マツダ3ハッチバック 海外試乗記
自然光の下で眺める新型マツダ3ハッチバックは、やはり美しい。ルーフから斜めにそぎ落としていくように角度を変化させながらCピラーに流れ、リアのホイールハウスから内側に回り込むグラマラスな曲面が印象的だ。
流麗な個性と造形は際立っている。それはフロントマスクにもいえる。グリルは表情豊かで、威嚇的なデザインとは別次元の品のいい造形。鋭い眼光のライトとマッチして精悍な表情である。
世界初試乗の舞台はアメリカのハリウッド。試乗車は欧州仕様ハッチバックと北米仕様セダンが用意されていた。レポートは、操縦特性が日本仕様に近いと思われるハッチバックに絞る。
「これまでのマツダ車とは違う」、と即座に感じたのがドアの開閉感。適度な重みを伴い、いい開閉音を奏でる。空気を圧縮しながら閉まる高い気密性が実感できる。ゴムのモール類が異なるというレベルではなく、高いボディ剛性そのものがもたらす効果だろう。
「マツダらしい」と思う点は、スタートの瞬間だ。アクセルを踏み込んだときの動きだしが実に自然で滑らか。いわゆる飛び出し感がない。これは素晴らしい。マツダ3は、ドライバーの意思を忠実に伝える。
シートは新設計。快適な乗り味だ。着座すると骨盤が立ち、脊柱がS字カーブを描くデザインになっている。自然と体が安定して、両手両足を伸ばすと、その先にステアリングとペダルがある。乗り込んですぐに操作性のよさを実感した。ドライビングポジションへのこだわりは、マツダの良心だ。
市街地を進む。至る所でアスファルトが剝がれた凹凸と、大きな穴の出現に驚く。40偏平以下のタイヤの場合、流れに乗った速度でも確実にホイールリムを打つだろう。試乗車は215/45R18サイズのサマータイヤだった。
荒れた路面状況でもマツダ3の走りは安定している。路面からの突き上げを見事にいなすショックアブソーバーと、それを受けるサスペンションマウント部、高いシャシー剛性感は、ドイツ車の固さと、フランス車の滑らかなストローク感を持つと表現できる。乗り味は心地よい。
試乗した欧州仕様車の搭載エンジンは2リッターのガソリン自然吸気。24Vシステムのマイルドハイブリッド仕様は122ps/21.7kgmの出力とトルクを発生する。トランスミッションは6速MT。
パワーは十分な印象だ。6500rpmの回転リミットまで回していけば、フリーウェイの流れをリードできる。適正なギアに変速せずにズボラな操作をしていると、お世辞にも速くはない。それでも変速操作でクラッチを切り、ギアを選択してクラッチミートする一連の流れを、ハイブリッドの回生機能が有効にアシスト。変速時の回転差からの変速ショックを抑えて、上級者の変速操作を演出してくれた。MTに不慣れなドライバーでもスムーズな走行がかなう。
80mph(128km/h)で流れていくフリーウェイでの直進性は、ビシッとしたステアリングの据わりが印象に残った。路面に刻まれた縦溝が直進性に影響を与えたり、路面の継ぎ目から周期的に起きる上下動が不快なクルマは珍しくない。しかしマツダ3の安定感は別格。欧州仕様の足回りとサマータイヤの組み合わせは、継ぎ目の上下動を一発で吸収、減衰する。
フリーウェイで、乗り味と音と振動を確認した。マツダ3の静粛性はクラストップだろう。さらにサスペンションのみならず、骨格の強さがプラスに作用し、不快なフロア振動は伝わってこない。
フリーウェイを降りて向かったのはアンジェレスクレスト。中速〜高速コーナー主体の峠道だ。
マツダ3は、コーナーからコーナーの切り返しでアクセルを踏み込んだまま、ステアリング操作だけで俊敏にヒラヒラとトレースして駆け抜けた。前輪からのスキール音がタイヤのグリップ限界を知らせてくるが、そこでアクセルを閉じても挙動変化は起きず、安定姿勢を維持する。
60~80mph(96〜128km/h)に車速を上げると、ブレーキが重要な要素になる。北米仕様は、ブレーキ操作に踏力と慣れが必要だった。欧州仕様のペダルコントロール性は良好。つま先の動きに忠実に減速Gが立ち上がる。
サスペンションは、フロントがストラット、リアはトーションビーム式。リアをマルチリンク式にしなかったのは、スペース効率を優先したため。ロードホールディング能力は高水準。旋回ブレーキなどでも安定した姿勢を保つ。
日本仕様のパワーユニットは4種。1.5リッターと2リッターのガソリンと、1.8リッターのディーゼルターボ、そして世界初のガソリン圧縮着火仕様、スカイアクティブXで構成する。マツダ3は、ライバルと比較してどんな展開を示すのか、楽しみでしかたがない。