発売から間もなく10年を迎えるV37型スカイラインに、うれしいニュースがあった。1000台限定で2023年9月に発売予定のスカイラインNISMOと、100台限定で来春発売予定のスカイラインNISMOリミテッドが突如として発表されたのだ。両モデルは、過去から受け継がれるスカイラインのGTカーとしての資質に、NISMOならではのレーシングテクノロジーを融合。「より速く、気持ちよく、安心して走れる、究極のGTカー」を目指して開発された。
スカイラインは日本車の中で指折りの伝統を持つビッグネーム。誕生は1957年。名づけたのは日産と合併する前のプリンス自動車だ。多くの伝説に彩られたクルマである。
スカイラインはモータリゼーションの発展途上だった当時の日本車で、最初にGT(=グランツーリスモ)を名乗って販売されたクルマであり、のちに「スカG」の愛称で呼ばれるようになった。
誕生の経緯は、レースでの勝利。1963年に登場した2代目のS50型を、翌年開催の第2回日本グランプリのGT-Ⅱクラスに出場させるにあたり、本来の1.5リッター直4エンジンに換えて、グロリア用の2リッター直6エンジンを搭載することになり、突貫でフロントを延長したマシンを製作。乗用車でありながら純レーシングカーの強敵ポルシェ904の前を一時的に走ったことで、「スカG神話」が生まれた。
結果的にポルシェに敗れるものの、スカイラインは2位から6位を独占。見た目が乗用車のままにもかかわらず、中身は強力なエンジンを積んでいたことから、「羊の皮を被った狼」と称された。
翌年に正式発売されたスカライン2000GT(S54B-Ⅱ)のフロントフェンダーのGTエンブレムは赤く塗られた。それ以来しばらく、「赤バッジ」と呼ばれるGTバッジは高性能スカイラインの象徴になった。スカイラインNISMOには、車名やグレード名にGTは付かないものの、高性能、そして原点回帰の証として、赤バッジが与えられている。
初代に続く通称ハコスカは、GT-RがJAF公認レース50勝を挙げて「神話」に磨きをかけ、その後、1989年に復活したR32型GT-RはグループAレースで常勝マシンとなり名声を博した。
R32型が誕生したころ、日産は「P901活動」と呼ぶプロジェクトを進めていた。「901」とは、1990年に日産車の走りが世界一になることを意味し、当時は水を開けられていた欧州車の走りに追いつくことを目標に掲げた。この活動から生まれた日産車の中でも、とりわけR32型スカイライン(そして初代P10型プリメーラ)は高い実力を示し、世界的にも高く評価された。
21世紀を迎え、スカイラインは11代目のV35型でガラリと雰囲気を変えた。新世代グローバルプラットフォームを採用してV6エンジンを搭載。海外ではインフィニティの一員となる中堅セダンが日本ではスカイラインの名で販売されるようになった。
その後、2006年にV36型に移行し、2013年11月には現行のV37型が発表された。このころは、まだ日産の中にいくつもセダン系の車種がラインアップされていたが、ニーズの変化に伴い徐々に消滅。いつしかスカイラインは国内唯一のセダンとなった。
そんなV37型が現役10年を迎えるタイミングで登場したモデルが、スカイラインNISMOである。多くのファンを虜にしたスカイラインGT神話から60年を迎えるにあたり、「スカイラインの集大成」として送り出された。
スカイラインNISMOのコンセプトは、「より速く、より気持ちよく、安心して」。究極のスポーツセダンを目指して、もともとも強力なスカイライン400Rをベースに、各部に手を加えている。
ざっと挙げると、足回りはリアタイヤの幅を20㎜拡大し、前後のグリップ力を高次元でバランスさせた専用開発のハイグリップタイヤを採用。それをワイドリム化した軽量高剛性ホイールに組み合わせるとともに、サスペンションやスタビライザーに専用チューニングを施した。前後ウインドシールドは高剛性接着剤で接着し、車体剛性を向上させる手法(現行GT-Rと同じ)を用いたほか、空力性能と冷却性能を向上させる専用デザインのバンパーを装備している。
もともとレスポンスのよさと吹き上がりの気持ちよさが持ち味のVR30DETT型エンジンもしっかりと手が入っている。15psの出力向上および75Nmもの大幅なトルクの向上を図るとともに、専用のAT変速スケジュールを採用した。エンジンスペックは420ps/6400rpm、550Nm/2800〜4400rpmである。
テストコースで走らせると、まずはそのエンジンフィールに惹かれる。常用域のトルクの増大が顕著で、力強く盛り上がる中間加速とトップエンドにかけての豪快な吹き上がりが印象的。いかにも高性能スポーツに乗っているという醍醐味が味わえる。走行モードをSPORTおよびSPORT+モードに切り替えると、よりダイレクト感が増し、高回転を維持して走れるようになる。耐フェード性を高めた専用ブレーキパッドを採用したブレーキフィールも、キャパシティが高くコントロール性に優れる。
足回りで印象的だったのは、乗り心地のよさと軽快なドライブフィールだ。一連のシャシーチューニングをはじめ、タイヤがランフラットでないこと、バネ下の軽量化、空力性能の向上などが効いているに違いない。
ハンドリングも絶妙である。ターンインでは応答遅れなく俊敏に回頭し、リアのスタビリティとトラクションが十分に確保されている。立ち上がりでアクセルを踏み込むと小さな舵角を維持したままグイグイと曲がっていく。適度にロールするので挙動は把握しやすく、自由自在にイメージしたラインをトレースしていける感覚もあって、コーナリングは実に楽しい。
スカイライン独自のバイワイヤのDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)とのマッチングも上々で、自然で雑味のない操舵フィールとともに、しっかりとした接地感があり、より走りの一体感が高まっている。質の高い走りからは、いかに高みを目指したかがヒシヒシと伝わってきた。公道を走る機会が、いまから楽しみでならない。
スポーツカーの性能を持ったセダン、初代スカイラインGTは、1964年の第2回日本グランプリの勝利を目指して誕生した。レースではポルシェ904参戦のため、惜しくも優勝を逃したが、果敢にポルシェに挑み、1周とはいえトップを奪ったスカイラインは、真の勇者といえた。当初100台限定の予定だったGTの人気は沸騰。メーカーには正式販売を望む声が殺到する。その結果、1965年2月にカタログモデルの2000GT(S54B-Ⅱ型)が誕生。カタログモデルはウェーバー製キャブレターを3連装し最高出力125ps/5600rpmを実現。ブレーキもディスクを奢り、足回りも強化するなどレースでの経験をフィードバックした生粋の狼モデルとなっていた。GTバッジのカラーは赤。「赤バッジ」が高性能スカイラインの象徴となるのはこの時からである。その後、2000GTはホットなGT-B(赤バッジ)と、ジェントルなGT-A(青バッジ)に分化。日産と合併後の1966年秋には後期型に移行する。
グレード=スカイラインNISMO
価格=7SAT 788万400円 ※1
全長×全幅×全高=4835×1820×1440mm
ホイールベース=2850mm
トレッド=フロント:1540/リア:1560mm
車重=1760kg
エンジン=2997cc・V6DOHC24Vツインターボ(プレミアム仕様)
最高出力=309kW(420ps)/6400rpm
最大トルク=550Nm(56.1kgm)/2800〜4400rpm
WLTCモード燃費=未公表(燃料タンク容量80リッター)
(市街地/郊外/高速道路:未公表)
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ=フロント:245/40R19/リア:265/35Z19+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=5
最小回転半径=5.6m
※1/レカロ製スポーツシート&カーボン製フィニッシャー装着車:847万円