ダイハツ・ハイゼット・シリーズ 価格:90万2000〜206万8000円 試乗記
軽商用車は、日本に住むすべての人々の暮らしを支える愛すべき存在だ。軽自動車規格のたび重なる変更を受けて、サイズもエンジン排気量も成長してきたとはいうものの、絶対的にコンパクトなボディや圧倒的に高い小回り性、そしてランニングコストの安さなどから「軽商用車でないと困る」というユーザーが多数存在する。いまでは、暮らしに密着した重要なカテゴリーとして独特の存在感を放っている。
一方、そんなマーケットに自身のモデルを提供するメーカーにとってみれば、求められる機能が限定的であるだけにライバルとの間で熾烈な競争を強いられるのは自明の理。実際、「選択と集中」という歴史的な経緯から、撤退を余儀なくされたメーカーは少なくない。そうした中で、いまだ強い存在感を示しているのがダイハツだ。
ダイハツが「働くマイクロコンパクトカー」として、ハイゼットを世に問うたのは、いまを遡ること実に60年以上も前の1960年。1stモデルはボンネット型トラックとして誕生し、翌年にはライトバンを追加。1964年デビューの2ndモデルからは、ドライバー席がエンジン直上に位置する、いわゆるキャブオーバー方式に進化した。以来、モデルチェンジを繰り返し、現行車はトラックが10th、ライトバンは11thモデルとなる。日本で60年以上続くブランドは少数派。ハイゼットはクラウンやスカイラインと並ぶ伝統の1台である。
そのハイゼットに大きな動きがあった。ライトバンのハイゼット・カーゴと、パーソナルユースを意識したアトレーが、実に17年ぶりにフルモデルチェンジ。同時に、農漁業や建設業などの分野で活躍する定番モデルのハイゼット・トラックにも快適装備を充実させるなど、大幅なリファインが加えられたのだ。
純粋なる道具として位置づけられ、それゆえ頻繁に買い換えられる車両でもないことから、購入に際しては、価格もさることながら使い勝手と信頼性はとくに重要な要因。同業者間による評判の「クチコミ」などもことのほか重要視されるのが、軽商用車ならではの特徴という。
こうした背景があり、新機能や新技術の導入には「どうしても慎重にならざるを得ない」という。ひとたびよからぬ評判が立つと、その影響は長期にわたり、「あのメーカーはココが弱い……」などと風評被害(?)が長く残るからだ。風評によって、たちまちライバルメーカーにシェアを奪われかねないと聞いた。
見方を変えれば、そんな軽商用車ならではの商慣習を承知のうえで、果敢に採用された新技術や装備は、メーカーが絶対の自信を持っていることの証でもある。最新のハイゼット・カーゴとアトレーに採用された商用車として初となる最新のプラットフォーム「DNGA」やFR車用CVTは、まさにそんなシナリオが当てはまる典型的なアイテムといえる。
試乗してみると、各モデルに共通して実感ができたのが、CVTを採用した効果。圧倒的にスムーズになった加速時のマナーである。加速力そのものは、64ps/91Nmのターボ付きエンジンを搭載したアトレーが、当然ながらダントツで、静粛性にも優れる。
一方、46ps/60Nmの自然吸気エンジン仕様も好印象だった。変速によるショックが皆無で、アップシフト直後の大きな動力性能の落ち込みを感じさせないというCVTならではの美点が全車で味わえた。
泥濘地などに踏み込む可能性が高いトラックの場合は、CVTならば変速に伴う駆動力の急変が解消される。それにより、スタックの可能性が低減するという副次的な効果も考えられそうだ。
またDNGAを新採用したアトレーやハイゼット・カーゴは、意外なほどにボディがしっかりした印象も受けた。
目立たないが実は軽商用車としては大胆ともいえるリファインによって、ハイゼット・シリーズの「はたらくクルマ」としての基礎体力は大幅に向上した。もちろん肝心の積載能力も圧倒的。プロツールとして実によく考えられている。生活を支えるクルマの魅力は奥深い。