4ドアのV12スーパースポーツ、フェラーリ・プロサングエの美しき世界

プロサングエ(PUROSANGUE)というネーミングはイタリア語で“純血種”を意味する。フェラーリ初の4ドアモデルながら正統スポーツカーであることの宣言とも受け取れる。ドアはユニークな観音開き構造

プロサングエ(PUROSANGUE)というネーミングはイタリア語で“純血種”を意味する。フェラーリ初の4ドアモデルながら正統スポーツカーであることの宣言とも受け取れる。ドアはユニークな観音開き構造

SUVではなく、あくまで4ドアスーパーカー

「フェラーリもSUVを出す」というウワサは現実となった。その名はプロサングエ。イタリア語で「純血種」を意味する、英語で言うところのサラブレッドだ。
 SUVスタイルを持つモデルではある。けれどもプレスカンファレンスでマラネッロの首脳陣はプロサングエを「初の4ドアモデル」とはいったものの一度もSUVとは呼ばなかった。プロサングエは、ブランニューモデルでありながら、マラネッロの75年にわたる歴史にあってあくまでも純血種であり、伝統に背くモデルではないというのが彼らの主張である。確かにプレゼンテーションを聞いた後では「まったく新しいカテゴリーに属する、実にオーセンティックなマラネッロ製スポーツカー」、といいたい自分がいた。

 スタイリングは予想どおり。初期のリーク写真によく似ている。中でも印象的だったのはリアフェンダーの膨らみとリアオーバーハングの短さ、そしてアッパーボディとロワボディが2階建て構造になっていること。ちなみにロワボディのパートはマットかグロスのブラックが標準で、カーボンファイバーはオプションとなる。ボディ同色はいまのところ設定されていない。デザイナーが認めていないのだろう。

シルエットは筋肉質のロワボディとクーペ形状のアッパー部分の組み合わせ。ロングノーズと極端に短いリアオーバーハングが印象的だ。大型リアゲートでユーティリティも高水準

シルエットは筋肉質のロワボディとクーペ形状のアッパー部分の組み合わせ。ロングノーズと極端に短いリアオーバーハングが印象的だ。大型リアゲートでユーティリティも高水準

ドアはロールスロイスのような観音開き式。マラネッロはこれを「ウェルカムドア」と呼ぶ

ドアはロールスロイスのような観音開き式。マラネッロはこれを「ウェルカムドア」と呼ぶ

ドアは印象的な観音開き。インパネも美しい

 予想を超えてきたのはリアドアの開き方だった。ロールスロイスのように観音開きになっている。マラネッロはこれを「ウェルカムドア」と呼ぶ。実際に開け閉めして乗り込んでみたが、確かに乗りやすい(ドアの開く角度も大きい)。後席に荷物を投げ入れることも容易だ。このドアは、便利なだけではなかった。後ろヒンジのリアドアを採用したことでホイールベースを必要以上に長くせずにすみ軽量化に貢献した。大きなピラーを残したことは、高剛性化にもプラスをもたらしている。事実、全長やホイールベースは2ドア4シーターのGTC4ルッソとほとんど変わらず、全高が20cm高くなっただけである。

 目を見張ったのはインテリアだった。ローマの流れを汲んだデュアルコクピットコンセプトをいっそう大胆に取り入れている。シートは4席ともスポーティなバケットタイプで、座ってみればタイトさと広い空間の組み合わせが意外にも新鮮だ。細かな点ではステアリング周りのスイッチ類も「ローマの不評」を改善して凸凹が付けられ、操作性は向上していると見受けた。

インパネには左右を分割したデュアルコクピットコンセプトを導入。トランスミッションは8速DCT

インパネには左右を分割したデュアルコクピットコンセプトを導入。トランスミッションは8速DCT

シートは前後とも独立したバケット形状。室内空間は広く後席でも心地いいスポーツフィールが楽しめる

シートは前後とも独立したバケット形状。室内空間は広く後席でも心地いいスポーツフィールが楽しめる

パワーユニットは伝統のV12自然吸気。スペシャルな「4ドアの跳ね馬」の誕生

 マラネッロが背の高い4ドアの新型モデルを「純血スポーツカー」と名付けた理由は、メカニズムを知ればさらに理解できるだろう。
 何はさておき跳ね馬はエンジンだ。予想どおり、V12を積んできた。しかも6.5リッターの自然吸気ユニットである。エンツォ由来のF140型で、812コンペティツィオーネ用のHB型からいくつかの要素を引き継ぎつつ、主要部品を一新した「ほぼ新型」である。型式名はF140IAだ。実用域からのトルク性能にこだわって再設計されており、そのぶん最高出力は725hpと「抑えぎみ」。SF90以来の軽量低重心な8速DCTを組み合わせている。

 重要な点はV12パワートレーンをフロントミドシップ+トランスアクスルとした点だ。プロサングエは、GTC4ルッソを4ドアにして、車高を上げたようなモデルなのである。この点だけでも他のスーパーSUVとは一線を画する存在だといえる。

 4ドアモデルへの顧客からの期待は、ずっと前から高まっていた。エンツォ・フェラーリを筆頭に2+2モデルの愛好家も海外では多い。今回のプロジェクトはエンツォの息子で副社長のピエロが強力に後押ししたという。これまで実現しなかった4ドアの跳ね馬がなぜいま登場したかといえば、それはまったく新しいアクティブサスペンションシステムにより、車高の高いクロスオーバーでもフェラーリらしいスポーツカー性能を実現できたからだ。このシステムは重心高もコントロールし、進化した4RM-Sエボと新たなABSシステムに組み合わせることで、プロサングエに最新のスポーツ性能を与えた。

 プロサングエはマラネッロのアッセンブリー工場の2階で組み立てられる。2階は12気筒モデル専用ラインだ。プロサングエはマラネッロにとって、プラットフォーム共有の大量生産型SUVではない。生産台数はこれまでの12気筒モデルの総量と同じ程度、年産2000台(総生産台数の20%程度)にすぎない。SUVだという思いが頭にあったので、大量に売って儲け、利益をスポーツカー製作に還元するものだと誤解していた。
 プロサングエは812シリーズやGTC4ルッソの後継車の側面を持っている。だからこそ初の4ドアで背の高いモデルであっても、マラネッロ製スポーツカーらしい性能にこだわって開発されたのだ。プロサングエから、新たな4ドア・フェラーリの歴史がスタートする。

V12は6.5リッターの自然吸気ユニット。エンツォ由来のF140型で、812コンペティツィオーネ用のHB型からいくつかの要素を引き継ぎつつ、主要部品を一新した「ほぼ新型」である

V12は6.5リッターの自然吸気ユニット。エンツォ由来のF140型で、812コンペティツィオーネ用のHB型からいくつかの要素を引き継ぎつつ、主要部品を一新した「ほぼ新型」である

フェラーリ・プロサングエ主要諸元

スタイル

グレード=プロサングエ
価格=8DCT 4760万円
全長×全幅×全高=4973×2028×1589mm
ホイールベース=3018mm
乾燥車重=2033kg
エンジン=6496cc・V12DOHC48V
最高出力=725hp/7750rpm
最大トルク=716Nm/6250rpm
サスペンション=前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ=フロント:255/35ZR22/リア:315/30ZR23
駆動方式=4WD
乗車定員=4名
0→100km/h加速=3.3秒
0→200km/h加速=10.6秒
最高速度=310km/h

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