本稿では『CAR and DRIVER』2023年1月号特集【欧州メーカーが牽引するBEVブランド戦略の現状と今後】のこぼれ話をお届けします。
現在、欧州の自動車メーカーは、BEV開発に突き進んでいる。すでに多くのメーカーからBEVが本格的に販売されており、内燃機関エンジン(ICE)に変わり、主役の座に座りつつある。本誌特集記事(『CAR and DRIVER』2023年1月号掲載)でも記したように、欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会(EC)は、BEVでないと達成不可能な、CO2排出の厳しい規制や、ICEの禁止など国の法律を超えた規制を強力に推進しているからだ。
もちろん欧州メーカーは、BEVにいち早くスイッチすることが、これからの自動車業界の覇権を握るチャンスと捉えている。だからこそ、ECの規制に対応、まさに自らの生死をかけて積極的なチャレンジをしているのである
欧州ブランドを中心に、BEVのプラットフォーム戦略を見てみよう。メルセデス・ベンツ、BMW、VW、アウディ、ポルシェ、ジャガー、ボルボ、ルノー、フィアットなどは、BEV専用プラットフォームを用意している。この傾向は今後も加速しそうだ。ポルシェは先日のBEVワークショップで、次期マカンなどに採用する最新PPEプラットフォームを公表した。
BEV専用のプラットフォームは、ホイールベースを伸ばしバッテリー積載量(そしてバッテリー容量)を増やしているのが特徴。また同じ全長でもホイールベースが伸びれば、室内が広くなり乗員には大きなメリットになる。BEVの場合にはフロアのバッテリー部分が2階建構造になり、ホイールベースが長くても新たな補強なしで相当な剛性アップも果たせるというメリットもある。
ただし専用プラットフォームばかりではない。BMWは、ICEとBEVの両方で使うプラットフォームを開発している。iXというBEV専用プラットフォームを持ちながらも、 i4やi7ではそれぞれ4シリーズ、7シリーズでBEVとICEの二刀流にしている。BMWの場合はBEVの様子を伺っているという感じではなく、BEVとICEを両立させようとしているからだ。
それはBMWとステランティスがECに対して、ICEを禁止してすべてBEVにする法制化に反対を唱えていることでもわかる。ガソリン、ディーゼル、HEV、PHEV、FCVという選択肢がある中でBEVだけに絞ることはない。高価格のBEVを購入できない所得層も出てくる、その対応も必要という主張である。
トヨタの豊田章男社長は「ICEをなくすことが目的ではなく、 CO2をなくすことだ」と主張している。CO2をなくす手段はたくさんあるし、いろいろな選択肢を設けてお客さまに選んもらうことだと訴えている。
本誌記事でもお伝えしたが、個人的には、今後もBEVの販売台数は増えていくが、ある程度までだと考えている。ECがいくら頑張ってもICEがなくなることはないだろうとみている。
こもだきよし/1950年、神奈川県生まれ。自動車レース、タイヤテストドライバーを経てフリーランスのジャーナリストへ。クルマ好きというより運転好き、BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。AJAJ会長、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員