アストンマーティン・ブランドストーリー Since:1913
モータースポーツで磨いた骨太メカニズム。数々の名車を輩出
アストンマーティンの創業者であるロバート・バムフォードとライオネル・マーティンが共同でバムフォード&マーティンを起業したのは1913年のこと。その翌年、ライオネルは既存のエンジンとシャシーをベースに製作したスペシャルモデルを駆り、アストン・ヒルで開催されたヒルクライム競技に出場する。これが「アストンマーティン」というブランド名の発祥となった。
創業当時はごく少量のレーシングカーを生産。いくつかの栄冠を勝ち取ったものの、経営は決して順調ではなく、オーナーシップは何度となく入れ替わった。1947年にはトラクターなどを生産するデイビッド・ブラウン社が買収。ラゴンダという名の自動車メーカーも所有していた同社は、2社を合併させてアストンマーティン・ラゴンダ社を設立する。ちなみに、ラゴンダにはベントレーの創設者であるW.O.ベントレーが技術者として参画しており、後にアストンマーティンの開発にもかかわるという歴史の綾も見られた。
デイビッド・ブラウンの功績は、DB1に端を発するモデルシリーズを生み出したことにある。中でも、最も有名なのがDB5で、カロッツェリア・トゥリング製の美しいボディをまとった2ドアクーペは映画007『ゴールドフィンガー』にボンドカーとして登場し、アストンマーティンの名を世界的に知らしめるきっかけを作った。
その後も経営は安定せず、一時はフォード傘下のプレミアム・オートモーティブ・グループの一員となったが、2020年にはカナダ人のローレンス・ストロール率いるコンソーシアムが大株主となり、同社の経営権を握ることとなる。
現在の主力モデルはDBシリーズに代表されるフロントエンジンのグランドツアラーだが、近年はミッドシップ・スーパースポーツカー市場にも進出。今後はグランドツアラーとミッドシップスポーツの2本立てでブランドの活性化を図る計画のようだ。
珠玉のFRサラブレッド。DB11・V12クーペの誘惑
V12ツインターボは、たじろぐほど劇的なサウンドで目を覚ました。早朝の住宅街ではちょっと気が引ける。しばらくするとボリュームはダウンするが、待っていられないほどのラウドさ。もっとも、そのサウンドこそがドライバーを奮い立たせてやまないのだが。
DB11は幅が広くルーフも低い。そのため凄まじく平べったく感じる。室内はさほど窮屈さを感じないものの、フロントウィンドウの天地は薄く、ワイドなクルマだという印象が先に立つ。けれどもステアリング操作に対してフロントアクスルがよく反応するため、動き出すと大柄なクルマだとは次第に思わなくなった。
高速道路では質の高いグランドツーリングカーに徹した。低回転域ではエンジンサウンドも控えぎみで適度。そのさえずるような音が心地よい。路面からのショックも綺麗にいなし、ボディもまた余計な振動を増幅させることがない。伸びやかだが筋肉質、ビシッと引き締まっている。上質なGTカーである。