BMW・M3コンペティション(価格:8SAT 1350万円)/アルピナB3リムジン(価格:8SAT 1229万円) 試乗記
BMWの「M」と「アルピナ」。まるで違う存在だと思っているクルマ好きは多いだろう。
Mは本家の高性能ブランドが生み出すハイパフォーマンスモデル。かたやアルピナは独立系チューニングメーカーによる高性能コンプリートカー。何事にも「本筋」を好む日本では、前者のほうがより誇り高いブランドだと映るかもしれない。
けれども、アルピナ・ファンは知っている。アルピナがMに勝るとも劣らず由緒正しいブランドであることを。
そもそも黎明期におけるアルピナのエンジニアリングの巧みさに目をつけたのはBMWだった。アルピナ製チューニングパーツを正規ディーラーで販売しただけでなく、ワークス撤退後のレース活動をアルピナに任せた。Mモデルの事実上の始祖というべき1970年代前半に大活躍した3.0CSLなどは、アルピナの技術力なしには生まれなかった。
その後アルピナは、レースから手を引き、コンプリートカーメーカーに転身。現在までBMWと良好な関係を築いてきた。正式社名をBMWアルピナといい、エンブレムは同じプロペラデザイン。これが両社の間柄を端的に物語る。
Mとアルピナは、いわば同根。Mはその語源となったモータースポーツのイメージを大いに活用し、ピュアスポーツを開発し続けてきた。一方、アルピナには高性能かつラグジュアリーなイメージがある。レース界とすっぱり縁を切ったがゆえ、Mとは異なるハイパフォーマンスを目指してきたからだ。
21世紀に入ってもアルピナのコンセプトは変わっていない。Mは一時期、はっきりとラグジュアリー志向になった。メルセデスAMGの成功を見るまでもなく、高性能やスポーツ性が高級ブランドに欠かせない要素になってきたからだ。だが、それではアルピナのキャラクターに近づいてしまう。独自性さえ薄れかねない。そんな危機感もあったのだろう。最近になってMは、再びハイパフォーマンス重視路線へと舵を戻した。コンペティションやCSといった、一段とスパイシーなグレードの追加はその表れだ。
G80型3シリーズベースの最新モデル、M3とB3とを乗り比べると、互いのブランドの方向性が異なることがよくわかる。2台のエンジンはM開発のS58型3リッター直6ツインターボ。チューニング違いの同一エンジンだからこそ、クルマ全体のコンセプトが浮き上がる。スペックはM3コンペティションが510ps/650Nm、B3は462ps/700Nmを誇る。
見た目の違いは、そのままキャラクターの違いを表していた。M3はM4と同じ新時代のキドニーグリルを手に入れただけでなく、ボリュームを増したフェンダー処理と相まって、見るからにスポーツサルーンである。サーキットが似合う戦闘的スタイルだといっていい。対するB3はフロントスポイラーがちょっと派手で、独自デザインの大径アルミホイールが目立つ程度。定番のアルピナラインを消してしまえばスタンダードな3シリーズと見間違うほどだ。あくまで自然体で仕上げている。
運転すると、両車の印象は見たままに深まっていく。B3は最初のひと転がし目から「足の動きが極めて上質」だとわかる。薄く太いタイヤを履いた最新モデルながら、心地よさに驚いた。高速巡航になると、車輪の抵抗のなさと上下動のいなし方に惚れ惚れする。ロールスロイスが3シリーズを作ったらこうなる、といった風情だ。
M3コンペティションは、走り出した瞬間からスポーツカーである。硬くフラットな乗り心地は、高性能タイヤの存在をドライバーにリアルに伝える。かといって乗り心地が悪いというわけではない。がっちりと路面をつかんで離さないという印象だ。ステアリングフィールははっきりと機敏。レスポンスよく、左右に鋭くノーズを振る。ハコのスポーツカーとして極めて完成度が高い。
加減速のパフォーマンスは共に超一級だ。M3のほうが、サウンドもフィールもワイルド。B3は官能的なストレート6フィールが楽しめる。速さでいえば五分五分。だが、ドライバーはブランドそれぞれの特徴を、明確に感じる。
B3はスポーツも十分に可能な極上のGT。M3はグランドツーリングもいとわない至極のスポーツサルーン。ともにマニアを魅了するスーパーなBMWである。