【注目モデル解説】11年ぶりにロータリー復活! マツダMX-30 R-EVはエンジニアの夢が結実した「努力のクルマ」だった!

マツダMX-30ロータリーEV。MX-30はBEV/マイルドHV/PHEVが選べる電動モデル。ロータリーEVは107㎞のEV走行可能距離を超える領域をロータリーで発電。長距離走行を可能にしたPHEV。価格は423万5000〜491万7000円

マツダMX-30ロータリーEV。MX-30はBEV/マイルドHV/PHEVが選べる電動モデル。ロータリーEVは107㎞のEV走行可能距離を超える領域をロータリーで発電。長距離走行を可能にしたPHEV。価格は423万5000〜491万7000円

830ccの新開発ロータリーでEVの可能性を大幅アップ

 私が「マツダの意地と執念が結実した結果」と説明したMX-30プラグイン・ハイブリッドモデルが正式デビュー。そのタイミングで広島で説明会が実施された。正式な製品名は「MX-30 ロータリーEV」、すでに2023年9月14日から予約販売が始まり、発売は11月初旬を予定している。ラインアップは標準シリーズと特別仕様の「エディションR」の2種。価格は423万5000〜491万7000円である。

ドア開けロータリー 注目のパワートレーン技術の正式名はe-SKYACTIV R-EV。ここでは「ロータリーEV」と呼ばせていただく。そのほうが言葉として端的で、実態をよく表していると考えるからだ。

 ロータリーEVのために開発された新型ロータリーエンジン「8C型」が排気量830ccの1ローターとなることは既報のとおり。ざっくりいえば、排気量はMX-30 ロータリーEVで必要になるエンジン出力から割り出され、1ローター化は熱効率ならびにパワートレーン全体のサイズを考慮して決められたもよう。内燃機の熱効率を高めるには、排気量に対する燃焼室の表面積をできるだけ小さくすることが好ましく、この場合、レシプロエンジンであれば1気筒当たりの排気量を大きくしたほうが有利になる。同様にしてロータリーエンジンでも1ローターあたりの排気量を大きくしたほうが熱効率は向上する。8Cでは熱効率の向上とコンパクト化を優先して1ローターが選ばれた(従来型の13Bは1ローターが654ccの2ローター構成)。

エンジン生産現場 原理的に振動が少ないロータリーエンジンとはいえ、従来型に対してローター自体が大きくなったうえに1ローター化されれば、大きなエンジン振動を発生する恐れがある。そこでマツダの技術陣は、生産部門と一体となってエンジンの振動抑制に努めることとなった。

 まずは鋳造段階での精度向上に取り組むと同時に、完成したローターのバランスを一基一基計測し、そのうえでバランスを整えるための調整加工(ローターの頂点近くを切削加工する)を実施することが決まる。さらに、この調整加工を自動化することで、職人技に頼っていた13Bに対して75%もバランス精度を改善。「大排気量」の1ローターでも振動レベルを必要十分なレベルまで抑え込むことに成功した。また、サイドハウジングをアルミ化して重量減を実現するとともに、アルミ化に伴う摩耗の心配を、摩擦面に高速フレーム溶射を施すことで解消。結果的にエンジン単体で15kg以上の軽量化を達成し、航続距離を伸ばすことに成功したと説明する。

 なお、1ローター化に伴ってエンジン全長を短縮。こうしてエンジン、ジェネレーター、モーターを同軸上にレイアウトしてもMX-30のフロントアクスル内に収まるコンパクト設計が実現できた。これにより、ロータリーEVを様々なモデルに搭載できる可能性が生まれたという。

狙いはBEVによる長距離移動の実現。ロータリーEVはマツダ技術最適化の現れ

 説明会では興味深い話題が多数紹介されたのだが、私自身は「マツダの意地と執念が結実した結果」という自説を補強するためのコメントを、マツダ技術者からなんとか引き出したいと願っていた。そこでインタビュー中に何度もチャレンジしてみたのだが、ある意味で、これは空振りに終わったような気がする。

 だからといって、マツダに「ロータリー愛」がないわけでは決してない。それどころか、専務執行役員兼CTOの廣瀬一郎氏は「ロータリーエンジンの灯は消さない」との思いを明言していたほか、8Cの生産が決まった際には、本社工場の従業員が歓声を挙げるほど喜んだというエピソードを耳にした。マツダにロータリー愛があることは、間違いないだろう。

2台並びインパネ その一方、MX-30の開発主査はロータリーEVについて「BEVに伴う長距離移動への不安を払拭するもの」と説明。ロータリーエンジンは、これを実現する手段に過ぎないと位置付けた。さらに、私が「マツダのエンジン生産部門で高精度な加工や組み立てにこだわるのは、ロータリーエンジンを作り続けるためではないか?」との主旨の質問をしたところ、生産部門の関係者は「必ずしも、それだけが理由ではない」と回答したのである。こうしたやりとりから、ロータリーEVは「マツダの意地と執念が結実した結果」とばかりは言い切れないとの思いが私の心の内に募っていった。

 なるほど、それはそれで事実だろう。いまマツダが置かれている立場を考えれば、「「ロータリー愛」だけでロータリーエンジンの存続を決められるほどシンプルで容易な環境」ではないことが浮き彫りになる。ロータリー復興に巨額な投資を行い、万一それが失敗に終われば、立ち直れなくなるほどの痛手を負う恐れがある。ロータリーEVを世に送り出す理由にしても、MX-30自体の商品力向上をはじめとして、さまざまな効果が期待できなければ経営陣の了承は得られなかったことだろう。

 であれば、そうした複雑な課題を乗り越えてまで、マツダがロータリーEVの市販にこぎ着けたことにこそ価値があるともいえる。MX-30ロータリーEVが成功を収め、マツダがロータリーエンジンを用いた「次の一手」に踏み出すことを、期待せずにはいられない。

マツダMX-30 R-EV主要諸元

エンブレムグレード=ナチュラルモノトーン
価格=489万5000円
全長×全幅×全高=4395×1795×1595mm
ホイールベース=2655mm
トレッド=フロント1565/リア1565mm
車重=1780kg
エンジン=830cc水冷1ローター(8C-PH型、レギュラー仕様)
最高出力=53kW(72ps)/4500rpm
最大トルク=112Nm(11.4kgm)/4500rpm
モーター最高出力=125kW(170ps)/9000rpm
モーター最大トルク=260Nm(26.5kgm)/0〜4481rpm
駆動用バッテリー=リチウムイオン
総電力量=17.8kWh
WLTCモードEV走行換算距離=107km
WLTCモードハイブリッド燃費=15.4㎞/リッター(燃料タンク容量50ℓ)
(WLTC市街地/郊外/高速道路:11.1/18.5/16.4)
サスペンション=フロント・ストラット/リア・トーションビーム
ブレーキ=フロント・ベンチレーテッドディスク/リア・ディスク
タイヤ&ホイール=215/55R18+アルミ
駆動方式=FWD
乗車定員=5名
最小回転半径=5.3m

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