クルマとの向き合い方は人それぞれだろうが、私は基本的に1台のクルマに長く乗りたいと思うタイプだ。これまでも、たとえ立て続けにトラブルに悩まされたとしても、1台のクルマを2年以下で手放したことはなかったように思う。そこには、もちろん経済的な事情も絡んでいるけれど、それと同時に、いや、それ以上に、一度手に入れたものとはじっくりと付き合いたいという私の性格が強く関係しているように思う。
いっぽうで、私が選考委員を務めている日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、価値あるクルマであるだけでなく、時代性を反映していることが強く求められる。なにしろ、その年を象徴する1台を選ぶのだ。そこに時代お影響が深く関わるのはやむを得ないことだろう。
話を「私にとって価値あるクルマ」に戻すと、長く乗り続けても飽きないことがクルマ選びの重要な基準となってくる。ここでいう「長く乗り続けても」には、「長期間所有する」ことにくわえて「長い距離を乗り続ける」という意味が含まれている。
ここまで説明すれば、私のクルマ選びの傾向もおのずと明らかになってくるだろう。
まず、派手なデザインのクルマを選ぶことは滅多にない。反対に、尖ったところはないけれど、ジワジワとそのよさが感じられるデザインのほうが、私の好みだ。
クルマの動的性能でいえば、私にとってもっとも大切なのは乗り心地である。市街地走行から高速走行にいたるまで、どんなときでも付き合わされることになるのが乗り心地。したがって、この点に満足できないと、どちらの意味でも「長く乗り続ける」のは難しい。
また、思いどおりに運転できることも、ストレスなく長く付き合っていくうえでは見逃せないポイントとなる。そのためには、過敏でない範囲でエンジンやステアリングのレスポンスが良好であって欲しいし、操作に対する反応が常に一定となるリニアリティも無視できない。微妙な操作にも的確に反応してくれる「分解能の高さ」も、ていねいなドライビングを心がけている自分にとっては大切な要素だ。
こうした条件を満たしたクルマとして、いまはホンダ・シビック e:HEVが気になっている。
VTECターボ搭載の1.5リッターモデルもドライビングの楽しさでは高得点をマークしていたが、「走り重視」のシャシーだったために快適性や静粛性は高くなかった。ところが、新開発の2リッター・ハイブリッドを搭載した途端に、こういった弱点が軒並み解消。この結果、レスポンスとリニアリティに優れたハンドリング性能が改めて浮き彫りとなり、Cセグメント・モデルとして世界トップクラスの上質さを手に入れたのである。
ていねいに作り込まれたデザインも好印象。価値あるクルマとして、自信をもってお勧めする。
大谷達也(おおたにたつや)/電機メーカーの研究室に勤務後、自動車専門誌の編集に携わり、2010年よりフリーランスに。ハイパフォーマンスカーが得意ジャンル。英語で海外エンジニアと直接インタビューできる語学力の持ち主。AJAJ(日本ジャーナリスト協会)会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
本誌執筆陣9名のジャーナリストが考える「価値あるクルマ」とは?