アウディは2026年から新たに発表するモデルをすべてBEVとし、2033年には中国を除いて内燃エンジンの生産を停止するという電動化戦略ロードマップを描いている。
そのアウディが2018年に初のBEVとして送り出し、2022年末までに約16万台を販売したe-tronをフェイスリフトし、ラインアップの頂点を示すQ8を車名に加えた。
新型は、メカはもちろん各部が大幅にグレードアップした。一充電当たりの走行距離が伸び、最大150kWの急速充電に対応。エクステリアがリファインされただけでなく、リサイクル素材の積極的な採用など話題満載だ。ラインアップは55と50の2タイプ。ボディタイプはHBスタイルの標準モデルと、クーペフォルムのスポーツバック(55に設定)が選べる。
BEVの肝となるバッテリー総容量は、上級の55が114kW。従来比で19kWh増した。これは、製造工程で生じる電極材の隙間を極限まで小さくするスタッキング方式の採用と、セル内の化学物質の配合見直しで、エネルギー密度を向上させた成果だという。一方、50には従来の55用の95kWバッテリーが搭載されている。
一充電当たりのWLTCモード航続距離は、55が従来比+78kmの501km、50は同+89kmの424km。航続距離の延長は、「バッテリー容量の増加とともに、空力性能やモーターの効率向上がもたらした」と説明された。
試乗車は、Q8スポーツバックe-tron。後席の居住性や荷室の広さを十分に確保した上で流麗なフォルムを実現した、アウディらしさがフルに味わえるモデルだ。
走りの印象は、すっきりスムーズ。今回の改良で、ステアリングギア比が15.8から14.6へとクイックにされるとともに、より剛性の高いアクスルラテラルコントロールアームブッシュを採用。シャシーコントロールは、ESCおよびブレーキ制御、電動シャシープラットフォーム、アダプティブエアサスペンション、ステアリングなど一連のチューニングが変更された。その効果は明確だった。
従来のe-tronを試乗したときも高い完成度に感銘を受けたが、Q8は走りの洗練度にさらに磨きがかかった。最も変わったのはステアリングフィールだ。クルマとの一体感が増し、身のこなしが軽やかに感じる。一段と気持ちよく走れるようになった。足回りもよく動いて路面からの入力による衝撃が伝わりにくくなっていた。
それでいて、2.6トンの車両重量を感じさせないようにしているわけではない。ある程度の重さ感を残すことで、クルマの挙動を把握しやすくしている。そのさじ加減は絶妙。おそらくシステムが4輪の駆動力を極めて緻密に制御しているのだろう。操縦安定性は極めて高く、自然な感覚でとても乗りやすい。しかも加減速のフィーリングはより滑らかになり、加速はいっそう伸びやかになっていた。変わったのは名前だけではない。むしろ中身の進化が明瞭である。
グレード=スポーツバックe-tron・55クワトロSライン
価格=1317万円
全長×全幅×全高=4915×1935×1620mm
ホイールベース=2930mm
トレッド=フロント:1645/リア:1645mm
車重=2600kg
モーター型式=交流同期電動機
モーター最高出力=300kW
モーター最大トルク=664Nm
一充電走行距離=501kz(WLTCモード)
駆動用バッテリー=リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量=114kWh
サスペンション=前後5リンク式マルチリンク
ブレーキ=前後ディスク
タイヤ&ホイール=255/50R20+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=5.7m