ベントレー・ベンテイガは、現在に続く“ラグジュアリーSUVブームの火付け役”である。2015年のフランクフルトショーで公開されると、これを追うようにしてランボルギーニ・ウルスが誕生。さらにロールスロイス・カリナンとアストンマーティンDBXが続き、ついにはフェラーリ・プロサングエが発表されたことはご存じのとおりだ
ベンテイガは発表翌年の2016年に5586台を販売。ベントレー全体に占める比率はこの年、47.3%に達した。それ以降も毎年4000〜5000台を売り上げ、「ベントレーでもっとも人気のあるモデル」の地位を守り続けている。
ベンテイガの魅力とはなにか? 端的に説明するなら、「優れたグランドツアラー性と快適性、さらには豪華な内外装といったベントレーならではの特色をすべて備えたSUV」となるだろう。
2020年に初のマイナーチェンジが実施され、主力エンジンをV8にスイッチ。その脇を固める形でW12やV6 PHVも用意している。さらにはスポーティな雰囲気が漂うベンテイガS、ラグジュアリーなイメージのベンテイガ・アズールなどを追加し、ラインナップの強化を図ってきた。
新たに加わったベンテイガEWBは、ベンテイガのロングホイール版。要は後席の居住性を一段と強化したモデルといえる。ちなみにEWBはエクステンデッド・ホイール・ベース、つまり「ホイールベースを延長した」の意味で、イギリスの高級車でよく使われる表現である。
現状ではEWBのパワートレインはV8エンジンのみ。ホイールベースを標準仕様比で180mm延長するとともに、オプションでエアライン・スペシフィケーションと呼ばれるリアシートをオプション設定。これはワンタッチでゆったりと寛げる体勢を作り出したり、各種センサーにより温度調整や着座姿勢を自動設定する機能などが装備された快適パッケージだ。
EWBは、ロングホイールベース版に相応しい装備や仕様を備えながら、ホイールベース延長に伴うデメリットをほとんど感じさせない。これは大きな特徴だ。もちろん、ロングホイールベース版らしい「穏やかな乗り心地」を満喫できる。とりわけ後席の快適性が大幅に向上したことは目を見張るばかり。標準モデルではゴツゴツとした感触がはっきりと伝わってくるスポーツモードでも、EWBの後席であればまったく気にならない。しかも、EWBは遮音対策も入念に行ったようで、荒れた路面を走っていてもゴーッというロードノイズがほとんど耳に届かなかったことにも驚かされた。
SUVスタイルのベンテイガと、サルーンのフライングスパーと比較するとどうか? 「高性能なグランドツアラー」という点において、2台に大きな違いはない。どちらも十分にパワフルなほか、ハイウェイでもワインディングロードでも魅力的で、工芸品と表現したくなる豪華なインテリアを備えている。
とはいえ、SUVとサルーンという車形の違いに起因する差が散見されることも事実だ。重心が低いフライングスパーは、コーナーに進入時に「ワンテンポ待つ」必要がほとんどない。乗り心地も、重心の低いフライングスパーのほうが有利。これには、ミュルサンヌがなくなったいま、フライングスパーがベントレー全体の最上位に位置していることも関係しているはずだ。
実は、ベンテイガのプラットフォームがアウディ由来のMLBエボであるのに対し、フライングスパーはポルシェ中心で開発されたMSBを用いている。それでも、最終的に同じベントレー風味に仕上げてしまうところが、クルーの技術者たちの腕の見せどころといえるだろう。
グレード=EWD
価格=8SAT 2675万円
全長×全幅×全高=5305×1998×1739mm
ホイールベース=3175mm
トレッド=フロント:1689/リア:1707mm
車重=2514kg
エンジン=3996cc・V8 DOHC 32Vツインターボ
最高出力=404kW(550ps)/6000rpm
最大トルク=770Nm/2000~4500rpm
WLTCモード燃費=未公表(燃料タンク容量90リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路=未公表)
サスペンション=フロント:4リンク/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=285/40R22+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=5.9m
※価格を除き、スペックは欧州仕様