IPS/KYOJO CUPをオーガナイズする関谷正徳さんが「モータースポーツの未来」を語る

モータースポーツの価値をもっと高めたい 関谷正徳氏がIPSとKYOJOの未来を語る

 2023年シーズン、インタープロトシリーズ(以下、IPS)とKYOJO CUP(競女カップ、以下、KYOJO)を本誌はメディアパートナーという立場で、レースを盛り上げるために現場を取材してきた。今回はシーズン終了にあたり、この2つのレースのオーガナイザー、関谷正徳氏にインタビューすることができた。

「モータースポーツの存在意義が世の中に伝わっていない。スポーツとして観るモータースポーツを確立していきたいと思って、IPSとKYOJOを立ち上げました」

 そう熱く語り始めた関谷正徳氏(以下敬称略)。2023年シーズン、どちらのシリーズもチャンピオン争いが最終戦で決着を見るという白熱した展開となり、観るものを感動させてくれた。しかし、関谷の理想はまだまだ先にあるという。

「もっともっといろんな人たちに観てもらって、モータースポーツの価値を高めていきたいと思っています。いまではYouTubeでライブで見ることもできますが、サーキットに来て生でレースの迫力を感じてもらいたいです。レースのレベルは年々上がってきています。今日、僕は「レジェンドカップレース」に参戦して、KYOJOを戦う彼女たちと同じマシン(VITA)で走りましたが、僕だってベストラップはKYOJOのトップ勢から6秒落ち、元F1ドライバーの片山右京でさえ4秒落ちですから、KYOJOのレベルの高さを改めて知ることができたと思います」

第7戦を優勝して、第8戦は2位に入り自身初のシリーズチャンピオンを獲得したNAVUL号の山下健太選手(左)。「2レース目は厳しくなるだろうと思っていましたが、そのとおりになりました。でも、なんとか2位に入り、チャンピオンを獲得できて嬉しいです」

 この日、KYOJOの最終戦は、シリーズランキング1位の三浦愛選手と2位の翁長実希選手のふたりによるチャンピオンを掛けた戦いが繰り広げられた。抜きつ抜かれつのトップ争いは熾烈を極め、最後の最後までどちらが先にチェッカーを受けるかわからないような熱いレースを観ることができた。このレースを制したのは翁長選手だったが、三浦選手はきっちりと2位に入り2回目のシリーズチャンピオンを獲得した。

シリーズチャンピオンをかけてのバトルは最終ラップまで続き、このレースをしたのは翁長実希選手(左後)だったが、2位を死守した三浦愛選手(右前)が自身2回目のシリーズチャンピオンを獲得

 IPSでも大接戦が展開され、シリーズチャンピオンが誰になるか最後までわからないというヒリヒリするようなレースが繰り広げられた。エキスパートクラスでは、わずか0.2秒差で永井秀貴選手が川田浩史選手を抑えてチャンピオンを獲得。また、プロクラスでも最終戦のファイナルラップまでチャンピオン争いが続き、最後は2位フィニッシュを決めた山下健太選手が、自身初のシリーズチャンピオンを獲得することができた。

IPS第7戦でのバトルシーン。予選でポールポジションを獲得した山下健太選手(手前の赤いマシン)は、レース前ランキング1位の阪口晴南選手(右後ろの銀のマシン)とのバトルを制し優勝を果たす

 2023年シーズンはIPSもKYOJOも最終戦のファイナルラップまでチャンピオン争いをするという、まるでドラマのような展開で幕を閉じたわけだが、来シーズンに向けて、新たな試みはあるのだろうか。

「IPSでは、来シーズンから新たに『リアスポイラー』を採用します。レースを観ていて一番楽しいのはパッシング(追い抜き)がたくさんあることですが、その追い抜きを増やすために、あえてドラッグを増やしたリアスポイラーを採用する予定です」

「ドライバーとしてだけでなくチームをまとめるという意味でも成長できたシーズンでした」と振り返る三浦選手。先行車が三浦選手

 さらにKYOJOについても、さらなるステップアップを考えているという。 「来年はスーパーフォーミュラとKYOJOを共催しようと計画しています。それはビッグレースと共催することで、もっとKYOJOをたくさんの人に見てもらって、その魅力を広く発信できると考えているからです。お金はありませんが(笑)、レースをより面白くするために、いろいろとアイデアは考えています。そうすることで、冒頭にお話ししたように、日本のモータースポーツの価値をもっと上げていくことができると思っています。」

 では、関谷はほかにもどんな構想を描いているのだろうか。

ル・マン24時間レースで日本人初の総合優勝ドライバーとなった関谷正徳氏はInter Proto SeriesとKYOJO CUPを主催。今回、IPSとKYOJOと併催されたレジェンドカップ(右)に参戦し、全18台中予選5位/決勝5位

「僕のアイデアでは、『フォーミュラ0(ゼロ)』という完全イコールコンディションのマシンを200~300台作って、この中から勝ち抜き戦をやって、勝った選手が世界チャンピオンになる。要するに「世界一運転うまい人決定戦」を開催したら面白いだろうなと思っています。インタープロトシリーズはその延長線上の考え方で、『ドライビング・アスリート』というコンセプトで、マシンの勝負ではなく、人と人のドライビングテクニックの競争を観てもらっている。KYOJOも同じで、女性ドライバーの日本一を決める戦いを観てもらっているわけです。こうすることで自動車メーカーではなく、社会が運転技術=ドライビングテクニックに価値を付けていく。そうなると皆が運転に興味を持って、さらにはクルマに興味を持っていく。そういう好循環ができ上がると、レースの価値が高まって、優勝賞金1億円というようなビッグレースができて、そこにはどんどん人が集まるようになる。つまりドライバーもメカニックも、そしてスポンサーも集まって、さらにお客さんも集まってくる。こうしてモータースポーツというスポーツの価値を高めていきたい。僕は半世紀以上、このモータースポーツの世界でお世話になってきたから、いまは恩返しのつもりで自分ができることをできる範囲で取り組んでいる。時代は変わって、モータースポーツも変わらなければいけない。お金を垂れ流して使えるような時代ではなくなった。F1ですらそう。お金じゃなくて知恵を出して、モータースポーツ界を少しでも変革していきたい」

 スペースの都合でインタビューの一部しか紹介できなかったが、関谷の思い描くモータースポーツ界の未来を明るくするための考え方をうかがうことができた。この考え方には本誌は賛同するし、少しでもそのお手伝いしていければと考えている。

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