トヨタ自動車が展開する高級車ブランドのレクサスは2021年6月12日、プレミアムSUVの新型NXを世界初公開した。日本での発売は本年秋ごろを予定している。
約7年ぶりの全面改良で第2世代に移行する新型NXは、生命的な躍動感(Vital)と先進技術(Tech)を融合したスポーツギア「Vital×Tech Gear」を開発コンセプトに据え、走りやデザイン、先進技術を全面刷新した、次世代レクサスの幕開けを象徴する第1弾モデルに位置する。
まずはパワートレインから解説しよう。最大の注目は、新設計のプラグインハイブリッド(PHEV)の搭載だ。基本ユニットはA25A-FXS型2.5リットル直列4気筒DOHCガソリンエンジン+前後モーター+リチウムイオンバッテリーで構成。リチウムイオンバッテリーは総電力量18.1kWhを確保してクラストップレベルのEV走行可能距離と十分なパワーを両立させるとともに、床下に配置して低重心化を達成する。また、AWD(E-Four)の前後駆動力は100:0から20:80の間で可変配分する仕組みだ。さらに、走行モードはスイッチ操作でEVモード/AUTO EV・HVモード/HVモード/セルフチャージモードから任意で選択が可能。HVモードではエンジンとモーターの併用により高い加速性能を実現し、またAUTO EV/HVモードではナビの目的地設定によってレクサス初の先読みEV/HVモード切り替え制御がはたらき、駆動用電池の残量や経路、交通情報といったデータをもとに、高速道路などにおいては自動的にHVモードを選択して、エネルギー効率の良い走りを具現化した。
2.5L PHEV E-Four以外に5種類のパワートレインを設定したことも、新型NXの特徴だ。具体的には、ハイブリッド(HEV)のA25A-FXS型2.5リットル直列4気筒DOHCガソリンエンジン+前後モーターを搭載する2.5L HEV E-FourとA25A-FXS型2.5リットル直列4気筒DOHCガソリンエンジン+フロントモーターを搭載する2.5L HEV FF、レクサス初のセンター噴射直噴システムやターボと触媒の近接配置などにより世界各地の排気・燃費規制への対応を図った新開発のT24A-FTS型2.4リットル直列4気筒DOHCガソリンターボエンジン+Direct Shift-8AT+電子制御フルタイムAWD(前後駆動力配分75:25~50:50)を搭載する2.4L-T AWD、熟成のA25A-FKS型2.5リットル直列4気筒DOHCガソリンエンジン+Direct Shift-8AT+電子制御スタンバイAWD(前後駆動力配分100:0~50:50)を搭載する2.5L AWD、A25A-FKS型2.5リットル直列4気筒DOHCガソリンエンジン+Direct Shift-8ATを搭載する2.5L FFを用意し、ユーザーの選択肢を従来以上に広げた。
基本骨格に関しては、サスペンションメンバーなどに補強ブレースや補強パネルを追加するとともに、カウル形状の刷新や板厚のアップなど緻密な改良を図った進化版のGA-Kプラットフォームを採用する。一方、アッパーボディにおいては構造から見直し、エンジンフードにはレクサス初となるツインロック構造を導入。また、リアのラゲッジ開口部のマッチ箱変形を抑えるために、環状構造に加えて高剛性発泡剤をCAE解析により最も効果的に配置した。さらに、骨格の接合においてはレーザースクリューウェルディング(LSW)や構造用接着剤に加えて、新開発のレーザーピーニング溶接技術を採用。これらを適材適所に使用し、従来型に比べて接着長を約35%伸ばすことで接合強度を高めた。
燃費や走行性能の向上に寄与する軽量化にも力を入れる。ロッカーアウターリインフォースメントには1180材の差厚接合(Tailor Welded Blank)を採用し、従来構造比で約1.6kg軽量化。また、ルーフセンターリインフォースメントには1470MPaの引っ張り強さを持つ冷間圧延鋼板を導入することで、従来構造比約0.3kgの軽量化を成し遂げた。
空力性能の向上も見逃せない。ドア意匠面からガラス面までの段差を最小化したフラッシュベルトモールを新たに採用し、風の流れを整流することで操縦安定性を向上。床下においては、エンジンアンダーカバーにディンプル形状を設けて微小渦を床下に発生させることで接地感を高めるとともに、高速域での走行安定性を引き上げる。また、フロントバンパーは整流とダウンフォースに考慮した形状とし、同時にリアバンパーには開口を設けてばね上の上下運動を低減した。
プレミアムSUVに相応しい静粛性を具現化したことも訴求点だ。車室内に侵入するノイズを低減するために車両各部の吸音材および遮音材を最適配置したうえで、ボディの気密性を大幅にアップ(従来音圧レベル比で約15%低減)。同時に高速域での静粛性にもこだわり、レクサス初採用となるオープニングウェザーストリップとフロントドアガラスラン形状を導入し、ドアのシール性を向上させる。さらに、フロントドアガラスには高遮音タイプを装着した。また、2.4L-TモデルにはActive Noise Control/Engine Sound Enhancementを組み込み、4気筒ターボ特有のノイズを除去しつつレクサスらしい調和の取れたサウンドを演出している。
懸架機構も大幅に見直す。フロントにはマクファーソンストラット、リアにはトレーリングアーム式ダブルウィッシュボーンを採用したうえで、新開発のショックアブソーバを装備。摺動部品の改良により、微低速域での減衰力を確保する。また、F SPORTには最新のAVSを組み込んで操安性と乗り心地を高次元で両立させた。一方、ホイールとの締結構造はスタッドボルトとハブナットの締結からハブボルトによる締結に刷新。高剛性化とばね下の軽量化(ハブナット締結時で従来比約0.7kg減)により、手応えのある操舵フィールと質感の高い乗り心地を創出する。そして、20インチタイヤにはExtended Mobility Tire(EMT)を採用し、万が一のパンクの際も一定距離を走ることができる性能を確保しながら、上質な乗心地を実現した。
操舵機構に関しては、レクサス初のバリアブルラックギアを設定。高速域の安定性を保ちつつ、コーナリングでのクイックなレスポンスと低速域での取り回しの良さを具現化する。一方、制動機構では人間工学に基づいて開発した新形状のブレーキペダルパッドを組み込み、踏み変え/踏み込み操作のしやすさ引き上げた。また、PHEVとHEVにはレクサス初のペダル戻し減衰機構を採用し、ペダル抜き操作の動的質感を高める。さらに、最新のLexus Safety System+に対応する新ブレーキアクチュエーターを設定した。
デザイン面については、次世代レクサスのデザインランゲージ確立に向けた挑戦として、運動性能や機能に寄与するプロポーションに根ざした“独自性”と、テクノロジーに裏打ちされた“シンプリシティ”の追求を目指して開発する。
エクステリアは、プラットフォームの変更による骨太なダイナミックさと艶やかな造形の具現化を目指してデザイン。基本プロポーションは、スピンドルグリルを起点に大きく張り出しながらリアフェンダーへと向かうスピンドルアーキテクチャーを深化させ、新型NXのリニアな走りを表現する。同時に、フロントフェンダーからキャビン部に駆け上がる立体が、リアフェンダーに向かう立体と交差して融合する造形に仕立てることで、レクサスのSUVの独自性を主張した。
各部のデザインにも徹底してこだわる。フロント部はグリル面を垂直に立てながらボンネットをフロント先端間際まで伸ばし、塊感を強化。また、直立したグリル面で効率的に空気を取り込むことでラジエーターの冷却性能を向上させる。さらに、グリル自体はメッキ枠を廃して存在感をより強調するとともに、シンプルな構成によって軽量化を実現。グリルパターンは立体感のある縦長U字形ブロックを取り入れ、下部にはスリット状の開口を設けて冷却性能を引き上げるとともに、SUVらしい力強さを演出した。ヘッドランプ全体を黒基調で仕上げ、L字型のデイタイムランニングライトを際立たせたことも特徴だ。
一方、サイドビューは直立したグリル面に向かうボンネットフードで伸びやかさを表現するとともに、リアオーバーハングを短くすることで軽快感を演出。また、ベルトライン直線部を短くし、同時にリアへ向かうキックアップを強調することで、キャビンの凝縮感を付与する。シャープなキャラクターラインと大きな曲面の相反する要素を融合し、それらを互いに際立たせたソリッドな質感を具現化した点も印象的だ。
そしてリアセクションは、バックドア中央に向けてスピンドル形状をモチーフに絞り込み、さらにスピンドル形状を挟み込むようにフェンダーを仕立てることで、キャビンまわりの凝縮感とタイヤの張り出しを強調。また、コンビネーションランプは中央に配した一文字ランプと左右のL字型ランプをそれぞれ独立させながら一体パネルで組み合わせることにより、独自性あふれる後ろ姿を創出する。中央に配置するブランドマークを従来のL字ロゴから新たなLEXUSロゴに刷新して、次世代レクサスの幕開けを主張したことも見逃せないポイントだ。
ボディカラーに関しては、レクサス独自の金属表現技術を採用したソニッククロムや、ストレートな高彩度カラーのセレスティアルブルー、深みと鮮やかさを併せ持つブレイジングカーネリアンコントラストレイヤリングなど、全9色の多様なカラーをラインアップしている。
内包するインテリアは、すべての乗員をもてなす空間づくりをベースに、クルマとドライバーがより直感的につながり、運転操作に集中できる新たなコクピット思想「Tazuna Concept」を市販モデルで初めて導入したことが特徴である。メーターおよびセンターディスプレイエリアはドライバーのワイドな視野を確保し、合わせてドライバーのニースペースをほどよくタイトに設定して、快適な運転空間を創出。一方、パッセンジャーエリアはコンソール上面や足もとスペースをワイドにアレンジして、ゆとりのある空間を実現する。また、ヘッドアップディスプレイからメーターへと前後方向につながる情報表示系の配置と、ヘッドアップディスプレイからセンターディスプレイへつながる操作系の構成により、運転中のスムーズな視線移動を具現化。さらに、スタートスイッチやシフトレバー、ドライブモードセレクトスイッチなどの走行系をステアリング周辺の自然と手が届く場所に配置することで、姿勢を崩さずスムーズに操作が行えるように工夫した。ステアリング自体は新開発の逸品で、レクサスがこれまでこだわってきた握りやすく操作しやすい形状を継承しつつ、ホーンパッドの小型化やスポークデザインの変更によりスポーティさを向上。また、シフトレバーはシフトバイワイヤ機能用に新開発し、しっとりとした触り心地や操作しやすい形状を追求した。
ヘッドアップディスプレイとステアリングのタッチセンサースイッチを組み合わせた新たな操作方法、「タッチトレーサーオペレーション」を組み込んだこともアピールポイントだ。ステアリングのタッチセンサースイッチに触れると操作ガイドがヘッドアップディスプレイ(ヘッドアップディスプレイOFF時はメーター)に表示され、手もとを見ることなく視線を前方に置いたまま直感的に操作することが可能。また、ヘッドアップディスプレイは周辺の道路状況を確認できる視界を保ったうえで、表示する情報とレイアウトが異なる3つのモードを用意する。ヘッドアップディスプレイに組み合わせるメーターの表示情報や配置、グラフィックを刷新したこともトピックだ。
インテリアカラーはTazuna Conceptに基づいたコクピットに最適な、運転に集中できる配色で構成。ブラックとリッチクリームのコントラスト配色に高彩度オレンジのアクセントステッチを効かせた“ブラック&リッチクリーム”など、多様なカラーをラインアップする。また、オーナメント加飾にはダークカラーを取り入れ、運転席まわりとの連続性を持たせることで運転に集中できる空間を創出。さらに、室内の造形や素材の美しさを際立たせる64色の室内イルミネーションを設定した。
マルチメディアシステムも大きく進化させる。ディスプレイには大型化/高解像度化した14インチタッチワイドディスプレイを採用。フロントガラスパネルには反射防止コーティングを施し、合わせて光の屈折率を最小限に抑え、かつ画面の映り込みを緩和するボンディング技術を導入することで、低反射で鮮明な画面表示を可能とした。一方で機能面では、各種メニューの選択スイッチを運転席側に常時アイコンで表示することで優れたアクセス性を実現。画面全体のレイアウトも、情報の粒度に応じて表示エリアを分ける工夫を凝らす。また、DCMによる無線通信でソフトウェアの更新が可能なOTAソフトウェアアップデート機能、ステアリングのトークスイッチ操作による起動に加えてディスプレイのマイクアイコン操作や音声による起動を可能とした最新の音声認識機能、クラウド上の地図情報を活用して交通情報や駐車場の空き情報をリアルタイムで取得するコネクテッドナビなども組み込んだ。新オーディオ機構として、大容量のサブウーファーボックスを含む10個のスピーカーを配備したレクサスプレミアムサウンドシステムのほか、ボディ骨格を活用した大容量のサブウーファーボックスを含む17個のスピーカーを最適に配置する“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステムを設定したことも見逃せないポイントである。
先進安全運転支援システムのLexus Safety System+については、ミリ波レーダーおよび単眼カメラの検知範囲拡大により、各機能の性能向上や一般道での支援を行う新機能の追加などを実施。具体的には、低速で交差点に進入する際に左右から接近する車両を検知するとカラーヘッドアップディスプレイで車両が近づいてくる方向をアニメーションで表示するフロントクロストラフィックアラート(FCTA)、衝突の危険性が高いとシステムが判断した際に自動(被害軽減)ブレーキと操舵制御を行うアクティブステアリングアシスト、変更先の車線に自車のセット車速よりも低い速度で走行する先行車がいる場合に車線変更のウィンカー操作に応じて予備減速を行う機能を追加したレーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)などを新たに組み込む。また、高度運転支援技術の「Lexus Teammate Advanced Park」や、ドアのラッチ/アンラッチを電子制御で行うe-ラッチシステムとブラインドスポットモニターセンサーを連動させた安心降車アシスト(ドアオープン制御付)、スマートフォンによるクルマの操作を可能とするデジタルキーなども新たに採用した。