トヨタ・ヤリス 価格:139万5000~249万3000円 試乗記
トヨタ・ヤリス・ハイブリッドG(FF) 価格:THS 213万円 ヤリスはすべてを新開発 ハイブリッドのシステム出力はヴィッツ比16%アップ 駆動用バッテリー出力も50%ほど増強 走りをリファイン
すべてを刷新! 目指したのはクラスレスな実力車
トヨタ・ヤリスの販売がスタートした。新型フィットの発売が遅れた関係で、奇しくも「同時デビュー」という状況になった。ヤリスは、1999年に誕生したヴィッツの後継車だ。正確にいうと、「これまでヴィッツが海外市場で用いてきた名称を日本にも採り入れた初のモデル」という表現になる。
注目は、ボディ骨格からエンジン、トランスミッション、サスペンションに至るまで、「すべてをゼロベースで開発したブランニューモデル」という点。メーカーは、「1stヤリスの誕生から 20年の節目を迎え、クラスレスな新世代コンパクトカーを作るために、すべてを刷新した」と説明する。
ヤリスが採用した「GA-B」プラットフォームは、TNGA初のコンパクトカー用アイテム。2モーター式ハイブリッドシステムを組み合わせるユニットなど、搭載エンジンはすべて3気筒。これらは効率を重視した新世代のモデルならでの興味深いポイントだ。
パワートレーンは1.5リッターエンジン(91ps)とモーター(80ps)を組み合わせたハイブリッド、1.5リッターガソリン(120ps)、そして1リッターガソリン(69ps)の3種。トランスミッションはハイブリッドが電気式無段変速、ガソリンはCVTと6速MT(1.5リッター)を設定。
このうち1.5リッターエンジン車に採用されたCVTは、発進用ギアを加えた新しいトランスミッション。ヤリスは、スペックチェックを行っただけでも、開発陣の熱意が伝わってくる新世代モデルだ。
ハイブリッドGのWLTCモード燃費は35.8km/リッター 実燃費は250kmの試乗で24.8km/リッターを記録 全長×全幅×全高3940×1695×1500mm ホイールベース2550mm ヴィッツ比全長は5mm長く ホイールベースは40mm長い
筋肉質フォルム。自然なドライビングポジションが好印象
スタイリングは引き締まったイメージ。後輪側フェンダーフレアが強調されるなど、ヴィッツとは違う筋肉質なデザインでまとめられた。ボディサイズは全長×全幅×全高3940×1695×1500mm。全長が旧型ヴィッツ比で5mm長いだけでほぼオーバーラップする。ただし2550mmのホイールベースは同40mmのプラス。つまり、全長に対してオーバーハングを短縮したモデルが、ヤリスだといえる。
ホイールベースが長くなると、「その分、後席足もと空間が広がった」と説明されるのが一般的だが、ヤリスにその公式は当てはまらない。むしろ前後席間のタンデムディスタンスは、40mmほど短くなったという。
ホイールベースの延長で得た空間の恩恵を受けたのはフロント席だ。ドライバーズシートに腰を降ろしポジションを決めてみると、ペダル配置がホイールハウスの張り出しに干渉されていないことに気づく。ヤリスはコンパクトカーとは思えないほどリラックスした姿勢がとれる。
一方、後席のとくに足元空間は広いとはいえない。スペース重視設計のKトールワゴンからの乗り換え層からは「どうしてボディサイズが大きいのに、狭いのか?」と苦情が寄せられる可能性もありそうだ。同クラスのフィットと比べても、後席居住スペースの劣勢は明らかだ。少なくともシーティングレイアウト、パッケージングに関しては、フィットと考え方がはっきりと違う。どちらが優れているというのではない。クルマ作りのコンセプトが異なるのだ。
ボディタイプは5ドアHB 前席用と比較して後席用ドアは小型 乗降性はいまひとつ パッケージングは前席優先 ボディはしっかりとした印象 ねじり剛性はヴィッツ比30%向上
先進機能をラインアップ。フル装備車両の価格は300万円に迫る!
試乗車両はハイブリッドGと、1.5リッターエンジンをCVTと組み合わせたZ。駆動方式はいずれもFWD仕様。
ヤリスの魅力のひとつは、ひと昔前のコンパクトカーでは想像できなかったさまざまな先進装備をラインアップしていること。ただし、それらを次々と選ぶと車両価格は思いのほか高額になる。
フルLED式の前後ランプ(8万2500円)、ディスプレイオーディオ用ナビゲーションキット(11万円)、パノラミックビューモニター付きアドバンストパーキングシステム(7万7000円)ほか、試乗車のハイブリッドGにはディーラーオプションを含めて76万5600円、Zにはヘッドアップディスプレイ(4万4000円)、ブラインドスポットモニター(10万100円)など、同55万円のオプションが装着されていた。オプションを含めたハイブリッドGの価格は289万5600円、Zは247万6000円になる。
インパネは機能的なデザイン 見晴らしのいい視界と各種コントロールの最適レイアウトを徹底 写真はディスプレイオーディオ用ナビキット(11万円)装着
パワフルなハイブリッド。1.5リッター車もスポーティ
ハイブリッドGでスタート。トヨタのハイブリッド車らしく、基本的にはまずEVモードでスタート。加速の印象は、従来のヴィッツと比較して「力強さが大幅に増した」とわかる。アクセル操作に対する速度の高まりは、印象的なほど。「まずエンジン回転数が高まり、速度の上昇は1テンポ後から」という「ラバーバンド感」も、抑えられている。
高速道路にステージを移しても好印象は持続する。アクセルを少し踏み増すだけで強力な加速を披露。頼もしいパフォーマンスは新型の大きな魅力である。静粛性も全般に高い。
ハイブリッドGから1.5リッターエンジン車へと乗り換えると、こちらも加速性能は満足できる水準。ハイブリッドに劣らない発進時の力強さを感じられるのは、発進用ギアが加えられたCVTの恩恵だろう。もっとも、アクセルペダルの踏み込み量が増していくに従い、エンジン回転数の高まりに対して車速が素直に追従していかなくなる感覚は、1.5リッター車のほうが目立つ。
そうした違和感を軽減するために、1.5リッターには全開領域に近づくと、エンジン回転数の高まりをステップ状に制御する工夫が盛り込まれている。しかしそれでも万全とはいえない。できればパドルシフトを採用したシーケンシャル制御に発展させてほしいと感じた。なお、この1.5リッターエンジンは、4500rpm付近から上のパワーの伸びが優れている。意外にもスポーティなキャラクターの持ち主である。これは、以前MT仕様のプロトタイプをサーキットでテストした際に確認済みだ。
ボディカラーは2トーン6種/モノトーン12色の全18タイプ 写真はブラック×コーラルクリスタルシャイン(7万7000円)
上質なフットワーク! 足回りのポテンシャルは高い
ヤリスで感心した点は、フットワークの上質な味わい。コンパクトモデルとして世界屈指の水準に達している。とくに高速クルージングでのフラット感に関しては、間違いなく「これまでの日本車の水準を、大きく抜け出した仕上がり」と絶賛できる。豊かなクッション性を持つシートにも助けられているが、足回りのポテンシャルは極めて高い。
基本性能が充実した真摯なクルマ作りは、見やすく内容を理解しやすいメーターデザインや、ルームミラーの防眩機能、間欠モード付きリアワイパーの設定、ロックを解除した瞬間に下端まで落ちることのないステアリングのチルト機構など、これまでの日本車であれば「コスト優先」を理由に、とかく簡略化されがちだった部分で手を抜かなかった点からもわかる。
Gはヘッドレスト一体シート標準 写真は上級グレードのZと共通のコンフォートシート仕様(5万1700円) 室内長1845mm
メーターは視認性に優れた2眼式 中央のカラーTFTモニターに各種情報を表示
ハイブリッド車に設定するアドバンストパーク(7万7000円)は駐車時のステアリング&ペダル操作を自動制御 操作スイッチはコンソールに配置
後席使用時の荷室長は630mm 荷室幅1000mm 後席は6対4分割 スペースはクラス平均レベル
リアゲート開口部はワイド リアバンパー中央下部にバックライト装着
トヨタ・ヤリス・ハイブリッドG 主要諸元と主要装備
グレード=ハイブリッドG(FF)
価格=THS 213万円
全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm
ホイールベース=2550mm
トレッド=フロント1490×リア1485mm
最低地上高=145mm
車重=1060kg
エンジン=1490cc直3DOHC12V(レギュラー仕様)
最高出力=67kW(91ps)/5500rpm
最大トルク=120Nm(12.2kgm)/3800~4800rpm
モーター最高出力=59kW(80ps)
モーター最大トルク=141Nm(14.4kgm)
WLTCモード燃費=35.8km/リッター(燃料タンク容量36リッター)
(市街地/郊外/高速道路=36.9/39.8/33.5km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ドラム
タイヤ&ホイール=175/70R14+スチール
駆動方式=FF
乗車定員=5名
最小回転半径=5.1m
●主な燃費改善対策:ハイブリッド/アイドリングストップ/可変バルブタイミング/電動パワーステアリング/充電制御/電気式無段変速機
●主要装備:トヨタセーフティセンス(プリクラッシュセーフティ+レーントレーシングアシスト+レーダークルーズコントロール+オートマチックハイビーム+ロードサインアシスト)/先行車発進通知機能/セカンダリ―コリジョンブレーキ/プロジェクター式ハロゲンヘッドライト/電動格納式リモコンドアミラー/6エアバッグ/バックガイドモニター/デジタルメーター/4.2インチカラーTFTマルチインフォメーションディスプレイ/ウレタン3本スポークステアリング/スマートエントリー&スタートシステム/オートAC(電動インバーターコンプレッサー付き)/8インチディスプレイオーディオ+6スピーカー/DCM(車載通信機)/ヘッドレスト一体型ファブリックシート/運転席シート上下アジャスタ
●装着メーカーop:185/60R15タイヤ&6Jアルミ5万9400円/コンフォートシートセット(マルチカラーファブリック表皮+ヘッドレストセパレート型フロントシート+運転席イージーリターン機能+前席シートヒーター+買い物アシストシート+ローズメタリック加飾+ピアノブラック塗装メーターリング+助手席シートアンダートレイ+LEDアンビエントライト)5万1700円/3灯式LEDヘッドライト+フルLEDリアコンビランプ8万2500円/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックオートブレーキ+インテリジェントクリアランスソナー10万100円/トヨタチームメイトアドバンストパーク(パノラミックビューモニター付き)7万7000円/アクセサリーコンセント(AC100V・1500W)4万4000円
●ボディカラー:ブラック×コーラルクリスタルシャイン(op7万7000円)
※価格はすべて消費税込み リサイクル費用は7510円
トヨタ・ヤリスZ(FF) 価格:CVT 192万6000円 1.5リッター直3ダイナミックフォースエンジン(120ps)搭載 ヤリスのフットワークはハイレベル とくに高速クルージング時のフラット感に優れる 1.5リッター車はCVTと6速MTをラインアップ
ガソリンとハイブリッドの外観上の相違点はエンブレムだけ ヤリスには今後SUVなどの多彩なファミリーが登場予定 Zの試乗時燃費は18.2km/リッター
Zは360mm径のチルト&テレスコピック機能付き本革巻きステアリング標準 室内の作りは上質 ドライビングポジションは自然な感覚
※撮影協力:マースガーデンウッド御殿場