シエンタは3列シート・ミニバンの中で使い勝手に優れたコンパクトな存在。現行3代目も評判は上々、販売は絶好調である。スタイリングはちょっぴり欧州車感覚。見た目のアクセントにもなっている黒いラインは、ボディを傷から守るプロテクターとしても機能する優れもの。もちろんリアドアは左右ともにスライド式である。
走りの仕上がりは、いい意味で自己主張が弱い。全般的にスムーズで静かだ。使っていて気になる点はなく、実にそつがない。売れ筋のハイブリッドは、最新のトヨタのハイブリッド車らしく瞬発力があり力強い。無意識にアクセルを踏み込むと発進時にクルマが前のめりになるほど。走行モードでエコを選んでもモーターの強みで出足はそれほど鈍くなく、ストレスは感じない。
ボディサイズは5ナンバー規格に収まる全長×全幅×全高4260×1695×1695mm。「この小ささがいい」というユーザーは少なくなく、その声に応えて全長と全幅は旧型と共通、全高だけ20mm高くなり、室内高は余裕を増した。しかも新型は車体形状の絞り込みを小さくした。実際に乗り込むと、とくに2列目でヘッドクリアランスと、頭の横方向の余裕が増していることがわかる。
新型になって、一段と完成度が増したシエンタ。その最大のライバルはホンダ・フリードである。フリードもそう遠くないうちにモデルチェンジする見込みで、そこに日産も参入するという情報もちらほら聞かれるようになってきたところだが、ひとまず現状のフリードとの力関係を比べてみよう。
室内空間の広さは多少の違いはあるが、ほぼ同等といってよいかと思う。違いは車内の雰囲気だ。フリードは文字通りコンパクトミニバンっぽいのに対し、シエンタはコンパクトカーの延長上で3列シートを実現した印象。フリード以上にフレンドリーなニュアンスを感じる。大きく異なるのは3列目の格納方法だ。シエンタが床下収納なのに対し、フリードは跳ね上げ式となる。3列目の居住性は、頭上などの空間はフリードに分があるものの、着座姿勢はシエンタのほうが自然。それぞれ一長一短だ。
走りについては、ハイブリッドの方式がまったく異なる。フリードに搭載されるのはホンダの最新のe:HEVではなく、DCTを組み合わせたi-DCDとなる。とやかく言われているのはご存じのとおりだが、新しいものはだいぶ改良されてギクシャク感などの諸問題が解消されてきている。だが長く乗るといろいろ出てきそうな不安はつきない。その点、シエンタは従来よくいわれたラバーバンドフィールがかなり改善されており、ダイレクト感のある走り味でもi-DCDをしのぐほどに進化している。足まわりはフリードのほうがスイートスポットの車速域が高めで、低速時にコツコツを感じるものの高速巡行時のフラット感では上回る。これまた一長一短だ。
※【本誌取材ノート】は雑誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』掲載記事と連動したコンテンツです
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