1979年に、「アルト47万円」という、金額を押し出した衝撃的なキャッチフレーズで登場した、スズキ・アルト。「あるといいな~」で、それまで「一家に一台」体制だったものを、セカンドカーとして、女性の足として、そんなクルマがあったら便利だよね、とユーザーの意識まで変えることとなり、大ヒットとなったそうだ。
この価格を実現したのが4ナンバー、つまり商用車化。確かにチョイ乗りがほとんどのセカンドカーなら、後部座席の重要度は高くないわけで、実に理にかなっている。だが、この発想の転換と割り切りは、どの自動車メーカーにもできることじゃない。
さらに、それによってユーザーの認識や意識を変えるというのは、とてもスゴイことなのだ。 そこから、時は流れて昨年発売されたのが、この9thアルトだ。パッと見は、8thモデルの進化版に見えるし、今回はアルト・ワークスのようなアイコン的モデルもないため、ちょっと地味に感じるかもしれない。
しかし、エンジンはエネチャージの他、アルト初のマイルドハイブリッドが登場。トランスミッションもCVTに一本化することで、燃費は27.7km/リッターを達成したというから驚きだ。最新鋭の安全装備等もしっかりつけてこの燃費を実現したのはお見事だ。
エネチャージとマイルドハイブリッドの差は、減速エネルギーを回生した電力を、走行のために使っているか否かである。貯めた電気をエネチャージは電装品に使い、マイルドハイブリッドは、パワーを使う発進時はもとより、走行中の中間加速などにも電気モーターでアシストするといった具合だ。走行をアシストしてくれれば、むやみにアクセルペダルを踏み込まなくてよくなるため、燃費が伸びるという結果につながる。
だったら全車マイルドハイブリッドでも……という気もするが、アルトは社用車としての利用も多い車種である。となれば、少しでも価格を抑えたいというのも頷ける話で、エネチャージ版もラインアップしたということなのだろう。ちなみにこちらも25.2km/リッターと十分な燃費数値を達成している。
さて、今回試乗したマイルドハイブリッドモデルは、ドアを開けた瞬間から「アルトってこんなに豪華だったっけ?」と、つぶやきが漏れてしまうくらいの質感に仕上がっていた。走り出しても、ちょっと元気すぎる!といいたくなるくらいシャキッとしている。
以前、母のクルマを購入する際、アルトの最上級モデルを見せたにもかかわらず、「安っぽいからアルトだけはイヤ(先々代)」といわれたことがあるが、このアルトなら十分満足してくれるに違いない。
ちなみに営業車として使われることが多いベースグレードにも試乗したが、後部座席の窓が開かないのが気になったくらいで「これなら営業マンの心と体の負担が減るだろうな」と、感じられたくらいの乗り味と乗り心地に仕上がっていた。きっとこれも発想の転換と割り切りのひとつなのだと思う。
そのように、使う人の身になって、何が最も求められているのか。そこを真剣に考えているのがアルトのヒットの真相なのだろう。
・世代を超えて親しみやすく、愛着のわくデザインを採用
・マイルドハイブリッドの搭載で優れた燃費性能を実現
・使う人の身になって、求められていることを突き詰めている
※本稿は本誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』の2022年10月号(8月26日発売)に掲載されたアーカイブ記事です