日本カー・オブ・ザ・イヤーの審査員を長きにわたって務める音楽プロデューサーの松任谷正隆さんは、本誌エッセイ(2024年2月号)の中で安全性を重視していたメルセデスの内装が「ある時期から様子が変わった」と記述している。それは「質実剛健さをアピールするのではなく、なんだか急にデザインコンシャスになったように感じた」のだという。
ここでは歴代Sクラスのインパネ写真を通じて、松任谷さんが「ボタンだらけになった」と表現するモデルから現在に至るまでのデザインの変遷を振り返ってみよう
6台のメルセデスがテストコースを走る様子は、2020年に最新Sクラスがデビューに合わせてメルセデス・ベンツが公開した歴代Sクラスの集合写真である。左から型式と生産年(メルセデスの発表による)を列挙すると、次のようになる。
・W140/1991~1998年
・W126/1979~1992年
・W112/1961~1965年
・223/2020年〜
・W116/1972〜1980年
・W108/1965〜1972年
W112型のインテリア写真は紹介できないのが残念だが、W108型からご覧いただこう。
今日的な視点でいえば、シンプルなデザイン。インテリア各部の作りは、工芸品のよおう。ウィンドウ周辺まで木目仕上げになっている。
このモデルからESV(実験安全車)の考え方が導入された。安全性を高めるためパッドが厚みを増し、ドアハンドルなど細部に至るまでを安全性に配慮したデザインで統一している。
センター部をパッドで覆った4本スポークステアリングは、メルセデス各車の伝統。
スイッチがだいぶ多くなっているが、中央部下段はオーディオユニット。
ジグザグのシフトゲートは前モデルと同様。ウインカーレバーとワイパーのスイッチを1本に集約して左側に配置するのはSクラスの伝統。
スイッチが増えたことは一目瞭然。W140型からドアミラーが両側リモコン式になった。W126型は助手席側だけリモコンタイプ。
ナビのディスプレイ付近に多数のスイッチを集めている。ステアリングに多数のスイッチが加わった。
メーターがそれまでのアナログ指針から液晶表示になった、
220型と比べてボタン類が減ったように見える。ナビのディスプレイと空調のアウトレットの上下位置が逆転している。
独自デザインのゲート付きシフトセレクターが姿を消したほか、インパネ中央付近に設置されていたハザードランプのスイッチがセンターコンソール側に移っている。
現行モデル(S500・4マチック)はインパネとセンターコンソールに配置する物理スイッチが減少して、ディスプレイに表示するタイプが増えた。
大型ディスプレイを搭載すれば、スイッチを配置する場所がなくなるともいえるし、物理スイッチでなくても対応しやすい操作系はディスプレイ表示にすることで大型画面が利用できるようになったともいえる。
メルセデスSクラスは、乗用車の到達点を示し続けるモデル。最新、かつ最善の思想を反映したハードウエア、デザインを世界のユーザーの提示している有りようは、時代を超えて普遍である。