初めてドライブした「跳ね馬」はこの業界に入って取材で駆り出した512TRだった。V型180度の12気筒エンジンをリアに積んだBB〜テスタロッサ系の完成形。ハンドル中央の黄色い丸エンブレム越し、右足の操作に応じてオレンジのタコメーターが跳ねる様子を見て泣きそうになった。夢の叶った瞬間だった。強烈すぎるその体験が子供の頃からの「フェラーリを買う」という夢の実現に拍車をかけた。
人生最初の「自分の跳ね馬」は、何の因果かTRの始祖365GT4BB。でかいキャブレターを6つも装備した12気筒エンジンのフェラーリである。整備工場で目にした時には「えらいもんを買うてしもた」と心からビビった。こんな化け物のようなクルマ(当時、直前の愛車はビートだったから無理もない)を果たして維持していけるのか、まだサラリーマンだったから心底慄いていた。実際、サラリーマン時代には跳ね馬を飼えていたとは言い難かった。なにしろ乗ろうと思うと動かない。積載車で整備工場へ。戻ってくる。乗ったら乗ったでクラッチは重く、エアコンはなく、まさに重労働。しばらく放っておくとまたうんともすんとも言わなくなる。その繰り返しだった。要するに完調とはほど遠い状態だったのだ。フリーランスになってからようやくきちんと整備を施して性能を取り戻した。シャープに吹け上がる12気筒エンジンの、あのフィールは今も忘れられない。そして365は速かった。後のテスタロッサより速かったと思う。