日産GT-RプレミアムエディションTスペック/価格;6DCT 1896万700円 試乗記
GT-R(R35型)は、2007年の登場以来ずっと存在感を発揮しつづけてきた。だが従来のままでは最新の騒音規制をクリアするのが難しく、「しばし生産の中断」が伝えられた。ところが、ちゃんと“次”の一手があった。
1月の東京オートサロンで披露された2024年モデルは、騒音規制に対応し、見た目の雰囲気がだいぶ変わった。2024年モデルの開発を主導した田村CPSは、音の問題への対応の難しさを伝えながらも、総合性能のアップに自信を見せていた。筆者はそのときから試乗を楽しみにしていた。GT-Rのステアリングを握ると、いつだって胸が躍る。
試乗車は、特別仕様車“Premium edition T-spec”。“T”は、時代を牽引するクルマであり続ける“Trend Maker”でありたいという思いと、しっかりと地面を捉えて駆動する“Traction Master”であるという考えに由来する。
あらためて実車と対面して、これまでのデザインに見慣れていたせいか、やや違和感を覚えた。それは明確に変化したことの証。もうしばらく時間が経過するとまた違って見えてくることだろう。
2024年モデルでは前後バンパーとリアウイングに空力性能を向上させる新たなデザインを採用。空気抵抗を増やすことなくダウンフォースを増加させたという。インテリアに大きな違いはないものの、専用に仕立てられたT-specのたたずまいはやはり印象深い。
VR38DETT型エンジンを始動する。アイドリング状態ですでに従来よりも明らかに音量が小さくなっていた。570ps/6800rpm、637Nm/3300〜5800rpmの最高出力と最大トルクを維持しながらも、走行時の不要なノイズと振動を低減した新構造マフラーの効果だ。メーカーは“綿密に調律された感性に響く、迫力ある新たなGT-Rサウンド”と表現しているが、まさにそれだ。印象をひとことで表現すると、“絶妙”がふさわしい。
これまでの車内に響く低い音も嫌いではなかった。クルマの性能は音で感じる部分もある。オリジナルのままそれなりに大きな音が聞こえるGT-Rは、音と走りのキャラクターがよくマッチしていたように思う。
それが、確実に静かになったのである。物足りなさを感じてもおかしくはない。ところが2024年モデルは音量を抑えつつも、アクセルを踏み込んだときには、加速に合わせてサウンドが盛り上がっていく。このあたりの調律は、“絶妙”。高性能車に乗っている感覚がきちんと味わえる。このサウンドチューニングは素晴らしい。
一方、全体的に静かになった結果、早朝や深夜の住宅街でも迷惑をかけなくなったのは確かだ。静かになってありがたいという人は少なくないと思う。
エンジンについて報告しよう。ここ何年か変更は伝えられていないのだが、乗るたびにフィーリングが向上している。2022年モデルでは、それまでよりもパワー感が増し、低回転域から伸びやかに加速するように感じた。2024年モデルは音の変化もあってか、吹き上がりが一段と滑らかになった印象が強い。
走りに特化したRモードを選ぶと、すべての隙間=ラグがなくなり、走りの一体感がさらに増す。Rモードは攻めて走るときだけでなく、公道を普通に走るにも向いているように思えた。
フットワークも絶妙である。2022年モデルのT-specに乗ったときにも感心したものだが、2024年モデルはいっそう洗練されていた。空力性能の向上は伝えられているものの、それだけでこんなに変わるとは思えない。
足回りはよく引き締まっているのに硬い印象がない。バネ下が軽く、路面の凹凸に合わせてよく動いてタイヤをしなやかに追従させる。車体をぶれさせることなくフラットな姿勢を保つのだ。2022年モデルはもっとハーシュネスがあった。だが2024年モデルは不快な印象が皆無。素晴らしい足に仕上がっている。
GT-Rは絶対的ともいえる性能で、多くの外国製高性能車を圧倒してきた。ただ上質な乗り味、という点ではポルシェやM、AMGに対して後塵を拝してきた。ところが2024年モデルのT-specは見事にライバルに追いついた。快適な乗り心地とともにドライブフィールのクオリティにおいても、いままでのGT-Rとは一線を画している。
加えて、ハンドリングの一体感も増している。ステアリングは軽く、それでいてしっかりとした接地感がある。GT-Rは速いが乗せられているような感覚と評されることが多かった。最新版は応答遅れや重さ感が払拭されていて、まさしく意のままに操れるようになっている。
実は、なんとか2024年モデルを買いたいと考えていた。だが、もう手遅れだ。それでも、このタイミングでこんなに大きく変えたからには、もうしばらく現役続行するのは確実。次の機会までに、なんとか購入資金のメドをつけておこうと、いま真剣に思っている。
グレード=プレミアムエディションTスペック
価格=6DCT 1896万700円
全長×全幅×全高=4710×1895×1370mm
ホイールベース=2780mm
トレッド=フロント:1600/リア:1600mm
車重=1760kg
エンジン=3799cc・V6DOHC24Vツインターボ(プレミアム仕様)
最高出力=419kW(570ps)/6800rpm
最大トルク=637Nm(65.0kgm)/3300〜5800rpm
WLTCモード燃費=7.8km/リッター(燃料タンク容量74リッター)
(市街地/郊外/高速道路=5.2/8.4/9.3 km/リッター)
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=フロント:255/40ZRF20/リア:285/35ZRF20+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=4名
最小回転半径=5.7m
※撮影協力:マースガーデンウッド御殿場