SUBARU GTエクスペリエンス 試乗記
SUBARUは1989年の1stレガシィ以来「より遠くまで より快適に より速く」というGT(グランドツーリング)思想を磨き上げてきた その伝統は現在レヴォーグが継承 東京モーターショーで期待の2ndレヴォーグがベールを脱いだ
SUBARUは伝統を大切にするメーカーである!
日本は登録13年超え車両の自動車税が増税されるように、残念ながらある意味で歴史を大切にしない国だ。ぶっちゃけ新車さえ売れればいい。よって、いくら面白くてもメーカーが旧型車両に乗る試乗会を主催する機会はめったにない。しかし、SUBARU(スバル)は少し変わっているようだ。東京モーターショーで新型レヴォーグのプロトタイプを公開するタイミングで、なんと現行レヴォーグと、そのネタ元たるレガシィの歴代モデルにまとめて乗れるプレス対象の試乗会が行われたのだ。イベント名は、スバルGTエクスペリエンスである。
1stレガシィ(1989年登場)は広報部がネットで探した上質車を200万円近くかけてレストアしたっていうから、つくづく面白い。それだけスバルは自らの歴史を大切にしているメーカーだということだ。もっとも、レヴォーグもたくさん売れてほしいんだろうけれど。
東京モーターショーでベールを脱いだ新型レヴォーグは1.8ℓ水平対向ターボ搭載 発売は2020年秋以降
1993年式1stレガシィ・ツーリングワゴンGTタイプ2S(BF5型) 1stモデルは1989年1月デビュー GTタイプ2は専用チューンのスポーツサスを組み込んだ特別仕様 パワースペックは200ps/26.5kgm 全長×全幅×全高4620×1690×1500mm
根本の走り味はひとつ。1stレガシィは個性の塊
今回、歴代レガシィに順に乗ってわかったことがある。それはスバルは軽自動車を除いて基本ひとつの味しかないということ。そしてその味を、老舗の焼き鳥屋のタレのごとく、継ぎ足し継ぎ足し改良していっている。その間、酸味が強いものもあれば、甘味が強いものもあり、味は揺れ動く。だが根本たる味わいは1stモデルも現行レヴォーグも、いうほど変わらない。
どんな商品も初物がいちばん個性的で面白く、一方で、欠点の塊でもある。しかし欠点を凌駕する魅力があれば根強いファンがつく。1stレガシィはまさにそれだった。
今回試乗したのはツーリングワゴンのGTタイプS2。ギアボックスはたったの4速AT。エンジンは2リッターターボで、最高出力はわずか200psだが、これが面白い。まずスタイルが斬新。やたらボンネットが薄くてエッジがきいたノーズもいいが、フロントに比べるとお尻がデカくてある意味アンバランス。ちょっとフランス車っぽい魅力すらある。
高速での素晴らしい安定性と峠道で楽しいハンドリングが個性 独特のボクサーサウンドと振動感は走るほどドライバーを魅了する
乗るほどに分かる高い実力。他のクルマにはない深い味わいとは
走りだが、まずはステアリングが軽すぎる。平成初期のパワーステアリングの象徴で、正直、フィールはない。そしてエンジンだ。みんな「スバル自慢の水平対向エンジンは完全バランスでよく回る」というが、それはフィーリング面では正確ではない。最初に乗ったときは、マジメにバイクのハーレーのVツインかと思った。「ボロボロ」と濁った音を発し、BMWのストレート6のような気持ちよさはない。
だが、乗ると次第にわかってくるのだ。レガシィが高速で異様な安定性を発揮することと、ステアリングは軽くとも左右対称の重量バランスのよさと優れた4WD性能のおかげで全然怖くないことに。さらにいうと、4WDなのに峠道でやたらよく曲がる。同時にそのハーレーのようなボロボロ音と振動感は、徐々に心臓の鼓動のように気持ちよく感じてくる。
1997年式2ndレガシィ・ツーリングワゴンGTーB(BG5型) 2ndモデルは1993年10月デビュー GTーBは1996年のマイナーチェンジで誕生したスポーツ仕様 パワースペックは260ps/32.5kgm(AT) 全長×全幅×全高4680×1695×1490mm
2001年式3rdレガシィ・ツーリングワゴン250S(BH9型) 3rdモデルは1998年6月デビュー 250Sは2.5リッター自然吸気ユニットを搭載した上級グレード パワースペックは170ps/24.3kgm 全長×全幅×全高4680×1695×1485mm
スタイリッシュな2nd、バランスの3rdモデル、魅力はより鮮明に
お次の2ndモデル(1993年登場)は1stモデルのよさを残しつつ、ネガを思いきって消したクルマだ。とくに今回は後期型の最速ワゴン、GT-Bだったからいろいろ濃かった。
まず顕著なのはエクステリアである。もともとメルセデスにいたオリビエ・ブーレイ氏のデザインを思いきって採用。結果、不格好さは消え、そっけないほどシンプルになった。
一方、エンジンはMT車で280ps、AT車で260psの2リッターボクサー4ターボ。得意のボロボロサウンドは絶好調で、同時に足回りはビルシュタイン製ダンパーにより超しっかり。フィールは薄いが妙な軽さはいっさいなくなった。
かたや3rdモデル(1998年登場)は、2ndモデルの反動が出ている。スタイルは、初代のダサカッコよさが微妙に戻ってきている。ボディサイズは全長4.6m台、全幅1.7m未満の 5ナンバー規格をキープ。取り回し性を落とさずにラゲッジ容量は歴代で最も大きいレベルで非常に使いやすい。
今回乗ったツーリングワゴン250Sの2.5リッターエンジンの最高出力は170psと大したことはないが、トルクが太くて乗りやすい。個人的には個性的なスタイルと走りのバランスが最もよく感じた。3rdレガシィは、小沢自身、買って持っていた時期がある。
2003年式4thレガシィ・ツーリングワゴン2.0GT(BP5型) 4thモデルは2003年5月デビュー 2.0GTはツインスクロールターボ搭載 パワースペックは260ps/35.0㎏m(AT) 全長×全幅×全高4680×1730×1470mm
レヴォーグ1.6GTーSアイサイト・アドバンテージライン 価格:7CVT 341万円 レヴォーグはレガシィ・ツーリングワゴンの後継車 1.6GTーSのパワースペックは170ps/250Nm 全長×全幅×全高4690×1780×1500mm
極限まで欠点を解消。しかし「カエルの子はカエル」基本は普遍
いよいよ4thモデル(2003年登場)。人気、販売面ともにヒット作になったが、個人的にはいちばんつまらないレガシィだ。ボディサイズは、ついに3ナンバーサイズになり、同時にグローバルを狙いすぎたのか、デザインが美しすぎてレガシィじゃないみたい。ダサカッコよくない。
しかし、走りはいい。試乗車は2.0GT。熟成の2リッターフラット4ターボはほどよい滑らかさ、十分な低速トルクを発揮するうえ、ギアボックスは4ATから5ATに進化。高速で無駄に高回転になることはない。
最後は現行レヴォーグ。大きくなりすぎたレガシィに代わり、2014年に登場した国内専用(現在は豪州や英国でも販売している)ワゴンだ。4thレガシィから乗り換えると、設計年次が新しいことは歴然。飛び抜けてよくなっている。
デザインがイマドキの塊感を持つのとボディ剛性が段違いに高い。1stレガシィの不安定さはいっさいなく、一般人が筋肉モリモリのアスリートに進化した印象だ。だが、バランスのよさ、異様に曲がるステアリング、ドロドロ回るフラット4フィールは変わらない。極限まで欠点は消されていて、超速くてパワフル。しかし「カエルの子はカエル」なのだ。
スバルの走りの魅力は高速走行時の抜群の安定性とシャープな操縦性 そして水平対向ユニット独特の鼓動 その味わいは1stレガシィから現行レヴォーグまで洗練を加えながら継承 ドライバーをとりこにする魅力は走るほどに際立つ