ホンダ・ビート 新車時価格:5MT 136万8000円(1993年式) 試乗記
楽しいといえば、ビートほど単純に「楽しい」と思えるクルマは少ない。一般的なクルマの概念でとらえるのではなく、「四輪バイク」といった方向で見ると魅力が見えてくる。
スタイリングは、サラッとしていて肩ひじ張っていないのがいい。どこから見ても爽やかだ。インテリアは見方によってはオモチャ的でもあるが、それはそれで楽しい。
直3シングルカム12V(64ps/6.1kgm)のエンジンは、ホンダらしくNAで押し通している。このNAユニットは抜群のフィールを味わわせてくれる。回転数のカット機構(8500rpmで作動)が作動しないと際限なく回ってしまいそうだ。まさしくモーターサイクルのようである。回り方の洗練度も素晴らしい。ビートのエンジンは、「ぶん回す」だけで気持ちが昂る。パワーも十分にある。ヒルクライムコースでも、素晴らしいアベレージスピードを叩き出してくれる。
5速ギアボックスが、また気持ちいい。最高だ。滑らかで、しっかりとした手応えがあって、どんなに速いシフトワークにもケロッとしてついてきてくれる。もし、ベストなギアボックスを選ぶコンテストがあれば、ボクは1票を入れる。
ハンドリングも楽しい。低い重心とミッドシップレイアウトの組み合わせは、文句なしの身のこなしを生み出している。ミッドシップ特有の限界での急激なテールアウトを避けるため、リアは徹底的に抑え込まれている。ホットなコーナリング中に急にアクセルをオフにしても、テールはピクリとも動かない。ビギナーも多く乗るビートには、大切な性能である。
追い込んでいくと、しっかり抑え込んだリアにフロントが負けて、強いアンダーステアが出がちだ。しかし、一気に滑り出す性格ではないので、とくに危険ではない。ただし、オーバースピードに気づいて慌てて強くブレーキを踏むといった状況では、ブレーキロックを起こしやすい。スポーツ走行時には、この特性を十分に頭に入れておきたい。
(カー・アンド・ドライバー 1993年1月26日号掲載)
ビート(PP1型)は1991年5月から96年まで販売。モノグレードだったが、92年以降、特別色のバージョンF/C/Zを販売した。車重は760kg。最近、取引価格は上昇傾向にある。走行2万km台の程度良好車は、200万〜250万円。新車のS660と同等か、やや高い。エンジンを高回転域まで回して楽しむクルマなので、エンジンオイルの管理が適切に行われていたかに注意。ミッションのシンクロも弱い傾向にある。欠品パーツも多い。
グレード=ビート(MT・1993年式)
新車時価格=5MT 138万8000円
寸法・重量=全長×全幅×全高3295×1395×1175mm ホイールベース2280mm 車重760kg
エンジン=656cc直3OHC12V(64ps/8100rpm 6.1kgm/7000rpm)
サスペンション=前後ストラット
ブレーキ=前後ディスク
タイヤ&ホイール=フロント:155/65R13/リア:165/60R14+スチール
駆動方式=MR
乗車定員=2名