ホンダ・ステップワゴン 価格:299万8600〜384万6700円 試乗記
ステップワゴンは、これまでモデルチェンジのたびに印象をガラリと変えてきた。最新6thモデルも例外ではない。まず外観が違う。複雑なラインで構成していた5thモデルとは、正反対。シンプルさを極めたイメージでまとめた。新型のグランドコンセプトは「♯素敵な暮らし」。それを体現したかのような、優しい雰囲気が印象的だ。ひと足先にモデルチェンジしたライバルが、「押し出し感」を強めたのとは対照的。実に興味深い。
ラインアップは、標準仕様のAIR(エアー)と、スポーティ指向のSPADA(スパーダ)の2シリーズ。スパーダには装備を充実させたプレミアムラインが新設定された。
注目はエアー。ベーシック版というよりも、「モダンな新個性」というイメージが強い。一段とシンプルな外見や明るい配色のインテリアなど、従来のミニバンとはひと味異なる味わいをアピールしている。
パワートレーンは主にエンジンで発電、モーターで走るe:HEV(ハイブリッド)と、1.5リッターターボを全車に設定。駆動方式はFFと4WD。ただし4WDは車両レイアウトの関係で1.5リッターターボのみになる。
ボディサイズは全長×全幅×全高4830×1750×1840mm(スパーダ/FF)。従来よりひと回り拡大され、全車3ナンバー規格になった。価格は299万8600〜384万6700円だ。
運転席に座ると、広々としていて、視界が極めて良好であることをすぐに実感する。死角が少ないだけでなく、ワイパーをはじめ気になるものが目に入らないように工夫されている。そのおかげで、より運転に集中できそうだ。
最新モデルらしく眼前に並ぶ大画面ディスプレイには、視界をアシストする機能が設定されている。マルチビューカメラシステムはプレミアムラインに標準、他グレードはメーカーopである。
3列目シートは旧型と同様、左右独立でたためる床下格納式。これはライバルに対する大きなアドバンテージである。一部ユーザーに非常に好評だった「わくわくゲート」は廃止された。少々残念だが、テールゲートが電動開閉式になったのは歓迎だ。
走りは大幅に進化していた。今回は市街地を模したテストコースでの試乗だったので、あくまで第一印象だが、全体的に洗練度が深まっていることがヒシヒシと伝わってきた。
e:HEVは、加減速のリニアリティが格段に向上。とても乗りやすく上質であることに感心した。旧型ステップワゴンのe:HEVを初めてドライブしたときは、そのスピード性能に驚いたが、同時に粗削りな面があった。新型は加減速のマナーがずっと洗練されている。
e:HEVシステムは2リッターエンジン(145ps)と2モーター(184ps)の組み合わせ。スペックを見ると従来の改良版というイメージだが、開発エンジニアによると、たとえばクランクを作り直して剛性を高め、ギアの歯幅を広げ、冷却技術の向上によりEGRの取り込み量を増やすなど、中身は「世代をひとつ新しくした」ほど変わっている。そのメリットで、より効率的でスムーズで静かな走りを実現した。加えてブレーキフィールにもほとんど違和感がない。
1.5リッターターボ(150ps)も実力は十分。ハイブリッドと比較すると数値的には分が悪いにもかかわらず、明らかに滑らかさが増していた。
フットワークも洗練されている。ステップワゴンは、いちはやく「低床」を掲げ、走りのよさを積極的にアピールしてきた。新型もその伝統をしっかり受け継いでいる。
プラットフォームは、従来モデルを大幅に改良。とくにサスペンションの取り付け部回りに補強を施し、高い剛性を確保。これでしなやかな動きに磨きをかけたという。また、トレッドの拡大でロールしにくくなったため、サスペンションをあまり硬くしなくても優れたロードホールディング性能を確保できた。これも新型の特徴だ。
ステアリングフィールは絶妙。戻す側をやや重くするなどの配慮が効いて、よりリニアで修正舵が少なくなっている。新型は操舵に対して一体感のある動きを見せる。
2〜3列目も快適である。室内長×幅×高は2845×1545×1410㎜。全幅の拡大は、もちろん居住性にも効いている。室内サイズは10mmとか20mm違うだけでもずいぶん印象が異なるものだが、まさしくそれだ。
2列目は従来型でやや見受けられた微振動が解消され、乗り心地は上々。足元のフロアがバッテリー搭載の影響で1列目にかけて斜めになっているのだが、足を置くのにちょうどよい。
自在に移動できる2列目キャプテンシートはナイスアイデア。クッション厚も十分に確保されていて座り心地がいい。スパーダ系はオットマン付きも選べるなど、「このクラスでここまでやるか」と思うほどだ。
3列目はワイド化の成果で横方向の余裕がアップした。そして足回りの改良やシートクッションの厚みが増したことで、乗り心地がよくなっている。これなら子育てファミリーが祖父母を3列目に乗せるときでも、快適に過ごしてもらえるに違いない。
静粛性も高い。1列目と3列目でも会話がしやすいことに驚いた。マイクで声を拾う機能もオプションで設定されているのだが、なくても十分なほど静かだ。
新型はシンプルで、上質な見た目からして、いかにも「#素敵な暮らし」を提供してくれる雰囲気を感じる。乗ってみて、まさしくそのとおりの仕上がりであることがうかがえた。日常のさまざまなシーンで使うと、よりその魅力を実感できるに違いない。