メルセデスAMGと聞いて真っ先に思い起こすのが、3代目Cクラス(W204)に設定されていたC63のことである。
W204のC63は、排気量6.2ℓの自然吸気式V8エンジンを搭載。つまり、AMGの伝統を正しく受け継いでいたモデルといえた。そのエンジンの、驚くほどパワフルでありながらナチュラルなパワーの湧きだし方にも感銘を受けたが、私がなにより気に入ったのがそのステアリングフィール。当時の試乗記には、たしか「まるで路面を手のひらで直接なでているような感触」と記したはずだ。
このため、コンパクトボディに超高出力エンジンを搭載したアンバランスなクルマだったにも関わらず、自信を持ってドライブできた。しかも、乗り心地も許容できる範囲で、フルスロットルにしない限りエンジン音も不当にうるさいということもない。まさに、大人のためのスポーツセダンという仕上がりだった。
あれから10数年を経た昨年、試乗した最新のC63S Eパフォーマンスも忘れがたい1台となった。エンジンが直4に置き換えられたのは意外だったけれど、強力なハイブリッドシステムのおかげで、サーキットで試乗しても一切、力不足を感じない。それどころか、知的な電子制御システムや4WDがバツグンのスタビリティとコントロール性を実現。何の不安もなくドリフト状態に持ち込めた。一旦スライドし始めると手に負えなくなることが少なくなかったかつてのAMGとは大違いだと、深い感銘を受けたものである。