フェラーリのトラック向け特注オーナープログラム「XXプログラム」が公道走行車にも拡大展開。プラグインハイブリッドスーパースポーツのSF90ストラダーレとSF90スパイダーをベースとするXXモデルの「SF90 XX ストラダーレ」と「SF90 XX スパイダー」が登場。生産台数はストラダーレが799台、スパイダーが599台の限定
伊フェラーリは2023年6月29日(現地時間)、公道走行可能な初の「XXモデル」となる「SF90 XX ストラダーレ(SF90 XX Stradale)」と「SF90 XX スパイダー(SF90 XX Spider)」を発表した。
従来のフェラーリのXXモデルは、特注オーナープログラム「XXプログラム」から生み出されるサーキット走行専用車で、過去にはFXXや599XX、FXX-Kなどが登場している。そして今回、公道走行ができるスペシャルなXXモデルとして、プラグインハイブリッドスーパースポーツのSF90ストラダーレ/SF90スパイダーをベースとするSF90 XX ストラダーレ/SF90 XX スパイダーを設定した。フェラーリは今回のモデルを単なるSF90の限定モデルではなく、「フェラーリの新しい“XXシリーズ”」と公表している。
パワートレインに関しては、通常モデルのSF90に搭載する、リアミッドシップに置かれた3990cc・V型8気筒DOHCツインターボエンジンと8速DCTのトランスミッション、前輪左右に独立配置された2基のモーターとエンジンおよびギアボックス間に設置した1基モーター、総電力量7.9kWhの高性能リチウムイオンバッテリーで構成した4輪駆動のe-4WDをベースとする。エンジンは吸排気ダクトのポリッシュ化による効率性の向上や、燃焼室への特殊な機械加工と新ピストンの組み込みによって圧縮比を9.5から9.54にまで高め、最高出力は+17ps(797ps)、最大トルクは+4.0Nm(804Nm)を発生。また、モーターの最高出力は3基合計で+9kW(171kW)とし、システム総出力で+30psの1030psへと出力アップした。さらに、ホットチューブシステムの最適化などを図ってエンジンサウンドを再チューニング。8速DCTも変速ロジックを変更し、よりダイナミックな加速特性を成し遂げる。EV走行距離はベース車と同じく25kmを確保した。
ステアリングに配置したエレクトロニック・ビークルダイナミクス・モードセレクターの「eManettino(イーマネッティーノ)」によって、ドライバーは4つの走行モードを選択できる。まず「eドライブ」は、V8エンジンは停止したままで、駆動は前輪のモーターが担当。バッテリーがフル充電の状態から最大25kmまでの走行が可能だ。次に標準的なドライビングモードの「ハイブリッド」は、V8エンジンとモーターの稼働を制御ロジックが自己判断し、全体の効率性を最適化させる。3つめの「パフォーマンス」では、エンジンが稼働し続けると同時に、バッテリーは効率よりも充電を優先。よりパワーが必要であれば、瞬時に全体をフル活用する。そして4つめの「クオリファイング」では、システム全体が最高出力を発揮。制御ロジックはバッテリー充電よりもパフォーマンスを優先するという仕組みで、新機能のエクストラブーストも起動する。性能面では、最高速度が320km/h、0→100km/h加速が2.3秒を実現した。
足回りに関しては、前255/ZR F20/後315/30 ZR F20に軽量アロイホイールを装着。ビークルダイナミクスとしてeSSC(エレクトリック・サイドスリップコントロール)1.0も組み込む。また、制動機構には大型化を果たすとともに冷却効率を高めたブレーキディスクや、接触面を最大化して摩擦係数を引き上げたブレーキパッド、専用セッティングのABS“evo”を採用した。
エクステリアに関しては、「フェラーリのロードカー史上、最も効率性の高い空力パフォーマンス」を標榜する。最大のトピックはXXプログラムでの経験を元に開発した固定式のリアウイングで、シャットオフガーニーを新設計するとともに、LD(ロードラッグ)とHD(ハイダウンフォース)の2種類の配置を設定。LDでは可動エレメントが持ち上がり、固定セクションと整列して空気抵抗を最小限に抑え、前後方向のパフォーマンスを強化する。対してHDでは、可動エレメントが下降してブロウンエリアをふさぎ、気流が固定エリアに接触。こうして生成された過圧エリアがリアのダウンフォースを生み出すとともに、流れ込む気流を縦方向にそらして、車速250 km/hで315kgというリアの最大ダウンフォースの発生に貢献する仕組みとした。また、高温冷却サーキット用フロントラジエーターを配備すると同時に傾斜角を変更し、合わせてフロントボンネットやアンダーボディ、フロントバンパー下部のサイドルーバーを再設計して、空力特性と冷却性能をアップ。高温の気流を制御して車体上部へと導く2個のSダクトも配備した。さらに、サイズと幅ともにベース車より拡大したフロントスプリッターを組み込み、新設計のボルテックスジェネレーターとの相乗効果によって、車速250km/hでのダウンフォースを45kg以上増加させる。一方、サイド部では拡大したアンダースポイラーや、エンジンコンパートメントに到達する気流の拡大を整えるエアインテーク、ダウンフォースの発生とドラッグの低減に貢献するタイヤハウス後部のエアダクトなどを装備。そしてリアセクションでは、前述の固定式リアウイングに加えて新設計のディフューザーなどを採用することで、エアロダイナミクス性能を高めた。ボディサイズはベース車比で140mm長く、42mm幅広く、39mm高く、ホイールベースが共通の全長4850×全幅2014×全高1225mm/ホイールベース2650mmに設定。車重はベース車比で10kg減(ストラダーレ1550kg/スパイダー1660kg)を達成している。
インテリアについては、トラック向けという車両の使命を果たすよう、大きな軽量化をもたらす部分に絞ってコクピットを再設計する。主に軽量化を果たしたのはドアパネル、センタートンネル、フロアマットで、形状と素材をよりシンプルするとともに、高機能ファブリックを中心にしつつ、機能的な部分にはカーボンファイバーを使用した。ダッシュボード上部はアルカンターラを張り、一方で下部は高機能ファブリックでトリミング。いずれもレースシーンから着想を得てアレンジしている。また、ドアパネルはダッシュボードと繋がるくぼみを色の対比で強調。中央部の3つのルーバーはホイールアーチのエアベントと呼応し、全体でダイナミックかつ彫刻的な印象を生み出す。さらに、サイズを抑えて軽量に仕上げたセンタートンネルを採用。ここを占めるシフトゲートは、ベース車の配置よりセンタートンネルの中央、前寄りに設定し、合わせてウィンドウのスイッチとキーコンパートメントを第2の階層に配置した。そしてシートには、カーボンファイバー製チューブラー構造の骨格にクッションサポートを配した専用レーシングシートを装着。一見すると一体型のシートに見えるが、バックレストの角度調整メカニズムをシートに組み込み、伸縮性のあるトリム素材を使ってバックレストと座面の境界を隠すことで、一体型シートのようなシームレスなデザインを実現している。
スパイダーのコクピット周囲については、リアのフライングバットレスとフロントの矢のテーマとをよりシームレスに調和させたことが特徴。合わせて、車速45km/hまでは走行中でも14秒で開閉できるカーボンファイバー製のリトラクタブルハードトップ(RHT)と、同じくカーボンファイバー製のロールバーを装着している。
なお、生産台数はSF90 XX ストラダーレが799台、SF90 XX スパイダーが599台の限定で、ユーザーへのデリバリーはストラダーレが2024年第2四半期、スパイダーが2024年第4四半期を予定するが、すでに納車先はすべて決定済だという。