BMWといえば内燃機関(エンジン)主体のブランドというイメージが強い。シルキーシックスなどはその際たるものだ。けれども、彼らは次世代パワートレーンというテーマに関して常にこうアピールしてきた。「駆け抜ける歓び」を実現するためには手段を選ばない、と。
極論すればBMWにとってピュアな内燃機関を積むか電気モーター+バッテリー駆動か、はたまたその組み合わせ(ハイブリッド)や他の出力装置であるかは、もはや関係ないのだろう。結果的に顧客の望むドライビング・ファンが実現できるのであれば、それはそれでよしとする。実はそれこそがBMWの考えだ。ジャーマンプレミアムブランドの中でも最も早くから電動化に取り組んできたブランドがBMWであった事実を思い出せば、それも納得できるに違いない。
雌伏のときを経て、再び i モデルに積極的な取り組みを見せるBMW。彼らの意気込みを示すモデルが完全専用設計のBEV、iXである。
他のiモデルとは違って、既存の内燃機関モデルとプラットフォームを共有しない。そういう意味ではBMWにおける電動モデルのフラッグシップと言っていい。また、個性豊かな内外装デザインや全く新しいドライブフィールを考慮すれば、未来に向かって躍進しようとするブランド全体の「今」を表現する旗頭と言えなくもない。iXは産業激変の時代においてフラッグシップの新しいあり方を提案している。
そう思ってこの新しい電気自動車を味わうと、これまでのBMWにはなかった、新しい次元の「駆け抜ける歓び」があると知る。緻密に制御されたアクセルレスポンスは常にドライバーの意志に寄り添いつつもEV特有のパンチ力で期待に応えてくれる。乗り心地は重厚かつ洗練されており、それでいて操る楽しみもある。実際には安楽にクルージングを続けたくなるようなライドフィールなのだけれども、乗り手がその気にさえなればよくできたハンドリングマシンにもなりうるという点で、これまでの「せっかちなBMW」のドライブフィールとは一線を画す。内外装のデザインもヒューマンインタフェースからコネクタビリティまで、iXには新たな提案がぎっしり詰まっている。BMWの今と未来を知るにはiXが最適である。
だが、iXはBMW全体のイメージリーダーではなさそうだ。BMWのフラッグシップは当面7シリーズで動かないだろう。iXにもその資質はあると思うし、今後はその方向へと進んでいく可能性も高い。けれども先日モデルチェンジしたばかりの7シリーズにはビッグサルーンとしての未来展望がたくさん盛り込まれていた。なかでもアイコニックな存在であった12気筒エンジンを積む760の代わりに電動モデルのi7を新設定した意味は大きい。
それはこの先、iシリーズが主力になるという宣言だ。一方で見逃してはいけないこともある。BMWの考える最新のドライビングプレジャーが「操る楽しさ」にとらわれていないという事実だ。ドライバーオリエンテッドという伝統は継承されたが、20世紀型のドライビングファンだけを目指したわけじゃない。そのことが新型7シリーズからも、そしてiXからも滲み出ている。たとえば後席の快適性向上などは、未来の「駆け抜ける歓び」を想像する上で大きな鍵になるだろう。
※本稿は雑誌『CAR and DRIVER』(2022年12月号)に掲載中の特集【「フラッグシップ」の新しいカタチ】内で紹介されているBMW iXについての関連ストーリーをお届けしています。
グレード=iX M60
価格=1740万円
全長×全幅×全高=4955×1965×1695mm
ホイールベース=3000mm
トレッド=フロント:1660/リア:1690mm
最低地上高=200mm
車重=2600kg
モーター型式=HA0002N0/HA000N0(交流同期電動機)
モーター定格出力=フロント:70kW/リア:125kW
モーター最大出力=フロント:190kW(258ps)/リア:360kW(490ps)
モーター最大トルク=フロント:365Nm(37.2kgm) /リア:650Nm(66.3kgm)
一充電走行距離(WLTCモード)=615km
交流電力量消費率(WLTCモード)=199Wh/km
駆動用バッテリー=リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量=111.5kWh
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:ウィッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=275/40R22+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=6.0m
BWW iXを知ることは、BMWの現在と未来を知ることになるー BWW iXについて詳しくは本誌掲載中の特集記事でご紹介しています