RENAULTアルカナR.S.ラインE-TECHフルハイブリッド 価格:429万円 試乗記
2022年、ルノーはフランス勢トップの販売台数を記録した。コロナ禍で市場が正常の状態でないとはいえ、首位の常連だったプジョーが前年比3割減だったのに対し、同12.4%の増加を果たしたのである。
好調なルノーを牽引する1台が、ニューカマーSUVのアルカナだ。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーでも、インポートカー部門で首位と僅差の2位に食い込み、存在感を発揮した。
ルノーのSUVというと、欧州ベストセラーのキャプチャーが知られている。アルカナはひとつ上のCセグメントで、クーペライクなフォルムをまとう。キャプチャーが比較的オーソドックスなデザインなのに対して、スタイリッシュさを強調している。SUVがマーケットの主流になる中でも、個性を明確にした存在だ。生産はルノーの韓国工場が担当する。
ラインアップは、ストロングHVのE-TECHフルハイブリッドと、マイルドハイブリッドの2種。今回は独自システム、E-TECHフルハイブリッド搭載車についてレポートする。
E-TECHは1.6リッター・4気筒エンジンと2つのモーターをつなぐドッグクラッチ・マルチモードATでシステムを構成する。アライアンス関係にある日産にはe-POWERというシリーズハイブリッドがある。だがE-TECHはルノー・オリジナルのHVだ。e-POWERは高速走行が主体の欧州には不向きなこともあり、開発がスタートしたという。
ポイントは、ドッグクラッチを活用したマルチモードAT。ドッグクラッチとは、軽量コンパクトな常時かみ合い式のクラッチ。モータースポーツで用いられることが多いのは、それだけ性能面でメリットのあるからだと認識いただければよいだろう。
Eモーター(メインモーター)と、HSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)という2つのモーターの出力は、それぞれ49psと20ps。いずれもスペック的にはそれほど大きくはない。ドライブしても驚くほどパワフルではないが、他にないダイレクト感のある走りを実現しているのがポイントだ。実現のカギはマルチモードATである。限られたパワーを有効に活用し、つながりもそれほど神経質でなく十分に扱いやすい。
ごく普通に市街地を流していると、EV走行する比率がかなり高いことが印象的だ。高速道路でも高い車速域までそのままEV状態が維持される。システムのポテンシャルをめいっぱい引き出して使い切っているイメージだ。
走っていて、いかにも効率がよさそうな感覚があるとおり、実走燃費もなかなかの数字をマークした。テスト燃費はカタログ値の22.8km/リッターを大幅に凌駕する26.3km/リッターである。
ドライブフィールは全体的にスポーティな味付け。アクセルワークにダイレクトに応答する加減速感に加えて、引き締められた足回りにより操舵に対する応答遅れも小さい。走りには一体感があり、それをどんなシーンでも味わうことができる。最低地上高が200mmもあるので、重心高はそれなりに高いはず。だが姿勢変化はほどよく抑えられている。ただしトレードオフとして、後席ではコツコツ感があり、曲がる際には横Gを強めに感じる。とはいえ運動性能を考えると許せる範囲。アルカナの、ドライバーズカーらしいセッティングは心地いい。
少々気になったのはブレーキフィールだ。積極的に回生している感覚があるのはいいのだが、あるところでカクンとなったり、張りついたようになったりと、減速度がコントロールしにくい。改善されるよう期待する。
内外装もスポーティな印象。クーペフォルムゆえ斜め方向を含め後方視界はそれなりに制約がある。フロントもウィンドウがかなり寝ているうえに、ダッシュ全体が高めで、フロントピラー付け根の死角もやや大きめだ。
ディスプレイに表示できる機能やインフォテインメント系も充実しているとはいえない。ハイブリッドのエネルギーフローの見せ方は、日本車に慣れた身にはシンプルすぎて物足りない。
一方で、方向指示器の音量が調整できたり、ウェルカムライトやウェルカムサウンドといった他ではあまり見かけないアイテムを装備するのはユニークだ。
ラゲッジルームは、外見から想像するよりも広い。床面の高さが選べるようになっているのも親切である。後席シートバックは2分割可倒式で、リアゲートは手動式。このクラスでも増えつつあるパワーテールゲートの設定はない。
アルカナE-TECHフルハイブリッドのプライスタグは429万円。惜しい点がいくつか見受けられるが、走りと燃費に優れた輸入SUVクーペが、国産車とさほど変わらない価格で購入できるのは、なかなか魅力的な話である。
総合評価/72点
Final Comment
ダイレクトで燃費に優れた走りが個性。フランスの今が体感できる輸入SUV
デザイン優先のクーペSUVゆえ、使い勝手の面で大なり小なり影響を受けるのは宿命。アルカナは比較的それが小さく抑えられている。乗降性は良好とはいえないものの、乗り込んでしまえば居住空間は十分。乗り心地で気になるところもあるが、ドライビングプレジャーは大きい。独自のE-TECHハイブリッドを組み合わせたパワートレーンはダイレクト感が高く、EV走行する時間が長い。燃費にも優れる。いくつかマイナス要因があって合計点数は伸び悩んだものの、選ぶ価値のある注目の1台だ。
グレード=R.S.ラインE-TECHフルハイブリッド
価格=マルチモードAT 429万円
全長×全幅×全高=4570×1820×1580mm
ホイールベース=2720mm
トレッド=フロント:1550/リア:1560mm
最低地上高=200mm
車重=1470kg
エンジン=1597cc直4DOHC16V(無鉛プレミアム仕様)
最高出力=69kW(94ps)/5600rpm
最大トルク=148Nm(15.1kgm)/3600rpm
メインモーター最高出力=36kW(49ps)/1677〜6000rpm
メインモーター最大トルク=205Nm(20.9kgm)/200〜1677rpm
サブモーター最高出力=15kW(20ps)/2865〜10000rpm
サブモーター最大トルク=50Nm(5.1kgm)/200〜2865rpm
駆動用バッテリー総電力量=1.2kWh
WLTCモード燃費=22.8km/リッター(燃料タンク容量50リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路=19.6/24.1/23.5 km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ディスク
タイヤ&ホイール=215/55R18+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=5名
最小回転半径=5.5m
主要装備:アダプティブクルーズコントロール(ストップ&ゴー機能付き)/レーンセンタリングアシスト/アクティブエマージェンシーブレーキ/360度カメラ/リアパーキングセンサー/ブラインドスポットワーニング/オートハイビーム/トラフィックサインレコグニッション/リアトラフィックアラート/前席&サイド&カーテンエアバッグ/LEDヘッドライト/プライバシーガラス/18インチアルミ/10.25インチフルデジタルインパネ/本革巻きステアリング/ステアリングヒーター/レザー&スエード調シート/前席電動調節機能&シートヒーター/アルミペダル/7インチマルチメディア(スマートフォンミラーリンク機能付き)/オートAC/アンビエントライト/自動防眩式ルームミラー/LEDマップ&ルームランプ/ルノーマルチセンス(走行モード切り替え)/オートライト/雨滴感知式ワイパー/電子制御ドッグクラッチマルチモードAT
ボディカラー:ブルーザンジバルメタリック