2007年にR35が登場した時、正直な感想は喜び半分、悲しさ半分だった。喜びの部分は「ニッポンのGT-Rが世界向けて羽ばたいた事」、悲しさの部分は「楽しさよりも速さを選んだ事」だった。ニュルでポルシェ911ターボ(当時は997)のラップタイムを抜いたのは凄いと思ったが、ドライバーとクルマとの付き合い方があまり得意ではないと感じた。言葉で伝えるのは難しいが、どことなく血が通っていない印象が強かったのである。
R35は、開発陣の「アスリートが進化していくように、GT-Rも進化させていく」と言う公言通り、毎年他のクルマならば大改良並みの進化・熟成が行なわれてきた。
パフォーマンス向上は当然だが、それと並行してドライバーとの対話性がより濃密に変化した。つまり、血が通い始めたのだ。更にGT-RのGTの部分であるグランドツーリング性能もシッカリ引き上げられっていった。筆者がとくに印象に残るモデルは2011、2014、2017モデルだが、イヤーを重ねるにつれて「最強なのに優しい」クルマになり、「すげーぇ」から「好き」と言う気持ちが上回っていった。
もちろんGT-RのRの部分である速さへの追求も忘れていない。GT-R・NISMO(Nアタックパッケージ)は当時ニュル量産車最速となる7分8秒976を記録。更に2020モデルは国産車初の筑波サーキット1分切りも達成。ちなみにサーキット専用モデルと思われがちだが、ロード性能も高く筆者はアウトバーンで楽々300km/hドライビングを経験している。
登場から16年目、「本音を言えば大胆にフルモデルチェンジしてほしい」と思うが、その一方で「まだまだ引き出し……ありますよね?」と考えてしまう自分もいる。その証拠に2024モデルは、また予想以上に進化した。個人的にはもはや「好き嫌い」を超え、「日本の伝統芸能を絶やさないで」と言う気持ちのほうが大きい、そんな1台である。
山本シンヤ(やまもとしんや)/静岡県生まれ。自動車メーカー商品開発、チューニングメーカーの開発を経てモータージャーナリストに転身。「造り手」と「使い手」の気持ちを伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗る。AJAJ会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員