「電気自動車は完璧なまでに静かでクリーンです。匂いもせず、振動もありません。 充電ステーションの整備とともに、非常に便利な乗り物になるはずです」。そう語ったのは、誰あろうロールスロイス社共同創業者のチャールズ・ロールズ。しかも、それが1900年のことだったというのだから、驚かずにはいられない。早くから電気系エンジニアとして活躍していたロールズは、当時もっとも優れた電気自動車と称された“コロンビア電気馬車”を入手すると、冒頭で紹介した言葉を口にした。電気自動車がエンジン車に取って代わられる未来を予言したのである。
それから130年以上が経過した2021年9月、トルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOは「2030年までに初のEVを発売する」と公言。ロールズの予言を実行に移す計画を発表した。その後、彼らのマニフェストはさらに前進し、「2030年までに全ポートフォリオを完全なEVにする」という内容に改められた。
ただし、彼らがEV導入の理由と環境問題を完全に切り離して語っている点は、極めて興味深い。つまり、ロールスロイスにとってEV化は至高のスーパーラグジュアリーカーを生み出すための手段であって、走行中のCO2がゼロになることは、あくまでも副次的な結果に過ぎないのだ。
理想のスーパーラグジュアリーカーを追い求めるロールスロイスの到達点が、130年前に創業者が語った予言どおりだったというのは、なんとも興味深い巡り合わせといえる。