「価値あるクルマ」とは一体どのようなモデルを示すのか? それは自ら手に入れたならば「ずっと手放したくない」と思えるクルマ。あるいは、何らかの事情があって手放してはしまったものの、「出来ることならもう一度手元に取り戻したい」と思えるクルマなのだろうと、自身ではそのように考える。
ちょっと強引ではあるがそう考えてみると、確かに脳裏に思い浮かぶモデルは存在する。現在販売中のラインナップから取り上げてみると、個人的リストのトップになるのは「GTS4.0」という名称が与えられたポルシェのボクスター/ケイマンだ。
2名分のシート背後にミッドマウントされるのは、昨今の常識では「大排気量」と形容されることになる3995ccの自然吸気エンジン。もちろん水平対向6気筒というポルシェ伝統のデザインを採用し、低回転域でも図太いトルクを発揮してくれると同時に、高回転域に掛けては官能的なサウンドと共にリニアなパワーの伸びを味わわせてくれる。
そんな強心臓を搭載しながら、両モデルが元来備えていたバランス感覚に長けたシャシー性能が崩れていない点も特筆したい。高いトラクション能力や優れたブレーキバランスなどミッドシップ特有の利点を生かしつつ、俊敏でありながらピーキーさを抑え込んだハンドリングの仕上がりは抜群である。さらに、そんなミッドシップ・レイアウトを備えるポルシェが「次のモデルチェンジではピュアEVに移行する」と表明されている点も、「価値ある」という思いを増幅するひとつの理由になった。
すでに手元を去ったものの「チャンスがあればまた取り戻したい」と思えるのが、「ユーノス」ブランドで登場した初代「マツダ・ロードスター」と「ポルシェ911カレラ4(964型)」。現代へと生き続けるマツダのロードスターは、メカニズム的には何ら新しい見どころのなかったものの、いざ走り始めると何とも表現し難いほどのドライビングの快感を提供してくれた。しかも、後に世界の2シーター・オープンモデルの需要を掘り起こしたことは間違いない。
カレラ4はと言えば、「5ナンバー規格」を下回るコンパクトなサイズながら、圧倒的とも言えるどっしりした安定感を味わわせてくれたことが、何とも忘れられない思い出。モデルチェンジのたびになんだかんだと言い訳をしながらサイズ肥大化を続ける現代のクルマへのアンチテーゼとしても、その存在感の高さやデビュー後30年以上が経過した現代でも立派に通用すると思える走りのテイストは、「価値ある存在」と認めるに足る1台だと思う。
かわむらやすひこ/1960年、東京生まれ。工学院大学機械工学科卒業後、自動車専門誌の編集を経てフリーランスへ。CD誌には1980年代から寄稿。卓越したドライビングスキルと技術的な背景を含めた総合的な分析能力には定評がある
本誌執筆陣9名のジャーナリストが考える「価値あるクルマ」とは?