【モータースポーツ特集】 本物に乗るとプロドライバーの凄さがイメージできるようになる


本物に乗るとプロドライバーの凄さがイメージできるようになる

 フォーミュラカーに一度は乗ってみたい、という夢を年代問わず多くのモータースポーツファンは持っているものだが、国内トップチームの代表格であるトムスがその夢を叶えるべく作ったドライビングプログラムがある。その名も『TOM’Sフォーミュラ・カレッジ(以下、TFC)』である。

ステアリングにはたくさんのボタンが付いているほか、周辺にもたくさんのスイッチが用意されている。運転中のレーシングドライバーは指先まで忙しく仕事をしている

 TFCの最たる特徴といえば、童夢F110のシャシーにトムス製TZR42エンジンを搭載する2015~2023年のFIA-F4で実際に使用されていた本物のフォーミュラカーを自らの手で操れること。しかもレース経験や専用装備は不要で、普通自動車免許さえあれば誰でも気軽に参加できる(マシン制約のため一定の体格基準あり。詳細は公式サイト参照)。実際、TFC公式サイトには手軽さをアピールするべく、私服の女性がフォーミュラカーと一緒に映っているビジュアルで飾られている。

6点式シートベルトでドライバーをがっちりと固定する。シートに着座すると一気に気分が高まっていく。前方に見えるタイヤの存在がフォーミュラマシンに乗っている現実を印象づける

 TFCのプログラムは、未経験でも可能な“エクスペリエンスコース”、スキルアップが目的の“アドバンスコース”、サーキットで行う“プラクティスコース”、そして、実際のレースへ挑戦できる“エキスパートコース”の4つ。このうち、今回は“エクスペリエンス”と“アドバンス”を紹介する。

使用するコースは富士スピードウェイの駐車場にパイロンを設置した特設ステージ。反復練習を行うことでスキルアップを目指す

未経験者大歓迎のエクスペリエンスコース

 富士スピードウェイの駐車場を貸し切って行われるエクスペリエンスコースは、約30分のプログラム。マシンの基本的な操作方法や運転の仕方を丁寧に教えてくれるので、初めてでも安心。試乗時の装備品も、レーシングスーツは必須ではなく、なんと長袖長ズボンにスニーカーで参加が可能。ヘルメットとグローブは無料でレンタルできるのもありがたい。

レッスンで使用するF4マシンは2ℓ直4エンジン(160㎰)搭載。トランスミッションは6速パドルシフト。シャシーはカーボンモノコック製のDOME・F110。全長4340㎜、全高950㎜

 用意された特設コースは基本左回りのコースレイアウトで、クランクを設けたり、100Rを走っているかのような気分になれる右カーブがあったりと、一見シンプルに見えるが、実際に走ってみると実に奥が深いコース設計。曲がるタイミングとなるポイントの付近にはゼブラコーンが配置してあり、初心者にもわかりやすい工夫がなされている。広場なので、万が一のコースアウト時も安心だ。

受講前の手続きを行う瀬イオナさん。TOM'Sフォーミュラ・カレッジは普通自動車運転免許を保有していれば参加できる。ヘルメット/グラブはレンタルも用意されている

 エクスペリエンスコースの今回の講師は、レーシングカート出身で各種フォーミュラや、スーパー耐久、そしてSUPER GTなどでも活躍する古谷悠河選手。事前の説明を経て、走行中にも、走り方やブレーキング方法、パドルシフトのタイミング、ラインどりなど、講師からインカム(無線)を通して適宜アドバイスがあるので、安心して約15分間の走行を堪能できる。また走行後には講師から、ゴールド/シルバー/ブロンズとスキルに応じた3段階の評価とともに、講師のサイン付き修了証が授与されるので、一生の思い出に残ることは間違いない。

本格的なスキルアップができるアドバンスコース

 アドバンスコースは、主にエクスペリエンスコースでシルバー以上の評価を受けた方が対象で、スキルアップを目的とした約3時間のプログラム。午前と午後で2枠ずつの募集があり、プライベートレッスンのような環境で受講できることが大きな魅力。

本誌統括編集長・山本善隆はワンメイクレースなどの出場経験はあるが、フォーミュラマシンは初ドライブ。まったくのフォーミュラ・ビギナーでも的確な指導を受けて走行タイムは着実に短縮

 今回のアドバンスコースの講師はTGR TEAM au TOM'Sの監督を務め昨年シリーズチャンピオンに導いた伊藤大輔氏。座学ではコース図やオンボード映像を見ながら細かく教わり走行に備える。走行は、約7分間×2本のセッションを3回乗る機会があり、随時インカム(無線)を使用し講師から直接アドバイスが受けられる。各セッションの走行後にはデータロガーの結果を見ながら、講師と自身との比較データを用いて、改善点などがフィードバックされるのがありがたい。

パイロンコースでスキルアップを図るメリットとしブレーキングやコーナリングなどの操作を繰り返し練習できる点と、ガードレールに接触するリスクなどが回避できる点が挙げられる

 今回、本誌統括編集長・山本善隆がこのアドバンスコースを体験したのだが、初のフォーミュラカーのドライブであったため、1回目こそ慎重にドライブしながら徐々にペースアップしていき、講師の約2秒落ちとなるベストタイムを記録。その後の講師からのアドバイスをうけて、2回目には約1秒近くタイムアップ。そして3回目にはスピンを喫したものの、最終的にはさらに約コンマ3秒縮めることに成功。このように回を重ねるごとに徐々に上達していく様子をみても、指導レベルの高さがうかがえる。

スーパーGTなど国内トップカテゴリーで活躍した伊藤大輔監督(TGR TEAM au TOM'S)が講師として参加。一流選手は感覚的になりがちな走りのテクニックを平明に言語化して丁寧に説明してくれる

 経験者が参加するこのコースではそれなりのタイムで走行することもあり、後半にかけては意外なほど体力勝負にもなってくるそう。だが、フォーミュラマシンと全身で向き合い、操る楽しさ、そしてドライビングの奥深さを感じられるはずだ。

 終了時には乗り込み~発進、加速、減速、旋回、コース走行、総合の6項目からなるトムス独自の評価表が渡される。各項目がさらに細分化されているので、自身の課題が客観的視点で把握できる。データロガーによる走行データとタイム表、さらには車載動画がもらえるので、自分の走り方を受講後に振り返ることもできる。

参加者の走行データをリアルタイムで把握・分析。レース経験豊富なエキスパートが走りの改善点を的確に指摘してくれる

 そんなアドバンスコース、実はリピーターも多数存在するそう。プロドライバーの講師による的確なフィードバックや、トムスによる充実のサポート体制を目の当たりにすると、リピーターが多いのも確かに納得できる。

 かつてレースへの憧れを抱き、その熱い思いをずっと心のどこか⽚隅に秘めていた人たちに向けて、それをただの夢で終わらせない体験・環境を提供するこの魅力的なプログラム。参加費はエクスペリエンスコースが8万8000円、アドバンスコースが27万5000円と決して簡単に出せる金額ではないが、日本のモータースポーツを牽引するトムスだからこそ実現できる万全なサポート体制の下で“夢のフォーミュラカー”を自ら操る経験は、自身のクルマ人生に大きな変化をもたらし、モータースポーツへの興味関心が一段と高まるに違いない。百聞は一見に如かず、ぜひ一度体験してみてほしい。

走行データをグラフ化すると走りのいい点と悪い点が浮かび上がってくる

はやせいおな/自動車メディア編集部を経て、2024年からフリーランスで自動車ライターとして活動中。“乗って書ける”モータージャーナリストを目指し、ドライビングスキル向上に向け中谷明彦氏に師事のもと、現在KYOJO CUPなどの本格的なレース参戦を目標のひとつとしている。趣味は愛車の初代パジェロミニでの長距離ドライブ。

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