アストンマーティン・ブランドの核心というべきDBシリーズが創立110周年およびシリーズ75周年という節目に新世代に移行した。
DB12のスタイリングは従来のDB11の進化版。ビッグマイナーチェンジという印象だ。だがメーカーによると8割以上のパーツが新設計という。中でもフロントマスクはヘッドライトからグリル、バンパーデザインまで一新された。彫刻的に張り出したリアフェンダーやフローティングルーフラインといったDB11の特徴は継承。リアから眺めた印象も11とほとんど同じだ。
見た目の変化は外装より内装のほうが明確。コクピット回りのデザイン変化はフルモデルチェンジ級。T字型のダッシュボードは骨太でシンプルかつ優雅。レザーの質感も相当に高い。デジタルメーターは小さい長方形でモニターだらけのドイツ車と比べる慎み深い印象。当初は物足りなくも思えたが、視界に入るデザインは抑えぎみのほうが心地よいことを試乗中に知った。
センター回りも一新されている。ボタン式のシフターはついにレバー式となり、大きめのモニターやスイッチ類とともにブリッジ型センターコンソール上に機能的に配置された。
心臓部はメルセデスAMG製のM177型V8ツインターボ。680ps/800Nmというハイスペックは、環境性能への適合性の低い自社製V12搭載を見送る理由にもなった。これに新たなギア比とキャリブレーションを得た8速ATを組み合わせる。
ドライブフィールはというと、完全にフルモデルチェンジ級だ。動き始めた瞬間からのステアフィール、アクセルの反応、微速域におけるアシの動き、エンジンの滑らかなフィールはDB11とは明らかに異なる。電動パワーステアリングのフィールはその際たるもの。思いどおりにドライブできるという点が新型DB12の美点のひとつだ。
DB11のV8もメルセデスAMG製エンジンを積んでいた。確かにパワフルだったけれども官能フィールに乏しいパワートレーンという印象が強かった。サウンドは勇ましいのに切れ味が悪かったのだ。ところが新型ではパワースペックの向上以上に、エンジンの「速さ」を感じる。実に情感豊かだ。同じ型式のエンジンとは思えない。
おそらくパワートレーン系そのものの進化に加えて、電動パワーステアリングやシャシー制御、ボディ骨格の引き締めが功を奏し、クルマ全体の反応が飛躍的に鮮やかになったからだろう。
ハンドリング性能の向上にも目を見張る。ノーズの曲がりが恐ろしく鋭くなった。アクセルコントロールのタイミングを遅らせても簡単に曲がっていく。アストンマーティンでコーナーが速い!と思った経験などこれまでなかった。
もちろん、ゆったり走らせてもまた心地よい。イタリア製グラントゥーリズモとはそこが違う。ドライバーを急かすことなく、心の余裕をもたせようとするクルマの導きは、ブリティッシュブランドの真骨頂である。
モデル=DB12
価格=8DCT 2990万円
全長×全幅×全高=4725×1980×1295mm
ホイールベース=2805mm
車両車重=1788kg
エンジン=4リッター・V8DOHC32Vツインターボ
エンジン最高出力=500kW(680ps)/ 6000rpm
エンジン最大トルク=800Nm(82.5kgm)/2750〜6000rpm
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ=フロント:275/35ZR21/リア:315/30ZR21
駆動方式=FR
乗車定員=4名
0→100km/h加速=3.6秒
最高速度=325km/h
前後重量配分=48対52