種類:V型 6気筒DOHC24V・VTEC
総排気量:2977cc
ボア×ストローク:90×78mm
圧縮比:10.2:1
最高出力:280 ps /7300rpm
最大トルク:30.0 kgm/5400rpm
※MT仕様の数値
初代ホンダNSX(1990〜2005年)ほど世界中のスポーツカーに大きな影響を与えた日本車はなかったと私は考えている。
運転しやすく、快適で、実用性が高く、そして壊れにくい。こうした、現代の自動車として当然の価値を、世界中のスーパースポーツーカーが追いかけ始めたのは、NSXが誕生したからだった。名作「マクラーレンF1」を生み出したかのゴードン・マーレイも、その開発に先立ってフェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニなど名だたるスポーツカーをテストしたうえで、「自分が目指すべきはNSX」と確信したとされるのは有名な逸話だ。
NSXでもうひとつ革新的だったのは、いたずらに大排気量/高出力のエンジンを積むことなく、3リッター・V6の自然吸気エンジン(後期型は3.2リッター)を搭載した点にある。この、軽量/高回転型エンジンがあればこそ、初代NSXの最大のセールスポイントだった総アルミボディの「軽さ」が際立ったといえる。
開発主査を務めた上原繁氏らは「世界トップクラスの走りを目指す」 ことを目標に掲げてNSXの開発に取り組んだ。だとすれば、ライバルと同じようにV8やV12などのマルチシリンダー、もしくはターボエンジンを選ぶのが自然だろう。けれども、ホンダの技術者は当初、4気筒2リッターエンジンを積むつもりだったという。それが開発の過程で3リッター・V6SOHCに切り替わり、最終的には3リッター・V6DOHC・VTECの搭載が決定。こうして誕生したのがC30(MT280ps/30.0kgm)であり、その排気量を3.2リッターに拡大したC32(MT280ps/31.0kgm)だった。
C30は最高回転数を8000rpmに設定。1気筒の容積が500ccもあるエンジンで8000rpmまで回る市販車用エンジンは、当時は存在しなかったとされる。これを可能にするため、チタンコンロッドや鍛造クランクシャフトなどのレーシングエンジン直系のテクノロジーを採用。組み立て時には気筒ごとの重量バランスまで揃えるというこだわりで、目標を達成した。
先日、2004年式のNSXタイプSに試乗した。正直C32は、最新エンジンに比べると吹き上がりは取り立ててシャープとはいえない。けれども、VTECを採用した効果で、全回転域で十分なトルクを生み出し、自然吸気ゆえに“ドライバーが読みやすい”反応を示してくれた。軽量ボディとあいまって、まるで手足のように扱える。その、クルマとの強固な一体感は、いま味わっても実に新鮮だ。
回転数を上げたとき、軽い「カサカサ」というメカニカルノイズが聞こえる点は、空冷時代のポルシェ911にも通じる。スロットルペダルを踏み込んだときにふわっと自然にトルクが立ち上がる点も、シュトゥットガルト製フラット6と似ているといえなくもない。
アルミボディに話題が集中しがちなNSXだが、その陰の立役者として、名機C30/C32の存在があることは忘れることはできない。