ポルシェ911GT3 価格:2438万円/日産GT-R・NISMOスペシャルエディション(2024モデル) 価格:2915万円 試乗記
世界的なスポーツカー、ポルシェ911。対して日本を代表する高性能車、日産GT-R。両車の関係性に浅からぬ因縁を感じ、精神的に意識し続けてきたのは日本代表のほうだろう。最新モデルはともに実用的なGTかつスーパーパフォーマンスの持ち主であるという点で、よく似た存在である。だが、それぞれを構成する要素はあくまでユニーク。それゆえ「対決の構図」もより興味深く、面白い。
「対決」の始まりはプリンスのスカイライン時代にまで遡る。GT-Rの先祖というべきスカイライン2000GTプロトタイプ(S54)が1964年、鈴鹿で開催された第2回日本グランプリにおいて、一瞬だがポルシェ904の前を走った。ドライバーは時代のヒーロー、生沢徹選手。結局レースはポルシェが勝利したが、この瞬間からスカイラインは日本のクルマ好きにとって憧れの存在となった。
初代スカイラインGT-R、ハコスカ時代のレース活動は日本限定。破竹の連勝劇を見せつけたが……井の中の蛙大海を知らずといった印象がなきにしもあらず。世界で活躍するポルシェ911やそれをベースとしたレーシングカーたちとは、比較する対象ではなかった。
R32に始まる第2世代のスカイラインGT-Rが状況を一変させる。主戦場は国内レースだったが、アンダーグラウンドの世界では日本の高性能車が初めて世界のポルシェ911(主にターボ)を相手に十分戦えることを証明し始めていた。
R32以降のGT-Rはコンピュータと排気系に手を加えたライトチューニングで百戦錬磨のポルシェ911ターボと互角に渡り合っていた。財力に物をいわせて向かってくる911ターボにローンで買ったライトチューンドのスカイラインGT-Rが勝負を挑み、 「勝負は時の運」という構図が出現する。
それでもまだ第2世代スカイラインGT-Rの時代では「アングラパワー」を必要としていた。ゆえにその評価は国内限定だった(いまでこそJDMの筆頭格として世界的に人気だが)。GT-Rの名が一躍、グローバルに通用するハイパフォーマンスカーとして認知されるようになったのは、「スカイライン」を潔く捨てて、まったく新しい高性能車として生まれ変わったR35GT-Rからだ。
シンプルに「日産GT-R」という名前に生まれ変わったR35は、ベース車両を持たないという点でそれ以前のクラシックモデルたちとは大いに異なる。新開発プラットフォームに専用のV6+DCT+4WDのパワートレーン、そしてまったく新しいスタイリングを与えられたGT-Rは、工場出荷のまま=ツルシの状態で世界と戦える初めての国産高性能車になった。
R35の目指した境地は、どこにあっただろうか。実は、その名がよく体を表していると思う。つまり、もはやスカイラインではなく、シンプルに究極のグランドツーリングカー(GT)であり、レーシングカー(R)になった。すべてを極めた存在として誕生したのである。
「スカイライン」を名乗ることは、ある種の妥協を許すことでもあったのだ。この場合の妥協とは、共通パーツが多い開発事情によるさまざまな制約のみならず、目指すパフォーマンスに自ずとスカイラインという名の枠組みができることを指す。コンセプト的な、言い換えれば無意識の限界である。
究極を目指した志は、GT-Rの強いボディによく現れている。精度高く作り込まれた専用骨格は、デビュー以来15年以上に及ぶ改良に応え続けただけでなく、世界に通用するパフォーマンスをこのクルマに与え続けてきた。21世紀に入ってからの高性能車シーンは、20世紀のそれに比べるとほとんど日進月歩の進化を遂げている。にもかかわらず15年もの長きにわたって第一線に君臨する「偉業」は、妥協なき基本骨格を持っているからこそだ。年々ブラッシュアップされ、2024年モデルではGT寄り(Tスペック)とR寄り(ニスモ)の究極を実現するまでに進化している。
一方のポルシェ911はどうか。水冷化されて以降の性能の進化といえば、マニアやクルマ好きが期待する以上の右肩上がりを続けている。近年、ボディの大型化に伴ってスタンダードモデルのGT化が著しいが、一方でターボやGT3のパフォーマンスは世界のスーパースポーツをつねにリードする領域に入っている。
1964年の誕生以来、911の基本コンセプトというべき実用とスポーツの相反する二律を総合的に同調させている点で、911はいまもなお911であり続けている。
911は、もはやRRであることさえ苦にしなくなった。否、ユニークなレイアウトをそのままに、その弱点を克服してきた長い歴史こそが911の魅力そのものだといっていいだろう。
911とGT-R。ともに6気筒エンジンを積み、実用(GT)とレーシング(R)、そしてスポーツ(S)の両立によって歴史を紡いできた。2台は、マニアの心を熱くする点で偉大な存在である。
グレード=911GT3
価格=7DCT 2438万円
全長×全幅×全高=4573×1852×1279mm
ホイールベース=2457mm
車重=1435kg
エンジン(プレミアム仕様)=3996cc水平対向6DOHC24V
最高出力=375kW(510ps)/8400rpm
最大トルク=470Nm(48.0kgm)/6100rpm
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:Ⓡマルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ=フロント:255/35ZR20/リア:315/30ZR21
駆動方式=RR
乗車定員=2名
最高速度=318km/h
グレード=NISMOスペシャルエディション
価格=6DCT 2915万円
全長×全幅×全高=4700×1895×1370mm
ホイールベース=2780mm
車重=1720kg
エンジン=3799cc・V6DOHC24Vツインターボ(プレミアム仕様)
最高出力=441kW(600ps)/6800rpm
最大トルク=652Nm(66.5kgm)/3600〜5600rpm
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ=フロント:255/40ZRF20/リア:285/35ZRF20
駆動方式=4WD
乗車定員=4名
最高速度=未公表