これまで100年以上に渡って進化・熟成を重ねてきた「内燃機関」だが、カーボンニュートラルをきっかけに大きな変革が求められている。新聞や経済誌では「電気自動車(BEV)にすれば解決」と語る人も多い。だが「いつでも、どこでも、誰でも」と言う部分で課題が山積している。つまり、内燃機関はまだまだ主役なのだ。ただ、昔と同じようにはいかない。
クルマ好きの話の中でよく出てくるのは「昔のエンジンは良かった」である。これは、エンジンの「特性」や「フィーリング」、さらに「音」などに関してだと思うが、筆者も同意する。確かに昔のエンジンは「個性」や「味」が濃かった。ただ、逆の視点で見れば「一点豪華主義的」な尖った性能だったともいえる。その昔、エンジンにもカテゴリーがあり、「スポーツ用」、「実用」など用途が明確に分けられていた。それは性能の両立が難しかったからである。
しかし、それらは技術の進化……バルブタイミング&リフト機構、ターボチャージャー、インジェクター高圧化&噴射技術、フリクション低減、吸排気系改善などにより両立可能になった。スポーツ性能に優れ、しかも実用的なエンジンは珍しくない。少なくとも、ここ20年くらいのエンジンで、「癖がある」、「扱い辛い」と言う物はほとんどない。とはいえ、そのフレキシブルさこそが、「最近のエンジンはつまらない」と言う話に繋がる要因なのである。
あるメーカーのエンジン設計者は「スポーツエンジンでも出力特性に段付きがなく滑らかな方が絶対に扱いやすいと思います。しかも速い。ですが、ユーザーはそれだと『変化感』が薄く満足してくれない。そこで、あえて出力特性に谷間を付けて盛り上がるような味付けにしています」と教えてくれた。性能面だけをみれば全域で滑らかなほうがいいところを、あえて変化を演出しているというのだ。「つまらないエンジン」のほうが実は高性能というのは、皮肉なものである。
加えて、「最近のエンジンはエンジン音がダサい」と言う声も聞く。これもエンジン設計者に尋ねると、「熱効率を高めると、燃焼音は耳障りな方向になります。逆を言えば、心地よいと感じるエンジン音は効率が悪い証拠(笑)」だと教えてくれた。
この辺りは非常に悩ましい所だ。技術の進化で効率は高まるが、逆に人間が「いいな」と感じる旨味は薄れる。官能と効率は両立しがたいものなのである。
これに輪をかけるのが「電動化」だ。直近の主力はハイブリッドだ。ハイブリッドでは「エンジンをいかに効率良く動かすか?」という点が求められる。その代表とも言えるのが、日産セレナの新世代e-POWERに組み合わされる「発電専用エンジン」。ハイブリッドでは、今まで以上にエンジンは「黒子」のような存在になりつつある。
このように見ていくと、「エンジンと対話する楽しさ」は将来的には消えてしまう可能性が高い。地球環境を考えると、それは不可避だ。だからこそ、今存分に味わっておいてほしいのである。まだまだ純粋なエンジン車の設定も多いし、トヨタ・デュアルブーストハイブリッドやルノーのE-TECH、さらには48Vマイルドハイブリッドのように電動車ながらもエンジンが主役のユニットも数多く存在する。
では、何を味わっておけばいいのか? それは、アクセルペダルを踏んだ時、モーターでは味わうことのできないエンジンの爆発で生まれる鼓動や人間味あるフィーリングだ。単に力強い/鋭いではなく、機械なのに「血が通っている?」と感じさせるフィーリング、音や振動、そして伸びの良さ、そして回すほどに力が増す感覚などをよーく覚えておいて欲しい。
ちなみにモーターの特性は、エンジンと比べ物にならないくらい変化させることが可能である。将来モーターが主力になる時代がやってくるが、各メーカーのモーターにも「味」が求められると思っている。どれを選択するか? その時、エンジンと対話した時のあの感覚が必ず役立つはずだ。