ホンダ・ヴェゼルe:HEV・Z 価格:289万3500円 試乗記
人気の高いSUVはいくつもあるが、主役級と呼べる車種となると限られる。SUVの販売トップの座に何度も君臨し、モデル末期まで好調な売れ行きを見せた1stヴェゼルは、まぎれもなくその1台だった。
それを思うと、2ndモデルとなる現行型は少し元気がない。2021年度(4~3月)の販売台数は5万9674台。全体の9位にとどまった。月販目標の5000台を割り込んだ月も多く、フィット(5万5947台)は上回っているものの、フリード(7万3661台)には大差をつけられた。コロナ禍や部品供給などの事情があったのだろうが、ヴェゼルの場合は影響が大きいようだ。
とはいえ、クルマ自体の実力はかなりのハイレベル。高い完成度は、何度も実車に触れて確認済みだ。今回のテスト車は、販売主力のZグレード。FFと4WDを交互に乗り比べた。パワーユニットはe:HEV(ハイブリッド)である。
ボディサイズは全長×全幅×全高4330×1790×1590mm。旧型と大差ないものの、内外装のイメージは大きく異なる。やわらかな面と細部の造形によるものか、Bセグメントらしからぬ質感をアピールする。作りのいい印象は、新型の大きなアピールポイントだと、改めて実感した。
インテリアは、操作性もよく考えられている。スイッチや表示類は運転席から、ほぼすべて視認できるようにレイアウトされており、ドライブモードなどはわかりやすく、即座に直感的にコントロールできる。カーナビも実に使いやすい。
物理スイッチは、本当に必要なものだけに絞っている。その中でエアコン操作をダイヤル式としたのは見識だと思う。ダイヤルの操作感が適度に重いあたりも、上質さこだわった意図がうかがえる。風が直接的に顔に当たらないようにできる独自の空調吹き出し口など、細やかな配慮も見られる。
前方視界はおおむね良好。ダッシュボードが低く、Aピラー基点回りの死角も小さく抑えられている。左側のドアミラー下に付くサポートミラーはナイスアイデア。確実に役に立つ。後方視界も広い。斜め後方こそ、サイドウィンドウが薄いことの影響を受けているが、これだけ見えれば問題はない。
パッケージングはよく考えられている。クーペ的なフォルムと、リアドアのノブを目立たないデザインにしていることもあり、前席重視かと思えばそうでもない。後席の居住性は十分だ。頭上こそ身長170cmプラスのパッセンジャーが座ると隙間ができる程度だが、ひざ前はかなり広い。前席下への足入れ性も良好だ。シート自体も厚みがあり、しっかりしている。とにかくひとつひとつがよく考えられている。荷室も広い。ただし後席使用時のラゲッジ長は、旧型比で少し短くなった。
走りは滑らかさと静かさが印象的。このクラスの水準を超えている。e:HEVシステムは、フィットと同じ1.5リッター+2モーター方式だが、駆動用バッテリーのセル数が増やされ、モーター出力もアップした上級仕様。
動力性能の印象は、フィットとはだいぶ異なる。ヴェゼルは街中から高速道路まで、パワーは十分。街中ではモーター走行が主になるので、静粛性が高く、電動車感が強い。
FFと4WDを比較すると、後輪にも駆動力を配分する4WDのほうがやや出足が力強い印象。FFは軽快な味わいが気持ちいい。
足回りは適度に引き締まっていながらも、ストローク感がある。その点では、時間の経過とともに改善されたとはいえ、最後まで突き上げ感があった旧型とはずいぶん違う。
うねりのある路面を高めの車速で走ると、もう少し抑えが効いていてもいいかなと感じるが、総合的なバランスは良好。どんな道でも快適さをキープする。
ハンドリングは高水準。テストコースでFFと4WDを、全力で乗り比べた際には、操舵応答性やステア特性など4WDのほうが大幅によかった。だが、リアルワールドで普通に乗るぶんには、そこまで顕著な差はない。
では雪道を走る機会のないユーザーなら、FFで十分なのかというと、そうともいいきれない部分もある。
それは「走りの質」だ。ハンドリングだけでなく乗り心地についても、4WDのほうがしっとりしている。開発関係者によると、「乗り味としては駆動方式を問わず同じ印象になるようにチューニングした」という。しかし乗り比べると違いがわかる。4WDのほうが、ステアリングの据わりがよく、動きに一体感がある。
CDテスト燃費は、4WDが24.0km/リッター、FFは27.7km/リッター。ともにハイレベルだが、FFが大きく上回った。
販売比率は、圧倒的にFFが高いと聞く。FFでもヴェゼルのよさは十分に味わえることは間違いない。燃費性能も優秀だ。
ただし4WDとの「質」の差は、22万円の価格差を補って余りあるように思えたことを、お伝えしておこう。
総合評価:77点
Final Comment
すべてにそつがなく完成度が高い
ひとクラス上の味わいが魅力
採点すると、7点と8点が非常に多かった。まさしくそういうクルマ。いろいろな要素をまんべんなく、そつなく身に着けていて完成度が高い。他のメーカーがひとつ上のクラスで実現していることを、ホンダの場合はヴェゼルがメインSUVという事情もあり、この価格とサイズの中で達成した。素直に素晴らしいと思う。しかも乗ると、細かいところまでユーザーフレンドリーで、ひとつひとつ丁寧に作り込まれていることが伝わってくる
グレード=e:HEV・Z(FF)
価格=289万8500円
全長×全幅×全高=4330×1790×1590mm
ホイールベース=2610mm
トレッド=フロント:1535/リア:1540mm
最低地上高=195mm
車重=1380kg
エンジン=1496cc水平対向4DOHC16V(レギュラー仕様)
最高出力=78kW(106ps)/6000〜6400rpm
最大トルク=127Nm(13.0kgm)/4500〜5000rpm
モーター最高出力=96kW(131ps)/4000〜8000rpm
モーター最大トルク=253Nm(25.8kgm)/0〜3000rpm
WLTCモード燃費=24.8km/リッター(燃料タンク容量40リッター)
(市街地/郊外/高速道路:24.5/26.7/23.8km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:車軸式
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ディスク
タイヤ&ホイール=225/50R18+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=5名
最小回転半径=5.5m
主な燃費改善対策:ハイブリッドシステム/アトキンソンサイクル/アイドリングストップ/可変バルブタイミング/電動パワーステアリング
主要装備:ホンダセンシング(衝突軽減ブレーキ+前後誤発進抑制機能+近距離衝突軽減ブレーキ+歩行者事故低減ステアリング+路外逸脱抑制機能+渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロール+車線維持支援システム+オートハイビーム+先行車発進お知らせ機能+標識認識機能+オートハイビーム)/パーキングセンサー/ブラインドスポットインフォメーション/サイドカーテンエアバッグ/フルLEDヘッドライト/アジャイルハンドリングアシスト/ヒルディセントコントロール/マルチインフォメーションディスプレイ/コンビシート(プライムスムース&ファブリック)+専用インテリア/チップアップ&ダイブダウン機構付き6対4分割リアシート/前席シートヒーター/ステアリングヒーター/左右独立温度調節式フルオートAC/PTCヒーター/そよ風アウトレット/トノカバー/本革巻きステアリング+セレクトレバー/静電タッチ式LEDルームランプ/リバース連動ドアミラー/遮音&遮熱機能付きUVカットフロントウィンドウ/車速連動間欠ワイパー/バンパーロワーガーニッシュ/電動サーボブレーキ/AC用フル電動コンプレッサー/充電用USBジャック/LEDマップ&ルームランプ/本革巻きステアリングホイール&セレクトレバー/減速セレクター/VGR(可変ステアリングギアレシオ)
装着メーカーOP:ホンダコネクトディスプレイ+ETC2.0車載器+ワイヤレス充電器22万円/マルチビューカメラシステム+プレミアムオーディオ12万7600円
ボディカラー:メテオロイドグレーメタリック(op7万7000円)
※価格はすべて消費税込み ※リサイクル費用は1万2030円