【モータースポーツ特集】リアルに繋がるバーチャル体験

バーチャルからリアルレーサーが続々と誕生している

 2023年公開の映画『グランツーリスモ』では、レースゲーム『グランツーリスモ』に熱中していた主⼈公が、世界中のプレイヤーと競い合うオンラインイベントで最速ラップを記録。その結果、レーシングドライバー養成プログラムに選抜され、リアルのレーシングドライバーへと成⻑していくという物語だが、実はこのストーリー、それまでほとんど現実でモータースポーツを体験する機会のなかった10代のグランツーリスモプレイヤーがプロのレーシングドライバーとなった、現在も活躍中のヤン・マーデンボロー選⼿の実話に基づいている。

ハイネケン・ジャパンはeスポーツを通じてEA SPORTS F1 23の競技を通じてノンアルコールビール“Heineken0.0”のアピールを展開。ファッションモデルのマギーさんが日本大会にゲストで参加

 この映画は、いまや夢物語ではなく、多くのメーカーがそれぞれeSPORTSチームや⼤会を企画⽴案し、それに誰よりも⾛ることが⼤好きなプレイヤー達が集まり、⼤きな賑わいを⾒せている。

グランドファイナルにはマックス・フェルスタッペン選手が参加。世界の予選を勝ち抜いたプレイヤーと競う。現役のF1王者と競走できるのはeスポーツならではの魅力。ネットワーク技術が世界をひとつにする

 現在プレイヤーが選べるソフトの選択肢は豊富だ。プレイステーションという家庭⽤ゲーム機で圧倒的なプレイ⼈⼝を誇るリアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモ』シリーズ。ゲーム開発者が⽤意した編集ツールを利⽤して、マシンの改造やカスタマイズ、サーキットの追加などが可能な『アセットコルサ』や、多くの現役レーシングドライバーもプレイするオンラインレーシングシミュレーターの『アイレーシング』などが挙げられる。

ドライビングシミュレーターの再現度 どこまで現実世界に近づいているのか

 誤解を恐れずに書けば、現在シミュレーターの再現度は、4輪車のクルマにおいては、挙動、天候、操作感覚など、現実の近似値ではあるものの、十分に納得できるレベルに達している。

日本代表を決めるイベントは、多くの観客を集めて東京都内で4月に開催。優勝した小此木さんはグランドファイナルに日本代表として参加する。シミュレーターのギアボックスはマニュアルでもオートマチックでもOK

 そして、なんといっても、シミュレーターの強みは、トライ&エラーが何度でもできることだ。

トヨタは独自のeスポーツイベントを開催している
Gran Turismo 7: © 2024 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc. Manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game in some cases include trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. All rights reserved. Any depiction or recreation of real world locations, entities, businesses, or organizations is not intended to be or imply any sponsorship or endorsement of this game by such party or parties. "Gran Turismo" logos are registered trademarks or trademarks of Sony Interactive Entertainment Inc.

 現実でサーキット走行をする際に起こる移動の時間ロス、クラッシュのリスク、タイヤの摩耗、マシンの準備などあらゆる時間や労力を省略し、その分をドライビングにフォーカスして、ベストな走りをどこまでも追求することができる。  eSPORTSの世界とプロのレーシングドライバーを両立するドライバーは、イゴール・フラガ選手や冨林勇佑選手など、現在では珍しくなくなった。

 また、昨今のリアリティに重きを置くレースゲームには、現実のレースエンジニアがマシン情報を知るシステムによく似たテレメトリ・データロガー機能が備わっている。

 テレメトリとは、レーシングカーにセンサーなどを取り付け、走行することで得た情報を利用してマシン開発やレース展開に反映・活用していく技術だ。ドライバースキルを高めたり、マシンのセッティングを検討する際にも大いに役立つデータが記録できる。

ステアリングコントローラー、シート、ペダル、モニター、PC(ゲーム機)を揃えれば実際のドライビングに近い運転感覚が体感できる。費用は機種やアイテムによって異なるが、15万円程度で一定の水準に到達する

 本当に速いeRACERの多くは、このデータ分析も得意とするプレイヤーが多い。

 一般の人からすればただの折れ線グラフに見えるデータロガーの情報からは、各ドライバーの運転のクセ、それによってどのコーナーでどれだけタイムロスをしているか、タイヤがどのように路面に接地しているかなどを、客観的に読み取ることができる。

フォーミュラE東京大会にはゲーミングアリーナを開設。来場者にフォーミュラeマシンの走行感覚を体験する機会を提供した。FIAのライセンスを取得しなくても世界のトップカテゴリーマシンが運転できる

 自分でやみくもに走るのでなく、問題点を認識し、すぐに自分の走りへとフィードバックできれば、どこを修正すべきか、具体的にどうすればいいのかを、その場で瞬時に考えることができる。

 自分自身がどんどん速くなる達成感を一度味わうと、どこまでも速くなってみたくなるものだ。

ジャパンモビリティショー2023で開催されたブリヂストンGTタイムトライアルU17バイ・トヨタ・ガズーレーシングには全国予選を勝ち抜いた12歳以下と17歳以下の12名ずつが参加。免許取得前の若者が出場条件

 もし走行データの解析が苦手ならば、プロがコーチングしてくれる ブリヂストン・eモータースポーツ・インスティテュートのような、ドライビングに興味のある人が、ドライビングシミュレーターを使いプロドライバーから直接指導を受けながら気軽にモータースポーツのドライビング技術の向上を目指すことができる体験型プログラムもある。

マツダは“バーチャルからリアルへの道”をコンセプトに掲げて、オンラインレース・プログラムからリアルレースへのチャレンジを実施している。今年もグランツーリスモを使ったeスポーツ大会を開催する予定。ここで優秀な成績を納めたドライバーは選抜された後、リアルレースであるマツダファンエンデュランス(通称マツ耐)に出場するチャンスが与えられる

 マツダにいたっては、倶楽部MAZDA SPIRIT RACINGを通じてモータースポーツを文化の創造をテーマに、2022年からは“バーチャルからリアルへの道”と題し、eSPORTSから実際のレースへの参加をサポートするチャレンジプログラムを実施中だ。

 こうした取り組みはドライバー自身がステアリングを握って、クルマを操る楽しさ、そしてレースに参加する体験からしか得られない喜びを多くの人に味わってもらいたいというマツダの思いがあり、それがモータースポーツ活動を推進する原動力になっているという。

 モータースポーツを実際に始めようと思うと、ましてやプロのレーサーになろうと思うと多額の資金が必要になる。ときにはタイミングや仲間とのコネクションなど、運という要素がどうしても関わってきてしまう。ドライバーの実力以外の条件や環境が整わないと、モータースポーツの世界に入りにくいのは事実だ。だが、eSPORTSの場合はスタート時点で一定の費用はかかるが、実際のサーキット走行に比べれば、経済的な負担は圧倒的に少なくて済む。クラッシュに伴う費用負担もないし、ドライバー自身がケガをする心配もない。それでいて、走行感覚は実際の走りに極めて近い。

 いま、バーチャル体験を起点とした新時代の感覚を持ったクルマ好きが誕生してきている。歴史的にみてモータースポーツはクルマ文化の発展に寄与し続けてきたが、eSPORTSもまた新たな波を作り出そうとしている。ぜひ一度あなたも体験してみてほしい。

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