シボレー・コルベット・クーペ3LT 価格:8DCT 1400万円 試乗記
話題の新型コルベットが、ついに日本の道を走り始めた。コルベットは、1954年に1stモデルをローンチして以来、アメリカンスポーツの雄として名声を轟かせてきたレジェンド。2020年デビューのC8型と呼ばれるこの最新モデルで8thモデルになる。
新型コルベット最大のトピックは、歴代で初めて、ミッドシップ・レイアウトを採用したことである。
これまで連綿とFRレイアウトを取り続けてきたコルベットだが、過去にはそれ以外のレイアウトにチャレンジした形跡も認められる。このタイミングでミッドシップに刷新するという大英断に打って出たのは、トラクション能力や俊敏なハンドリングなど、FRレイアウトではブレークスルーが難しい様々な課題を一気に乗り越えるためだ。
大胆なリファインの結果は、プロホーションの大幅な変革をもたらした。コルベットのお約束とも言える極端なまでのロングノーズは影をひそめ、ルックスは典型的なミッドシップスポーツのそれ。低く短いノーズに始まるそのスタイルは、従来のイメージを完全に一新した。
大変身が市場でどのようにとらえられるかは興味のあるところ。新たなスポーツカーの登場ととらえれば魅力的だが、一方で「コルベットらしくない」といえば、その通りだからだ。コルベット=ロングノーズのFRスポーツカーと考える信奉者には違和感を与える可能性が高い。これまでのコルベットの伝統は、先代のC7では終止符を打った。C8はコルベットの歴史にとって、新たな1ページの始まりである。
C8のボディサイズは、全長×全幅×全高4630×1940×1220mm。幅の広さと全高の低さはただならぬオーラを発散し、派手なボディカラーも相まって街ゆく人の視線を集める。
ドライバーズシートへと収まる。目前に伸びるフード長はやはり歴然と短いのだが、一方でダッシュボードのボリュームが大きいことに驚かされた。パッセンジャー側と明確に仕切られた”1+1”デザインによるキャビン空間は特徴的。センターディスプレイは完全にドライバー側へと振られたデザイン。その仕上がりが余りに自然なためうっかり忘れそうになるが、C8は歴代モデル初の右ハンドル仕様。ここまで完璧な完成度だと、「左ハンドル仕様が欲しい」と意見を述べるのは、もはや全く意味がないことと思わざるを得ない。
2人のためのシート背後に8速DCTとの組み合わせでマウントされるのは、502ps/637Nmという大出力を発揮する、6.2リッターの自然吸気V型8気筒ユニット。この期に及んでOHVだから、余り上までは回らないんでしょ、と思われるかも知れないが、そんな予想に反してオーバー6000rpmまでピュンピュンと威勢よく回ってくれる。
6.2リッターの自然吸気と、この先どれくらい生きながらえられるかがいささか心配なスペックの持ち主だが、さしあたりどんなシーンからでも太いトルクが得られ、アクセル操作に対するレスポンスがシャープであることを大いに歓迎したい。もちろん、そんな強心臓に安心して鞭を入れる気持ちになれるのは、トラクション能力に優れたミッドシップ・レイアウトを採用した恩恵でもある。
新世代コルベットの走りで「これは今までとは全然違うな」と教えられるのは、ステアリングを切り込んだ際の挙動の軽やかさだ。これはもう、画期的と言えるほどに印象が異なる。巨大でいかにも重そうな心臓が、ノーズ下から後輪の直前へと住処を移したのだから、それも道理ではあるわけなのだが。
C8のハンドリング感覚には「軽快」という形容こそが相応しい。よもや6.2リッターという大排気量の心臓を積むモデルと連想するのが不可能なほどである。一方、そんな感覚の持ち主であるゆえに、ここでも「コルベットらしくない』というフレーズが当てはまりそうだ。軽快感も、このモデルに対する賛否が再度吹き出す部分かも知れない。
予想と期待を上回ったのが、全般的な快適性の高さ。日本仕様は、電子制御式の可変減衰力ダンパー”マグネティックセレクティブライドコントロール”を標準で採用する。ランフラットタイヤを装着するにもかかわらずその効用はバッチリ表れている。最もコンフォート志向の『ツーリング』のポジションはもとより、それより一段階ハードな『スポーツ』を選択しても、その乗り味は快適そのもの。路面を舐めるように走り抜けてくれる。
実用性もハイレベル。トランクスペースは前後に用意される。フロントはさほどではないが、リアのラゲッジスペースは思った以上のボリュームの持ち主。ミッドシップ・レイアウトのスポーツカーなのにそれなりのGTカー的要素も備えている。
C8コルベットはすべてが新世代。FRスポーツカーとして長い歴史の持ち主ゆえ、余りの激変ぶりに当初は戸惑いの声も聞かれるかも知れない。しかし、走りこみ、チェックを重ねるほどに「満を持してのミッドシップ化」であったことが理解を出来る、何とも気合の入った1台である。
グレード=クーペ3LT
価格=8DCT 1400万円
全長×全幅×全高=4630×1940×1220mm
ホイールベース=2450mm
トレッド=1630/1570mm
車重=1670kg
エンジン=6153cc・V8OHV(プレミアム仕様)
最高出力=369kW(502ps)/6450rpm
最大トルク=637Nm(65.0kgm)/5150rpm
WLTCモード燃費=未公表(燃料タンク容量70リッター)
サスペンション=前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=前:245/35ZR19/後:305/30ZR20+アルミ
駆動方式=MR
乗車定員=2名
最小回転半径=未公表
●主な燃費改善対策:未公表
●主要装備:Z51パフォーマンスパッケージ(ブレンボ4ピストンモノブロックキャリパー+大径ブレーキキャリパー+パフォーマンスエキゾースト+パフォーマンス・リアアクスルレシオ+電子制御LSD+フロントスプリッター&リアスポイラー+ミシュランパイロットスポーツ4Sランフラットタイヤ+強化クーリングシステム)/マグネティックセレクティブライドコントロール/ドライブモードセレクター(6モード)/フロントリフトハイトアジャスター/ローンチコントロール/フロント&サイドエアバッグ/サイドブラインドゾーンアラート/リアクロストラフィックアラート/リアパークアシスト/イエローペインテッドブレーキキャリパー/ヴィジブルカーボン製ルーフパネル(着脱可能)/クオッドエキゾーストテールパイプ/LEDヘッドライト/リアカメラミラー/12インチ・カラークラスターディスプレイ/ヘッドアップディスプレイ/パフォーマンスデータレコーダー/クルーズコントロール/コンパティションバケットシート/シートヒーター&ベンチレーション/ヒーター付き本革巻きステアリング/ハイグロスカーボンファイバートリム/ワイヤレスチャージング/デュアルゾーンAC/8インチ・タッチスクリーンディスプレイ/クラウドストリーミングナビ/Bose14スピーカーサウンドシステム
●ボディカラー:ラピッドブルー (op16万5000円)
※価格はすべて消費税込み
撮影協力:小田急・箱根レイクホテル