波乱のドラマが生まれた舞台裏…第34回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース【#44 CD号参戦記】

PIT:「オーイ、よっしー(第1ドライバー、カー・アンド・ドライバー統括編集長・山本善隆の愛称)、聞こえるかぁ? オーイ、聞こえたら返事してぇ~。」
D山本:「(シーン)」※応答なし

第一ドライバーは山本。いきなりケータイがつながらないというトラブル発生!

これが我がカー・アンド・ドライバー号(以下、CD号)のレース・スタート直後である。このレースは無線通話の手段として携帯電話(以下、ケータイ)の使用が認められているので、ドライバーとピットは、ケータイで様々なやりとりをしながらレースを進めていく。

具体的にはドライバーがメーターに表示される走行距離や平均燃費を報告し、ピットではその数字をもとにパソコンを使って、ガソリン残量や走行可能周回などを計算。それに基づいて、ペース(アップ・ダウン)や、走らせ方(燃費重視・ペース重視)などをドライバーに指示をする。

前年の結果やドライバーラインナップ等の考慮により、今年CD号には60秒間のピットストップハンデキャップが課せられた。ハンデキャップは第1ドライバーのうちに消化しなければならず、スタート直後の混乱を避けるべく、1周終了後に入る作戦をとる。

しかし、レースがスタートしてすぐに、第1ドライバーの山本とケータイがつながらなくなってしまったのだ。

いきなり波乱の幕開けである。レースの根本を揺るがすトラブル発生で意気消沈はしたものの、ピットは慌てなかった。というのも、ケータイがつながらなくなるという事態は当然のことながら想定済みで、もしつながらなくなっても、各ドライバーには守るべき燃費とキープしたいタイムを伝えていたからだ。

すぐさまピットではサインボードを用意し、ラップタイムを掲示しながら、山本もそれを確認しながら淡々と走行を続けていく。

ロードスター誕生から34年続く伝統のレースが”メディア4耐”

メディア4耐、正式なレース名は『メディア対抗ロードスター4時間耐久レース』。1989年の初代ロードスター誕生から始まり、今年で34回目を迎える。

毎年、「走る歓びの体験と情報発信を行うことによって、日本のクルマ文化を育むことに貢献すること」を目的として開催され、自動車雑誌、ラジオ、テレビだけではなく、YouTubeを含めたさまざまなメディアが参加、今年は全21チームが4時間先のゴールを目指した。
(マツダをはじめ、主催者、スポンサーのみなさま、毎年このレースを開催していただき、本当にありがとうございます!)

16:00スタート予定だったが、レース進行が遅れて、16:15にレースがスタートする。写真はフォーメーションラップ。

このレースのレギュレーションを簡単に紹介すると、以下のポイントがある。

・レース時間は4時間
・ドライバーは4~5人
・1人のドライバーの連続運転時間は50分、合計運転時間は96分まで(ただし助っ人は40分まで)
・ガソリンは給油1回(20L)で合計60L
・競技車両は改造禁止で完全にワンメイク
・チーム編成と昨年の結果によりハンデキャップ(ピットストップ)を課す

注目していただきたいのは、ガソリンが合計60Lに制限されているので、全開で走り続けてしまうと燃料が足らなくなり、”ガス欠”してしまうこと。つまり、ある程度エコラン(ガソリンをセーブ)しながら、ギリギリまでガソリンを使ってなるべく多くの周回を行い、4時間後に振られるチェッカーフラッグを受けることが必要とある。

決勝前、ガソリンを満タンにしたら車両を手で押してピットに戻す。

予選は昨年同様、瀬在仁志(モータージャーナリスト)が担当。昨年は思うような結果が残すことができなかったので、今年はレース前には大好きなビールをセーブして臨む気合いの入れようだった。

予選は朝方の雨が残ってコースはあいにくのウェットコンディションからスタートしたが、雨は降っておらず路面はどんどん乾いていく中、瀬在は渾身のアタックを続けていく。そしてラストラップでタイムを出そうとしていたのだが、コントロールラインを通過する前にチェッカーフラッグが振られてしまった。

結果は13位。昨年よりも大きく前進したことは嬉しいが、あと5秒チェッカーが出るのが遅ければ…、と思うと、悔しさは残る結果となった。

ドライバー、サポーターを含めて20人以上の大所帯。応援に来ていただいた方、ありがとうございました!

 

昨年の順位を上回るべく、入賞を目指して臨んだ今年のレース

CD号は昨年、このメディア4耐に28年ぶりに復帰した。その結果は惜しくも入賞(6位以内)を逃す7位で、目標はシングルフィニッシュ(9位以内で完走)だったので上々なものだった。しかも、予選順位から一番ジャンプアップしたチーム(昨年の結果は予選21位→決勝7位)を表彰するクスコ賞をいただいた。今年は着実に”入賞”を目標にたて、レースに臨んだ。

昨年のメディア4耐は12月に開催されたので、気温が例年よりも低かった(というより、寒かった!)こともあって、タイヤへの負担は大きくなく、燃費面でも有利な方向に働いたこともあり、CD号は想定よりも燃費が余る方向でレースを進めていった。そのため第5ドライバーの瀬在は、ひたすら全開走行!という展開になってしまった…。つまり、レース全体で効率的な燃費で走ることができなかったということである。

そこで今年はある程度、全ドライバーがまんべんなくガソリンを使いながら、タイムも稼いでいくという作戦を立てた。最終的には昨年優勝チームが記録した182周を目標に立てることにした。筑波サーキットは1周2.045kmだから、182周だと約372km走らなければならない。与えられたガソリンは60Lだから、燃費は6.2km/L以上で走る必要がある。このあたりの数字はどのチームもわかっていることで、問題はこの燃費でいかに早くロードスターを走らせることができるのかが勝負のポイントとなる。各チーム、エコランのやり方は様々あるようで、上限回転数の設定もバラバラのようだ。実質参戦2年目のCD号は、その正解を探りながらの走行となる。

ピットはドライバーからの走行距離と燃費を聞いて、パソコンに打ち込んで作戦を常に更新している。

さて、第1ドライバーの山本から第2ドライバーの岡本幸一郎(モータージャーナリスト)にバトンが引き継がれたときに、ピットでは初めて燃費を知ることになる。これが6.9km/Lだったからビックリ!もっとガソリン使っても良かったのに、山本は通話ができなかったなかではチャレンジすることはせず、チームで定めた標準的な走り方で淡々と走行を続けたという。ピットからはサインボードでラップタイムと合わせて「↑(上向き矢印:ペースアップしろ)」を掲示していたのだが、残念ながらそれは見えていなかったという。まあ、ガソリンを使いすぎたわけではないので、ヨシとしよう。そこで岡本には、しばらくガソリンを使ってでもラップタイムを上げてくるように指示する。岡本は慣れないエコランをこなしながらその指示に見事に応え、第3ドライバーのモータージャーナリスト・大谷達也(モータージャーナリスト)に引き継ぐ。

自らのスティントを無事に終えてホッとしている岡本幸一郎。

好事魔多し!? 2つ目のトラブルが発生!

大谷は昨年も非常に燃費が良かったが、今年もやっぱり燃費がいい。岡本の平均燃費を上げて走っている。ということで、もう少しガソリン使ってもいいので、ペースを上げて欲しいということをピットから伝えようか相談しているときに、事件は起きた!

D大谷「あー、最終コーナーで飛び出してしまいました!」

大谷からのこのピットへの連絡の直後に、場内アナウンスが流れる。

場内実況「おーっと、最終コーナーで飛び出している車両がいるぞ。ゼッケン44、カー・アンド・ドライバー号だぁ!」

ピットからスタッフが最終コーナーを見ると、たしかにCD号が最終コーナーで止まっている。グラベル(走路外にある砂エリア)にハマッてしまい、自力では抜け出せない模様だ。

PIT「身体はダイジョーブですか?!」
D大谷「ダイジョーブです。マシンもどこにもぶつかってませんが、グラベルから抜け出せません…」

その後、コースにはセーフティカーが導入され、CD号はレッカー車で救出される。ピットに戻ってきたマシンは、エンジンもかかるし、とくに走行に支障はなさそう。下回りにたまった砂を応急処置でかきだす。ピットでは大谷の乗車時間を確認しているが、あと3分程度、大谷には走ってもらわないと、最後、乗車時間がオーバーしてしまうということで、もう少し走るように指示する。

最終コーナーのサンドトラップにつかまったCD号をレッカー車で引き上げる。

その後、第4ドライバーの加藤英昭(フリーランス・ライター)にドライバーチェンジ。この時、給油も行う。もう勝負権はなくなってしまったので、来年に向けてのデータ取りに目標をチェンジする。とはいうものの、20分近く止まっていたこともあって、ガソリンはかなり余っている。徐々にペースを上げていき、全開でも最後までガソリンはもちそうということもわかり、全開での走行に切り替える。

レース中、給油は1回、20Lを入れる。

そして第5ドライバーの瀬在仁志(モータージャーナリスト)にドライバー交代をするが、瀬在は自分がこれ以上走るより、来年のために山本に走ってもらって経験を積んでもらった方がいいという提案をしてくれる。めっちゃ男前だ! これにはほかのドライバーも賛同してくれて、ドライバー申請を再登録し直すことに。そしてチェッカーまで残り約30分、第6ドライバーとして山本が再度コースに出て行く。

ドライバー交代は1分間停車。山本は第6ドライバーとしてチェッカーまで走る。

山本は夜の走行に慣れていないのか、ラップタイムがなかなか上がってこない。そこでピットからは、「チンタラ走ってるんじゃねぇ、男を見せろ!15秒台に入れてこい!」と檄を飛ばすと、なんと翌周には14秒台に入れてくるではないか。最初からやれよ、という言葉は飲み込み、檄を飛ばし続ける。

するともう少しで抜けそうな同一周回のマシン(#64 CarWatch)が1台出てくる。目標を失ってしまった自分たちには、打ってつけのライバル登場だった。ピットでは、プラカードキッズを持ってくれた少年が「がんばれー!抜けー!」と大きな声で声援してくれている。そのことを山本に伝えると、さらにペースアップ。ついにはパスすることに成功した。この時ばかりはピットも大盛り上がりだった。

そして、20時16分過ぎ、4時間を走り終えて各車続々とチェッカーを受ける。CD号も無事にチェッカーを受け、ピットは歓声に包まれる。戻ってきた山本をみんなでねぎらいの言葉かけて迎えると、山本の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

ドラマ(トラブル?)はいくつかあったものの、完走できて良かったとみんなで喜ぶ。

落ち着いてからリザルトを見ると、抜いたはずの#64 CarWatchチームの方がCD号(#44)よりひとつ上の順位になっている。なぜ?というのも、 実はレッカー救済を受けると5周減算になるというレギュレーションを我々はそのときすっかりと忘れていたのだった…。でも、すでにサポーターは気持ち良く帰ってしまっていたので、そのときお知らせするのはやめておきました。笑

最後はニッコリ記念写真をパチリ。

最後になりますが、CD号がコースオフしてしまったことで、戦略が変わってしまったチームのみなさま、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。この場をお借りしてお詫び申し上げます。(チーム一同より)

統括編集長・山本善隆のコメント

まず、マツダはじめ主催者・スポンサー各社に御礼申し上げます。そして、多くのサポーターの皆様には心より感謝申し上げます。今年のレースに臨むにあたって、昨年の勢いにのって、より上位の結果を目指していたのですが、残念な結果に終わってしまいました。しかしながら、レースには不測の事態が常に起こり得ること、そしてこのレースのレベルの高さをあらためて実感したこと。個人的にも、特に夜の走行を経験できたことで、暗さという視界そのものはもちろん、レース終盤におけるタイヤとブレーキの状態、そして様々なペースが入り交じる他車との駆け引きなど、その難しさを体感できたこと。なにより、最後は全開走行ができたこともあって”走る歓び”を存分に堪能できたことは非常に良い経験でした。また来年、心機一転を図り、より上位を目指して、チーム一丸となって準備していこうと思います。そして、こちらの記事も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

レース当日のライブ中継のアーカイブ動画

【アーカイブ動画あり】9/9(土)16時スタートの第34回メディア対抗ロードスター4時間耐久レースをYouTubeでライブ観戦!

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