マツダの音響エンジニア・若松巧二さんと、レコーディングエンジアの川澄伸一さんにうかがったお話は、12月3日(日)にマツダR&Dセンター横浜で開催されたファン感謝イベント(コンサートのもようはこちらから)の会場で取材させていただいた。
若松さんと川澄さんは、コンサート(1部と2部)の合間にトークセッションを行い、車室内の音響と録音した音源をどのように作品にまとめていくのかというそれぞれの専門家の立場から意見を交わした。
川澄さんは「イヤフォンは便利ですが、制作者の意図が伝わりにくい。空気を震わせていないので、奥行きが感じ取りにくい」のだという。自宅に理想的んばオーディオルームが作れる住宅環境に暮らしていれば別だが、一般的には自宅であまり大きなボリュームで音楽は楽しめない。クルマを運転しているときのほうが、音楽を聴いている時間は長いというドライバーは多いのではないだろうか。
もともとオーディオが趣味だった若松さんは、「音響システムを担当したい」という希望を持ってマツダに入社した。若松さん自身が理想と思える音響システムを搭載した実験車を会社の首脳に視聴してもらうと、大きな反響があった。首脳陣が次々と視聴し、マツダの新しい音響システムの方向性が固まっていったのだった。
そのアプローチが車両に搭載されたのは2019年に発売されたマツダ3から。従来はドアに搭載していたウーハーを、ボディ側(カウルサイド)に移設。容量3リットルのバスレフ型とすることが、おおきな変更点だった。ボディ側に装備しているので、ドアに埋め込まれているウィンドウレギュレーターやドアハンドルの影響を受ける心配がない。
この方法でクルマを作るとなると、生産工程の最初の段階でウーハーユニットを組み込む必要がある。この音響システムを装着するために、マツダはクルマ作りのプロセスを大幅に変更している。
安全・安心のドライブを快適に楽しむためには、理想的なドラインビングポジションの追求は重要だ。多くのジャーナリストは、マツダのドライビングポジション作りを高く評価しているが、快適なドライブのためには高品質なサウンドシステムで音楽を再生する心配りも大切である。ドライバーファーストを突き詰めていけば、サウンドファーストにもなる一例といえるだろう。
マツダ3のサウンドシステムを視聴した川澄さんは「いい音だと思いました。オールマイティな音。ハイハットの金属音が少し気になりましたが、ヒップホップの低域でも歪みが出ないでしょう」と語っていた。マツダ3はドライバーを中心に音場を定位させるモードがある。こうした設定を川澄さんは評価していた。
「専門家にご意見をいただけると励みになります」と若松さん。今後、マツダの音響システムに新しい動きがあれば、それは若松さんがチームの一員として努力した成果と考えてよさそうだ。