仏アルピーヌは2022年5月28日(現地時間)、アルピーヌの創業者のジャン・レデレ(Jean Rédélé)氏の生誕100周年を記念した特別仕様車の「A110GT J.レデレ」を発表し、6月1日(現地時間)よりフランス本国での受注を開始した。販売台数は100台の限定で、車両価格は8万3000ユーロ(約1145万円)に設定する。
1922年5月17日にフランス北部のセーヌ=マリタイム州ディエップで生を受けたジャン・レデレ氏は、名門ビジネススクールのHECパリ(École des hautes études commerciales de Paris)を卒業後、ディエップでルノーのディーラーを開設。自らもルノー4CVを改造したクルマを駆って、レースやラリーに参戦する。そして、1955年にはクルマのチューンアップショップであるソシエテ・デ・オートモビルス・アルピーヌ(Société des Automobiles Alpine=アルピーヌ自動車製造会社)を設立。アルピーヌの社名は、「Alps(アルプス)山脈をドライビングする楽しさ」という想いを込めていた。同年にはイタリア北部のロードコースを舞台に開催されたミッレ・ミリア(1000マイル)レースに、ルノー4CVをベースとしたクーペスタイルのレーシングマシンで参戦し、見事にクラス1、2位となる好成績を挙げる。クーペのスタイリングデザインは、イタリアの名デザイナーであるジョバンニ・ミケロッティ氏が担当。レデレ氏はこのプロトタイプを量産化し、「アルピーヌA106ミッレ・ミリア」の名で売り出す。車名のA106は、ベースとなったルノー4CVの型式ナンバーであるR1060に由来するものといわれる。このA106は、1962年まで生産された。
ルノー社のバックアップをとりつけていたレデレ氏は、1960年にルノー・ドーフィンをベースとした「A108」を売り出す。スタイリングは後のA110シリーズに続くデザインとなり、ルノー社との関係はさらに強化される。つまり、ルノーの量産モデルの変化と軌を一にして、アルピーヌのモデルも変化を続けることになったのだ。そして、1963年になると「A110」がデビュー。このモデルは、A108の後輪サスペンションをルノーが1962年に売り出したR8と同形式の、より容量の大きなスイングアクスルに変更していた。この改良により、操縦性は飛躍的に向上。スポーツカーとしてのポテンシャルは、クラスのトップレベルとなった。
A110はその後も着実な進化を続け、世界ラリー選手権をメインに数々の勝利を獲得する。また、1971年からはオープンホイールのプロトタイプマシンの製造も手がけた。一方、会社自体は1973年よりルノーの傘下に入り、以後はルノーの経営方針に則ったスポーツモデル、具体的にはA310やV6、A610などを開発・製造する。レデレ氏自身は1978年に会社の経営から退き、アルピーヌのブランドも1995年には消滅(2016年にルノー傘下で復活)。そして、レデレ氏は2007年8月10日にパリの自宅で逝去した。
今回発表された特別仕様車の「A110GT J.レデレ」は、パワーユニットに1798cc直列4気筒DOHC直噴ターボエンジン(300hp/340Nm)+7速DCTを搭載する通常モデルのA110GTをベースに、外装にはレデレ氏が好きだったというモンテベログレイのボディカラーとグロスブラック塗装のルーフ、ディアマントブラックの18インチGRAND PRIXアロイホイール、シルバー塗装のブレーキキャリパーを採用。一方、インテリアにはブラックのレザー内装にグレーのステッチ、そしてレデレ氏のサインと1~100までのシリアルナンバーを刻んだ専用プレートを装備した。
なお、A110GT J.レデレの実車は、ディエップで開催されたジャン・レデレ氏の生誕100周年を祝うイベントで披露。アルピーヌ本社から近隣のビーチの特設会場まで、BWTアルピーヌF1マシンなどと共にパレードランを行う。そして、セレモニーではA110GT J.レデレの第1号車のキーが、夫人のミシェル・レデレ氏に贈られた。