1970年に誕生したレンジローバーは、誕生した当時から、その洗練されたスタイリングに気品が溢れていた。それまでのSUVとは明らかに世界観が異なっていたのだ。しかも装備品は一般的なセダン並みに充実していたうえ、インテリアの質感は良好。乗り心地は快適で、室内は静かだった。もちろん従来のSUVと同等以上のオフロード性能を備えていた。
本格的なオフロード性能と気品溢れるスタイリングから、レンジローバーは「砂漠のロールスロイス」とも呼ばれるようになる。その後、半世紀を超す歳月が流れても、「街にも荒野にも似合う、気品溢れるラグジュアリーSUV」というコンセプトはいささかも揺らいでいない。このほど4度目となるフルモデルチェンジが実施されることとなった。
5代目レンジローバーの走りの基盤となるプラットフォームは新開発のMLA-FLEXを採用。全体の80%がアルミ製とされた新プラットフォームは、軽量化に加えてリアサスペンションのマルチリンク化と4WSの搭載を実現。優れたオフロード性能はそのままに、より快適な乗り心地と軽快なハンドリングを目指して開発された新世代アーキテクチャーである。
エンジンはBMWと共同開発した4.4リッターV8ガソリンを筆頭に、3リッター直6ガソリン+PHEV、3リッター直6ディーゼル+マイルドハイブリッドの3タイプを用意。将来的にはランドローバー初のBEVが登場することが予告されている。
P530ファーストエディションと呼ばれるV8ガソリンエンジン搭載モデルを試した。静粛性は圧倒的で、エンジン音はおろか、タイヤが発するロードノイズまで車速を問わずほとんど聞こえなかった。しかも、サスペンションストロークがたっぷりととられた足回りは、オンロードでのハンドリングを重視した最近のSUVとは別次元のソフトでしなやなか乗り心地を実現。まさしく、「砂漠のロールスロイス」に相応しい上品で快適な仕上がりだった。
しかし、本当に驚くべきは、そうした乗り心地と正確なハンドリングを両立させたことにある。
快適性だけでいえば4代目レンジローバーも決して悪くなかった。しかし5代目は先代さえしのぐ乗り心地が楽しめるうえに、ステアリング操作に対する遅れがほとんど感じられない、極めて正確なハンドリングを実現したのである。これに関しては、新型がマルチリンクサスペンションを採用したことが大きく影響している。
走りも素晴らしいが、新型レンジローバーの最大の魅力はスタイリングにある。実に美しく、しかも強い存在感を放つ。ボディのあらゆる部分における段差が小さいうえ、シャットライン(ボディパネル同士の境目)の幅が恐ろしく狭く、その存在自体がほとんど目立たないのが印象的だ。
チーフクリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバン氏は「モダン・ラグジュアリー」を標榜したと語ってくれた。たしかにその姿は近未来的なうえに、非常に精巧で確かなクォリティ感が伝わってくる。しかも、プロポーションが優れていることも大きな個性だ。これは標準ホイールベースとロングホイールベースの両方に共通するポイントである。
くわえて注目すべきは、新型のロングホイールベース版には、レンジローバー史上初となる3列シートが装備可能な点にある。実は、3列シートを求める声は以前から高かった。しかし4代目までのレンジローバーでは、3列目シートを設けるにはスペース面でも快適性面でも、レンジローバーを名乗るに十分な配慮が確立できず、泣く泣く諦めてきたという。しかし、5代目ではこの課題を完全にクリア。「美しい3列シートのSUV」がついに登場したのである。新型レンジローバーは、ハイエンドSUVとして、どこにも死角がない。まさに新たなブリティッシュ・フラッグシップの誕生といえる。
グレード=ファーストエディションP530(SWB)
価格=8SAT 2307万円
全長×全幅×全高=5065×2005×1870mm
ホイールベース=2995mm
トレッド=未公表
車重=2626kg
エンジン=4395cc・V8DOHC32Vツインターボ(プレミアム仕様)
最高出力=390kW(530ps)
最大トルク=750Nm
WLTCモード燃費=未公表(燃料タンク容量90リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路=未公表)
サスペンション=フロント:マクファーソン/リア:ウイッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=285/40R23+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=5.5m
※価格を除き、スペックは欧州仕様