提供:本田技研工業株式会社
開発者が語るホンダならではのハイブリッドシステムのこだわり
ホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム"e:HEV(イーエイチイーブイ)"は燃費効率のよさと、 走りの楽しさを両立していると好評だ。そのコダワリとはどこにあるのだろうか。
「効率と楽しさを両立するカギは、実は"エンジン"にあります」
本田技術研究所 パワーユニット開発統括部 榎本智行
<プロフィール>
ホンダ・e:HEV開発者の榎本智行氏。本田技術研究所 パワーユニット開発統括部所属。2004年に(株)本田技術研究所入社後、エンジン商品性開発に携わる。10年にHonda R&D Americas,Inc.に駐在し、電動車両の先行商品企画に携わる。15年、帰任後HEVパワートレインシステム量産開発を推進。18年からe:HEVシステム研究責任者に就任し現在に至る。
ホンダ電動化の歴史は大きく3世代に分かれる。
第1世代は1999年に登場した1stインサイトだ。軽量なアルミボディ、卓越した空力性能に加えて、直列3気筒1Lエンジンにモーターを組み合わせたパラレルハイブリッドシステム(IMAシステム)などにより、当時の世界最高燃費を実現していた。
その後、IMAは高出力化・高効率化が行われ、ホンダの主要モデルに水平展開。中でも2009年に登場した2ndインサイトは"ハイブリッドの普及"を目的に、戦略的な価格設定でも話題になった。さらにCR-Zはハイブリッドとスポーツという新たな世界を生み出した。
第2世代は2012年、走りと燃費を高次元で両立させる新世代パワートレーン技術"アース・ドリームス・テクノロジー"のひとつとして、クルマのサイズや個性に合わせた3種類のハイブリッドシステム(スポーツハイブリッドシステム)を新開発。小型車には1モーターのi-DCD、中型車には2モーターのi-MMD、大型車/スポーツモデル用は3モーター(電動AWD)のSH-AWDを設定し、各システムの特徴を活かしたモデル構成を展開した。
第3世代は2019年に登場した4thフィットから展開を始めたe:HEV(イーエイチイーブイ)だ。スポーツハイブリッドシリーズの中で最も可能性・発展性があるというホンダの判断により、シリーズ化の道を歩むこととなった。
システムの基本的な構造・考え方はi-MMDと同じだが、よりコンパクトで、より高効率、そしてよりドライビングファンを目指して、大きな進化を遂げている。
究極の効率を目指したe:HEVのこだわり
e:HEV開発を担当する榎本智行氏にシステムの特徴を聞くことができた。
「ハイブリッド専用エンジンと走行用・発電用モーター、パワーコントロールユニット、そしてリチウムイオンバッテリーを組み合わせたシステムで、基本はエンジンが発電用モーターを回し、その電力で走行用モーターがタイヤを回します。バッテリー残量があるときはモーターならではのスムーズかつレスポンスに優れたEVドライブモード、強い加速が必要な場合はエンジンを始動して発電用モーターを駆動、その電力を走行用モーターに供給して駆動を行うハイブリッドドライブモードに切り替わります。さらにe:HEVの特徴的なモードとして、エンジンドライブモードがあります。これは高速道路での走行などで、モーターの効率よりもエンジンの効率がいいと判断したときに、エンジンの軸と車軸を直結するためのクラッチをつなぎ、エンジンの駆動を直接タイヤに伝えるモードです。つまり、ふだんはシリーズ式ハイブリッド、必要なときにパラレル式ハイブリッドに切り替わるという仕組みです」
e:HEVはモーター走行を中心に、ドライブモードを最適に使い分ける
●市街地走行時
<EVドライブモード>
発進から通常のタウンクルージングは、走行用モーターの駆動力で走行する"EVドライブモード"が基本。エンジンを止めて走るので、ガソリンを使わずに電気自動車のようなスムーズな走りを実現。
●高負荷走行時
<ハイブリッドドライブモード>
力強い加速が必要な場合は、エンジンを始動して発電用モーターを駆動。その電力を走行用モーターに供給しながら走行する"ハイブリッドドライブモード"。よりパワフルな加速を楽しめる。
●高速走行時
<エンジンドライブモード>
高速クルーズ時はクラッチを直結しエンジンがタイヤを直接駆動する"エンジンドライブモード"。 アトキンソンサイクルでの高効率運転を最大限に生かした走行を行い燃費の向上に貢献する。
榎本氏は、ホンダならではのこのハイブリッドのこだわりを以下のように続ける。
「モーターは発進から低・中速域、エンジンは高速域が得意領域となります。両方の"いいとこ取り"をすれば全域で効率よく走れます。この発想がe:HEVの3つのドライブモードです。切り替えはクルマ側が走行状態に応じて最適なモードを選択します」
ちなみにエンジンドライブモード時も細かな制御が行われているが、これはほとんど知られていない。たとえばエンジンの駆動力が余剰だと判断された場合には、発電してバッテリーに電力を貯める。逆にエンジンだけでは駆動力が足りない場合は、モーターがそっとアシストを行っているのである。なぜ、そこまでこだわるのか?
「答えは単純明快で、すべてはエンジンを最も効率のいい状態で回すためです。ただ、効率のいいところだけで回してしまうと、エンジン回転と加速感にズレが生じてしまうので、効率とリニアなフィーリングを両立するような制御の作り込みをしています」
エンジンドライブ時の制御の切り替えは音の変化やショックもないため、ドライバーも同乗者も気づかない。メーター表示でパワーフローの項目を選択し、中央に小さな"ギア"のマークが表れたときに作動している。テクノロジーは人に気づかれることなく行うのがシステムとして優秀なのはよくわかるものの、個人的にはもう少しアピールしてもいいと感じた。それくらいさまざまな制御がリアルタイムかつシームレスなのだ。
e:HEVをひと言で説明するのは正直難しい。強いていえば"モーターとエンジンの美味しいところをリアルタイムで最適に制御して使うシステム"なのだ。
ホンダe:HEV搭載車一覧