール直前にスリップストリームから抜け出すことに成功して、コントロールラインでは翁長選手の前でフィニッシュを受けたのだ。その差はなんと0.078秒差。平川選手も最後まで諦めていなかったが、トップから0.219秒差の3位でゴールした。
「負けたのは悔しいんですが、自分の全力は出せました。今回は翁長選手と三浦選手の走りを一番近くで見ることができて、とても勉強になりました。優勝はお預けですが、次は負けないようにがんばります」 と平川選手は次戦に気持ちを切り替えた。 それにしてもなんという女性同士の熱いバトルなんだろう。このトップ3以外にも、各所で抜きつ抜かれつのバトルが見られ、KYOJOのレースレベルの高さと面白さを改めて実感する1戦だった
2023年はあと2戦、9月24日(日)と11月26日(日)に富士スピードウェイで開催されるので、あなた自身もサーキットでKYOJOの熱さを体感してみては。