人それぞれにライフスタイルがあり、趣味・嗜好も異なる。「価値あるクルマの条件」と言っても一つに絞られることはないだろう。同じ人でも条件が変わることもあるから、次に買うクルマは別のものが欲しくなってもおかしくない。
クルマを単なる移動手段ではなく、趣味の一部として“味わう”と考えると、食事に似ているかもしれない。和食、中華、フレンチ、イタリアン、寿司、焼肉、焼き鳥、ラーメンなどと分類が分かれる。その中で美味しいと感じるものとそうでないものもある。また安いものと高いものもある。安くて美味しいお店には行列ができるが、そんな行列に並ぶなら行かないという人もいる。
味わい方も色々で、人から美味しいと教わるとそんな店を転々と行く人と、自分が気に入った店には常連さんと呼ばれるまで繰り返し行く人もいる。
だから条件は一つに集約することはできないと思う。
例えば食事の絶対条件をいえば、美味い不味いより食当たりしないことだ。クルマで言えば安全性である。
スタイル、性能、乗り心地、ステータス、動力源などの項目をクリアしていても、衝突した時の乗員の安全性や歩行者の安全性が考えられていなかったら問題だ。その意味ではN-CAPがあり、客観的な評価をしてくれるから安心である。
衝突してからの安全性はパッシブセーフティと呼ばれるが、その前のぶつからないための安全性はアクティブセーフティと呼ばれる。わかりやすいのは、エアバッグはパッシブセーフティ、ABSはアクティブセーフティだ。
しかしその前の段階の安全性もあると思う。危機回避能力である。ハンドリング性能が素晴らしく、障害物を避けてぶつからない能力も大事。これはいわゆるスポーツカーが当てはまる。さらに前の段階の話をすると、ハンドルから伝わる手応えでどんな路面状況を走っているかがわかることも安全に走るためには大事な要素だ。
こうやって突き詰めて3年前に選んだクルマはBMW320iだ。前後重量配分が780kgと760kgで約50:50になっていて、コーナリング時は4つのタイヤがちゃんと働いてくれている感じがわかる。4本均等に荷重がかかるから、タイヤの摩耗も均等で偏摩耗もない。
最新のADAS(先進運転者支援システム)も搭載し、ACC(アクティブクルーズコントロール)もあるので長距離ドライブも楽ちんだ。さらに高速道路では渋滞モードが使えて、60km/h以下で先行車がいる場合には、前を見ていれば足も手もフリーになれる。だから3連休の最終日の渋滞も怖くなくなった。
運転が疲れないということは、ドライバーが元気でいられるということで、安全走行につながる。
ただ疲れず安全なだけでなく、最初に言ったスポーツカーを味わえるところも魅力なのだ。後輪駆動の運転の楽しさがコーナリングで感じられ、ワインディングロードも楽しいが、インターチェンジのランプウェイもいいし、首都高速も楽しく走れるスポーツカーである。
こもだきよし/1950年、神奈川県生まれ。自動車レース、タイヤテストドライバーを経てフリーランスのジャーナリストへ。クルマ好きというより運転好き、BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。AJAJ会長、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
本誌執筆陣9名のジャーナリストが考える「価値あるクルマ」とは?