トヨタ・クラウン 価格▷435万~640万円(クロスオーバー/2022年秋発売予定) 新車ニュース
新世代クラウン誕生、伝統を打破した豊田章男社長の決断
1955年1stモデルが登場して以降、クラウンは日本のモータリゼーションの発展と共に進化・熟成を重ねてきた。しかし、ここ数年は、存在感がしだいに薄れていた。
その状況をトヨタは指をくわえて傍観していたわけではない。豊田章男社長は「ひと目見て、『ほしい!』、そう思えるクルマにするなら何を変えてもいい」と開発陣をサポートしてきた。旧型(15thモデル)はデザインだけでなくプラットフォームも刷新、日本専用車でありながらも海外でも通用する走りの実現のためにニュルブルクリンクで鍛えるなど、さまざまな改革を進めた。しかし販売が好転することはなかった。
クラウンのDNAは「革新と挑戦」である。とはいえ年以上にわたる伝統が足かせとなり、知らず知らずのうちに、変えたくても変えられない状況に陥っていたのも事実だ。
「このままではクラウンは終わる。何としてでもクラウンの新しい時代を作らなければならない!」。豊田社長はそんな危機感から行動を起こした。それが今回紹介する最新16thモデルだ。
遡ること2年前、豊田社長は開発陣から15thモデルのマイナーチェンジ案を見せられた。このとき、「本当にこれでクラウンが進化できるのか?」、「マイナーチェンジを飛ばしてもいいので、もっと本気で考えてみないか」と提案したという。そして新規プロジェクトが発足。トヨタのフラッグシップであることは不変だが、これまでの固定概念にとらわれない挑戦を行った。それが新型クラウンの4種のモデルバリエーションである。
セダン+SUVの発想で開発したクロスオーバー、スポーツはエモーショナルな走りのSUV、アクティブライフを楽しむ相棒となるエステート、そして正統派のセダンを用意している。
セダンは他の3台に対してフロントホイールからAピラーの間隔が異なり、サイドのプロポーションがFCEVのMIRAIに酷似していることから、筆者は「プラットフォームは別仕立て」と予想している。なお、スポーツは昨年12月に行われた「バッテリーEV戦略に関する説明会」で披露された数多くのBEVモデルの中の1台である。
新型はどのモデルも正真正銘クラウンなのだが、多様性が求められる時代に合わせ、単品ではなく「群」としての提案になった。多車種展開という戦略は、ヤリスやカローラ・シリーズと共通である。最初に発売されるのはクロスオーバー。他の3タイプは今後1年半の期間に順次登場予定である。
クロスオーバーの造形はセダンとSUVの融合。圧倒的に個性的
クロスオーバーのエクステリアは斬新だ。従来のザ・セダンから脱却し、クーペシルエットとリフトアップの融合ともいえる、「セダンを超えるセダン」の提案となっている。大型グリルをやめたフロントマスク、面の抑揚で表現したサイドビュー、左右一直線に繋がるヘッドランプ/テールランプなど、「威圧」、「圧倒」とは異なる新たな高級車像をアピールする。
一見はかなり大柄に見えるものの、実際のサイズは全長×全幅×4930×1840×1540mm。日本の道路環境を考慮し「全幅1800mm」までというこれまでの決まりを破っているが、グローバルで見ると標準といえる。全高は一般的な立体駐車場に対応。タイヤは主要モデルが21インチ、ベーシックモデルが19インチを履く。
インテリアは水平基調のクリーンなインパネからドアにかけて連続性のあるデザインを採用。イメージ的には旧型をより洗練し、シンプルにした印象だ。金属加飾や握り心地までこだわった操作系、仕立てのよさと着座安心感を追求したシートなど、細部まで抜かりなし。メーターは多彩な表示が選択可能だ。
「歴代クラウン伝統装備」といわれた運転席ドアに装着されるトランクオープナーと空調のスイング機能は廃止されたが、シートアシストグリップや助手席肩口パワーシートスイッチは継承している。
新型は、ドライバーズカーと思われがちだが、2850mmのホイールベースと大きなリアドアガラス&ラウンジのようなシートによる優れた後席居住性はもちろん、ゴルフバッグ3個が収納可能なラゲッジスペースなどユーティリティ性能も優秀。優れたオールラウンド性も魅力のひとつだ。
エンジン横置き/全車4WD。2種のHVをラインアップ
パワートレーンは全グレードともハイブリッド+AWDである。上級モデルのRS系はフロントに2.4リッター直4ターボ(272ps/460Nm)+モーター(61ps/292Nm)+ダイレクト6速AT、リアにモーター(59ps/169Nm)+eアクスル+バイポーラ型ニッケル水素バッテリーを組み合わせたデュアルブーストハイブリッドシステムをトヨタ初採用。システム出力349psは歴代クラウン最強である。パワフル&リニアな加速が最大の魅力だ。
一方、普及モデルのG/X系にはフロントに2.5リッター直4(186ps/221Nm)+モーター(119.6ps/202Nm、リアにモーター(54.4ps/121Nm)+E-FOUR+バイポーラ型ニッケル水素バッテリーを組み合わせた進化型THS2を採用。こちらはスムーズな加速&優れた燃費(WLTCモード22.4km/リッター)が特徴だ。
プラットフォームはエンジン横置きレイアウト。RAV4/ハリアーなどのGA-Kがベースだと思われがちだが、実際はSUV用とセダン用の「いいとこ取り」をした新開発の専用品である。サスペンションはストラット/マルチリンク式の組み合わせだ。
走りは高水準。基本性能を高めたうえで、4輪操舵(DRS)や車両運動制御システム(VDIM)、ACA(アクティブコーナリングアシスト)などの最新の制御技術、さらにはカローラ累計5000万台記念限定車で話題となった除電スタビライジングシートを組み合わせることで、「意のままの走り」と「リラックスできる乗り心地”を両立。旧型はニュルブルクリンクで鍛えた走行性能が話題となったが、新型はそれを軽く超えるレベルだという。開発陣は「駆動方式の概念を変えるパフォーマンスを実現できた」と自信を見せる。
先進安全・運転支援システムもは、最新のトヨタセーフティセンス(バージョン3.0)や高度運転支援技術トヨタチームメイトを装着。さらにトヨタ初の純正ドライブレコーダー(前後方)も採用された。 気になる価格は435万~640万円。内容を考えるとバーゲンプライス。旧型の反省を活かした設定となっている。戦略価格はトヨタのクルマづくり改革「TNGA」と「カンパニー制」そして、伝家の宝刀ともいえる「原価改善」により実現したそうだ。サブスクリプションサービス、KINTOにも対応しており、諸経費込みで月々9万円弱から利用が可能だ。
クロスオーバーをはじめ4台のクラウンは、60年以上の歴史で初のグローバルモデル。約40の国と地域で、年間20万台規模の販売を計画している。つまり「日本の高級車」が世界に羽ばたくのだ。
すべてが刷新された新型クラウンは、日本の歴史に重ねると15代で幕を閉じた江戸から明治に代わった時に似ている気がした。16thモデルは「明治維新」のごとく、新しい時代の幕開けにふさわしい1台である。