日産キックスX 価格:275万9900円 試乗記
キックスは、内田誠社長兼COO体制になった「新生」日産自動車の第1弾。これまで「売りたくても売れるクルマがない_」と悲鳴を上げていた販売現場からの期待は高い。
エクステリアの第一印象は「エクストレイルの弟分」といったイメージ。シャープな薄型LEDヘッドランプと立体的なVモーショングリルと相まって、「スポーティ」さと「先進性」、そして適度な「いい物感」が備わる。
ボディサイズは全長×全幅×全高4290×1760×1610mm。トヨタ・ヤリスクロス(同4180×1765×1590mm)とC-HR(同4385×1795×1550mm)のほぼ中間。取り回し性に優れた設定だ。
インテリアは水平基調のオーソドックスなデザイン。直感操作が可能な空調スイッチやレバー式の電制シフトセレクターなど機能的に仕上げられている。ダブルステッチ付きシートやソフトパッド&ドアトリム、グロスブラック処理の加飾など、各部の質感はハイレベル。ただし、樹脂系パーツのクオリティはあまり高くない。
メーターは、リーフ譲りのアナログ+7インチフルカラーディスプレイ。見やすいのだが、先進的な印象は薄い。なお、先日北米で発表された新型ローグ(=次期エクスレイル)にはフル液晶メーターが採用されている。
キックスの室内は、視界のよさと開放感が特徴である。 Aピラーはどちらかといえば太め。しかしフロントガラスのワイドな見開き角、低いウエストラインと突起の少ないインパネなど、各部の工夫が利いている。後席も広い。優れた居住性はエクスリアから想像できないほど。身長170cmのパッセンジャーが座ると、足元、頭上ともこぶし1個以上の余裕が残る。シートの高さや角度設定も適切だ。ラゲッジスペースも実用的。Mサイズのスーツケースが4個積めるクラストップの容積を確保する。電動リアゲートが未採用なのは残念だが、使い勝手に優れる。
パワートレーンは「エンジンで発電、モーターで走る」日産自慢のeパワー。発電用エンジン(直列3気筒1.2リッター)、モーター、インバーター、バッテリーなど基本システムはノートと共通。キックス用はノート比でエンジン出力が5%、バッテリー出力は14%引き上げられおり、モーターの最大出力は129ps(19%増)、最大トルクは260Nm(2%増)を発揮する。
アクセルひと踏みで「スッと発進」、「スムーズな加速」を披露するレスポンスのよさは、ノートやセレナのeパワー車と同様。ただしキックスは、よりダイレクト&スポーティなノートeパワーNISMOに近い。1350㎏と決して軽くない車体を「おっ、速い_」と感じさせる力強さで走らせる。
高い静粛性も魅力。ノートはエンジンが始動すると騒音が一気に高まり、EV走行時とのギャップが興ざめだった。キックスは遮音材の追加とガラス厚の見直し、さらに車速に応じたエンジン回転数の制御、発電タイミング(充電量重視→車速重視)の変更で、定常走行時はエンジンが始動しても気にならない。アクセルをグッと踏み込むと3気筒らしい軽めのエンジン音が聞こえてくるが、遠くで回る感じで耳障りではなかった。
ハンドリングはクルマから受ける印象以上に骨太だ。ステアリングは実用域では扱いやすさ重視の軽めの操舵力だが、60km/hくらいを境に手ごたえが増す。中・高速時の安定感はハイレベル。もう少し中立付近の落ち着きとタイヤとステアリングの直結感が高まると、安心感はもっと増すはずだ。
フットワークは、姿勢変化を抑えたクルマの動きが印象的。バッテリー搭載による低重心化や前後重量バランスの適正化、さらにコーナリングをサポートするインテリジェントトレースコントロールが相まって、アンダーステアが出そうなコーナーでも「曲がりすぎ!?」と感じるくらいノーズがインを向く。キックスの最低地上高は170mm(ノート比+40mm)、全高は1610mm(同+90mm)と基本的に走りの面でノートに対して不利な数値だが、実力はノートよりレベルが高い。
快適性は車重を活かした落ち着きある足の動きと、優れたショック吸収性、粗い路面でのザラサラした振動の少なさがポイント。SACHAダンパーを採用したエクストレイルAUTECHに近い動的質感を備える。
ブレーキは、アクセル操作だけで車速コントロールが可能な「1ペダルドライブ」が選べる。制御はノート/セレナより自然で、ドライバーの感覚になじむ設定だ。
先進安全装備はプロパイロットやインテリジェントエマージェンシーブレーキ、車線逸脱防止支援システム、車線逸脱警報、踏み間違い衝突防止アシスト、SOSコールが標準。インテリジェントアラウンドビューモニターはop設定になるが、各種制御は的確で使いやすく、安心度は高い。
駆動方式はFFのみ。4WDの設定がないのは気になるが、キックスの完成度はハイレベル。バランスの取れたモデルに仕上がっている。激戦区のコンパクトクロスオーバーSUV市場で「台風の目」になるポテンシャルを備えている。
グレード=X
価格=275万9900円
全長×全幅×全高=4290×1760×1610mm
ホイールベース=2620mm
トレッド=フロント1520×リア1535mm
最低地上高=170mm
車重=1350kg
エンジン=1198cc直3DOHC12V(レギュラー仕様)
最高出力=60kW(82ps)/6000rpm
最大トルク=103Nm(10.5kgm)/3600~5200rpm
モーター=交流同期電動機
モーター定格出力=70_kW(95ps)
モーター最高出力=95kW(129ps)/4000~8992rpm
モーター最大トルク=260nm(26.5kgm)/500~3008rpm
WLTCモード燃費=21.6km/リッター(燃料タンク容量41リッター)
(市街地/郊外/高速道路=26.8/20.2/20.8km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ディスク
タイヤ&ホイール=205/55R17+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=5名
最小回転半径=5.1m
●主な燃費改善対策:ハイブリッド/アイドリングストップ/可変バルブタイミング/ミラーサイクル/電動パワーステアリング
●主要装備:プロパイロット/インテリジェントエマージェンシーブレーキ/インテリジェント車線逸脱防止支援システム/車線逸脱警報/ふらつき警報/踏み間違い衝突防止アシスト/前後ソナー/SOSコール/ヒルスタートアシスト/IRカット&スーパーUVカット断熱グリーンガラス/プライバシーガラス(リア3面)/LEDヘッド&フォグランプ/ハイビームアシスト/インテリジェントオートライト/サイドターンライト内蔵ドアミラー/本革巻きステアリング/7インチドライブアシストディスプレイ/電制シフト/プッシュパワースターター/e-POWERモードスイッチ/EVモード/インテリジェントキー/ピアノブラック調フィニッシャー/オートAC/合成皮革+織物コンビシート/6対4分割リアシート/トノボード/イモビライザー/シルバールーフレール
●装着メーカーop:インテリジェントアラウンドビューモニター+インテリジェントルームミラー6万9300円/前席シートヒーター+ステアリングヒーター+寒冷地仕様5万5000円
●ボディカラー:サンライトイエロー(op3万8500円)
※価格はすべて消費税込み リサイクル費用は1万120円