【特集モータースポーツ】スーパーGTとスーパーフォーミュラの面白さ

速さ、レベル、そして観客動員ともに国内最⾼峰の2⼤シリーズ

 いま、日本で最も人気のあるレースカテゴリーといえばスーパーGTだろう。1994年に全日本GT選手権として開催以降、観客/参戦車種/参戦チームが増加。2005年からはFIA公認の国際シリーズとなり、スーパーGTと呼ばれるようになった。

 1つのレースにGT500/GT300という性能の異なる2つのクラスのマシンが混走するためレース序盤から混戦となり、GT500のドライバーはGT300を上手に交わしながら、GT300のドライバーはGT500に上手に抜かれながらと、お互いを邪魔せずにタイムロスを抑えてバトルする高いスキルが求められるレースだ。

各チームに華やかな彩りを添えるサーキットクイーン。フォトジェニックなコスチュームで写真家の撮影意欲をかき立てる。カラフルなマシン/精悍な表情のドライバーとのコントラストの妙も写真映えする

 GT500クラスは現在、トヨタ/日産/ホンダの3社が参戦。いわゆる“ワークス”の戦いだ。かつては量産車ベースだったが、2014年からは開発コストを抑えるためにシャシー周りの主要部品の多くを共通化。エンジンは独自開発の直列4気筒2ℓターボ(スーパーフォーミュラと共通)だ。外観は市販車に近いが、中身は完全に別物。

今年6月に開催された第3戦(鈴鹿)の300クラスで優勝したD'station Racing。チームの総監督はNPB・MLBで活躍した佐々木主浩さん。サーキットは想定外の有名人に会えるチャンスがいっぱい

 GT300クラスは車種バリエーションが多い点が特徴で、その中でも日本独自のJAF-GT規定(改造範囲が広い)と、世界共通のFIA-GT3規定(コストが抑えられる)のマシンに分類される。どちらにも持ち味があるが、性能差を抑えるため出力制限や重量調整が行われている。ちなみにFIA-GT3車両は市販モデルに近いスペックだが、JAF-GTは市販車の面影はあるが中身は別物も多い。

 タイヤは世界の主要レースカテゴリーでは珍しいマルチメイク。その開発はマシン以上に熾烈かつシビアといわれている。

スーパーGTは現在国内で最もサーキットにファンが詰めかけるイベント。スタンドで大きな応援フラッグを振るシーンはこのシリーズの名物風景になっている。選手を応援する垂れ幕の掲出も多い

 レースは300/350㎞、もしくは3時間とそれほど長くはないが、主催者(GTアソシエーション)は「独り勝ちではなく、接近したバトルを見てほしい」という考えから、上位入賞マシンにはサクセスウェイトと呼ばれるウェイトを積まなければならない(GT500は50㎏を超えると燃料流量リストリクター径の調整も併用)。

昨年は8月の第4戦(富士スピードウェイ)で室屋義秀選手がフライトパフォーマンスを披露。メインストレート上空を“3次元のモータースポーツ”が世界水準のフライトテクニックで観客を魅了した

 そのため、純粋な速さがわかりにくいが、それも踏まえたセットアップやレースマネージメントが求められるため、勝つためにはドライバーの技量に加えてチーム力が重要。“速さ”よりも“強い”チームが勝つというわけだ。そういう意味では、ドライバーもチームも主役だ。

 規則は複雑だが、ドライバーやチーム監督、レースアテンダントは日本トップレベルが集まるので、とにかく華やか。個人的にはレース全体を俯瞰して見るよりも“推しのチーム”や“推しの選手”を見つけて、全力で応援するのが一番の楽しみ方だと思っている。

ピュアに最速ドライバーを決める世界、スーパーフォーミュラ

 日本で最高峰かつ最速のフォーミュラレースシリーズ(SF)。1973年のF2000選手権、1978年からのF2選手権、1987年からのF3000選手権、1995年のフォーミュラニッポンを経て、2013年よりスーパーフォーミュラと呼ぶ。

昨年7月、サッカーJ1リーグの川崎フロンターレは“川崎市制記念試合Fサーキット”を開催。スーパーフォーミュラとコラボし、等々力陸上競技場でフォーミュラマシンを走らせてファンを圧倒

 シャシー(ダラーラSF23)やカーボンニュートラルタイヤ(ヨコハマ製)は共通。エンジンはトヨタ/ホンダが供給するが性能は同一。

 つまり、イコールコンディションのため、ドライバーの実力が勝敗に直結する。要するに「国内トップの21人のドライバーの中で誰が一番速いのかを決める」という単純明快なレースといっていい。その速さはF1に次ぐといわれ、世界の舞台で活躍するトップドライバーを輩出している。

昨年7月、サッカーJ1リーグの川崎フロンターレは“川崎市制記念試合Fサーキット”を開催。スーパーフォーミュラとコラボし、等々力陸上競技場でフォーミュラマシンを走らせてファンを圧倒

 ただ、その実力とは裏腹に観客にはその面白さがまったく伝わっておらず、人気は低迷していたのも事実だった。筆者も別件でサーキットに行った際に、観客があまりにまばらなので、「これはフリー走行かな?」と思っていたら、何と決勝だったことも……。

「このままではレースがなくなってしまう」

 そんなSFを主催するJRP(日本レースプロモーション)の危機感から生まれたのが、2021年に「スーパーフォーミュラNEXT50」だった。カーボンニュートラル実現に向けた実験やエアロダイナミクスなど未来に向けた取り組みに加えて、レースの新しい楽しみ方の提案も実施。その一つが新デジタルプラットフォーム「SFgo」である。 SFはドライバーが主役であるにも関わらず、これまでそのストーリーが伝わっていないかった。テレビ放送はトップ争いのみで推しの選手がそこに絡んでいないとその状況はわからない。ドライバーファーストなレースなのに、ドライバーに光が当たっていなかったのだ。

体験できる仕事はエンジンスタートコーラー/チームマネージャー/レーシングタイヤサービス/グリッドボードホルダー/場内アナウンサー(写真)など多岐にわたる。©KCJ GROUP

 そこを根本から変えるSFgoはレース全体の視聴はもちろん、お気に入りのドライバーのオンボード映像やテレメトリー情報を好きな時に切り替えて視聴が可能。これまで聞くことが困難だったチーム無線まで聞けるのだ。ドライバーがいま何をしようとしているのか、どんな気持ちなのか……をリアルタイムで共有できるのだ。逆をいえばチーム側も情報がバレてしまうが、それも面白い。

Juju(野田樹潤)選手は幼少期にカートを始め、着実にステップアップ。2023年はF2000トロフィー(イタリア)で14戦8勝、女性初のシリーズチャンピオンに輝いた。今季からスーパーフォーミュラに参戦

 そんな大改革も相まって、2023年の入場者数は前年比165%(10万人→17万人)と大きく増加している。現在JRPの会長はマッチこと近藤真彦氏が務めるが、「自治体の首長や省庁のトップも興味を持ち始めてくれている。まだまだやることはたくさんあるが、確実に前進できたという手ごたえはある」と語る。

 昨年SFを戦った早川亮選手は現在F1マクラーレンのリザーブドライバーを務める。今年SFに参戦する岩佐歩夢選手は、F1日本GPのプラクティス1にRBのマシンをドライブした。SFから次世代のF1ドライバーが生まれる、それを見届けられるシリーズだ。

Juju選手は国内トップフォーミュラ唯一の女性ドライバー

 

SNSでフォローする